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2017年10月31日

焼却灰のリサイクルに関する欧州調査

特集 資源循環分野における次世代基盤技術の開発
【調査研究日誌】

肴倉 宏史

 廃棄物を適正な管理の下で焼却処理すると、有機成分はガス化され、無機成分を主体とする焼却灰が残ります。焼却灰は国によって様々なリサイクルが行われています。日本でのリサイクル方法の参考とするため、私たちは、欧州における焼却灰のリサイクル方法について調査する機会を得ることができました。本稿では、調査内容の一部を紹介し、今後、日本で取り組むべき方向を考えてみたいと思います。

 まず、日本の状況を確認しておきましょう。環境省の統計によると、2015年度は、一般廃棄物(主に、私たちが毎日排出する家庭系廃棄物)の総排出量44百万トンのうち、35百万トン(79%)が焼却処理されました。その結果発生する焼却灰は主に最終処分されており、2015年度に最終処分された一般廃棄物4.2百万トンのうち、3.2百万トン(76%)を焼却灰が占めています。処理責任のある市町村等の中には、最終処分場が少しでも長持ちするように、セメント工場に焼却灰を受け入れてもらったり、焼却灰を高温溶融してスラグ化し建設資材に利用する等のリサイクルを進めているところも多く見られます。

 それでは、欧州の状況を見てみましょう。調査はドイツ、スイス、オランダ、デンマークの4カ国を対象に、2015年と2016年の2回にわたって行い、全部で7箇所の焼却灰リサイクル施設を調査することができました。その結果、これらの施設では「焼却主灰」(焼却炉の底部から排出される灰)だけを受け入れており、日本のような特段大きな熱エネルギーは与えずに、灰粒子を物理特性等に応じて選別していることが明らかになりました。一方、「焼却飛灰」(集じん装置で捕集される粉じん状の灰)は有害金属の濃度が高いため、欧州では、主に、地下深くの廃塩鉱に入れて半永久的に保管されているとのことです。

焼却主灰搬入の写真
写真1 屋外ヤードに搬入された焼却主灰の様子(ドイツ)
焼却主灰の手元の写真
写真2 焼却灰から選別された、銅を中心とする非鉄金属(ドイツ)

 写真1はドイツ・フランクフルト近郊の工業団地内にある焼却灰リサイクル施設へ搬入された焼却主灰です。灰とともに、大きな金属や岩のような塊がたくさん混ざっています。施設の方の話では、100kgの廃棄物を燃やすと20kg程度の焼却灰(つまり、燃えない成分)が残るそうです。因みに日本では10kgを下回るのが普通なので、日本の方が、焼却前の分別はしっかりされているのかも知れないと思いました。この施設では、焼却主灰は屋外に保管されていました。細かな灰粒子の飛散による近隣環境への影響がやや心配ですが、工業団地ということで、少し許容されているのかも知れません。なお、調査した7施設中4施設は、写真のように、受け入れた灰の一時貯留場所は屋外にありました。焼却灰はショベルローダーで投入口へ運ばれて、コンベアを経て破砕機へ投入されます。次いで、篩(ふるい)によって幾つかの粒度範囲に分類されて、その粒度ごとに、磁力選別や渦電流選別等の様々な選別装置を経て、鉄、非鉄金属、焼却灰粒子(“ミネラル”と呼ばれる)等に選別されます。さらに、非鉄金属は重液選別によって比重の軽いものと重いものに選別されます。軽いものは主にアルミニウムで、重いもの(写真2)には、銅を中心に金や銀等の貴金属も少々含まれているそうです。鉄と非鉄金属は、焼却灰100kgからそれぞれ6kgと3kgが回収され、それらの売却によって収益を得ているとのことでした。ミネラルは、現在は最終処分されていますが、建設資材としてのリサイクルを目指しているそうです。ただし、焼却主灰は焼却飛灰よりは少ないながらも有害重金属を含むため、建設資材としてリサイクルするには環境安全性に注意が必要です。有価金属を選別回収すると、それに併せてミネラル中の有害重金属の濃度も減少すると考えられるので、このようなプロセスは一挙両得の側面があるかも知れません。

スイスの施設の写真
写真3 焼却主灰選別施設の様子(焼却灰搬送コンベア)(スイス)
選別装置の写真
写真4 エアテーブル選別装置(スイス)

 写真3と写真4は、スイス・チューリッヒ近郊の焼却灰リサイクル施設で撮影したものです。この施設では、5箇所の焼却施設から焼却灰を受け入れています。その中の1施設はこのリサイクル施設に隣接していて、直接、コンベアで灰が搬送されています。最も遠い施設は200km離れており、灰を専用のコンテナ入れて貨物列車を利用し輸送しています。焼却灰は、普通、焼却炉から排出直後に水槽に落として冷却するとともに粉じんの発生も抑えます。しかし、この施設では、一度も水に漬けていない乾いたままの灰だけを受け入れています。灰が水で濡れると、灰粒子がお互いに固着して金属分離回収の効率が低下するからだそうです。そこで灰の輸送や選別工程中の粉じん発生対策として、全てのコンベア(例:写真3)や選別装置(写真4)をカバーで覆い、内部を陰圧にしています。こちらの施設でも、焼却灰は、最終的に、鉄、非鉄金属、ミネラル等に選別されています。

 この他、デンマークやオランダの施設も含めて、私たちが調査した施設は、破砕、篩別、磁力選別、渦電流選別、エアテーブル選別等の選別処理の基本的な技術は同様のもののようでしたが、灰の含水状態や粒度区分など、詳細に見れば多くのノウハウが施設ごとに詰まっているようでした。欧州焼却施設連合(Confederation of European Waste-to-Energy Plants)の報告書によれば、さらにベルギー、フランス、ポルトガル、英国、スペインでも、このような焼却灰のリサイクルが進められているそうです。なお調査に同行していただいたドイツの研究者によると、ドイツには廃棄物の焼却施設が約100カ所、灰のリサイクル施設は、規模は様々ですが約40カ所存在するそうです。ミネラルの建設資材リサイクルに関しては、天然の資材が豊富な内陸部では規制が厳しい傾向にあり、北の平野部では積極的に利用する傾向にあるそうです。ミネラルは主に路盤材や最終処分場内のドレーン材や覆土材に利用されています。一方、スイスの研究者の方によれば、スイスではミネラルの建設資材利用は法律で禁止されており、最終処分しなければなりません。そこで、将来の建設資材利用を目指して、ミネラルの環境安全性や物理特性に関する研究に取り組んでいるとのことでした。

 翻って、日本の焼却灰リサイクルについて考えてみたいと思います。セメント原材料化や溶融スラグ化は、多くのエネルギーを必要としますが、処理によって得られるセメントや溶融スラグの環境安全性は十分に高いと思われます。一方で、欧州のような焼却灰の選別処理はそれほど多くのエネルギーを必要としないことから、日本においても検討してみる価値は十分に高いと思われます。焼却施設やリサイクル施設の立地場所や位置関係も様々であることから、施設毎、地域毎に、リサイクル方法の最適解があるのではないかと思います。ただし、金属回収後のミネラルの環境安全性や物理特性については、慎重な評価が必要でしょう。建設資材としてリサイクルされた後のミネラルのトレーサビリティーの確保やモニタリングも重要であると考えます。

(さかなくら ひろふみ、資源循環・廃棄物研究センター 循環利用・適正処理処分技術研究室長)
 

執筆者プロフィール:

筆者写真

囲碁でいうところの「本手」となるような研究を積み重ねれば、目指すゴールも着実に近づいて来ると信じています。

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