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2017年10月31日

都市における飲食店廃油脂からのデュアルバイオ燃料製造

特集 資源循環分野における次世代基盤技術の開発
【研究ノート】

小林 拓朗

 飲食店や食堂等から発生する厨房排水には、私たちの家庭から出る生活排水と比較して高濃度の油脂が含有されているので、建築基準法関係規定や下水道条例等により店舗ごとにグリーストラップ(阻集器)の設置が義務付けられています(図1)。例えば環境省環境技術実証事業の報告書によれば、平均300食程度提供しているラーメン店において、厨房シンクからの排水中のn-ヘキサン抽出物質濃度(油分濃度を表す)が平均約6 g/L、1時間あたりのn-ヘキサン抽出物質排出量が平均1.2 kgというデータがあり、これだけの量の油脂がグリーストラップに流れ込み、蓄積していることになります。グリーストラップの性能を維持するためには定期的な清掃が必要で、蓄積物は一般的に産業廃棄物としての処理が求められるので、飲食店等では処理にかかる費用や管理の煩雑さに嫌悪感を持ち、十分な維持管理ができないあるいはしていないケースがあります。このことが原因で汚濁物質の流出や悪臭、管路閉塞等が引き起こされています。統計的なデータとしては、例えば英国では年間24,750件もの閉塞事故が発生していると推定され、そのほとんどが油脂に由来するとされています。グリーストラップ内で浮上し蓄積する廃棄物(浮遊廃グリース)は油分や食品カスが濃縮されたものであり、バイオ燃料の原料として高いポテンシャルが期待できます。私たちは、その燃料化はグリーストラップの清掃と廃棄物回収にも動機付けを与えることができると考え、廃グリース燃料化のための研究に取り組んできました。以下では、浮遊廃グリースから効率よく燃料化を進めるための技術的検討について紹介します。

図1 飲食店厨房における排水設備の模式図

飲食店から回収された廃グリースの特徴

 廃グリースの回収方法には、グリーストラップ内容物全体のバキューム回収、浮遊グリースと堆積物のみの手作業回収、浮遊油脂の専用機材を用いた回収の主に3種類があります。都心部では限られた店舗面積のために厨房内にグリーストラップが設置されることから、浮遊廃グリースが手作業で回収されることが多くなります。私たちは、様々な種類の飲食店舗において産業廃棄物回収業者によって手作業で回収された廃グリースを調査してきました。表1は、各店舗から回収した廃グリースサンプル中の油分を様々な分析項目に基いて分類した結果で、数値はそれぞれの油分の代表的な性状や分離特性に関する指標を示しています。表1では似通った特徴を示すサンプルを5つのグループに分類しています。廃グリースに含まれる油分は、中性脂肪(3分子の高級脂肪酸がグリセリンと結合したもの)とそれの加水分解により生じた遊離高級脂肪酸で構成されていました。油分の物理化学的性状は、店舗で使用されている食材や食用油の種類だけでなく、中性脂肪の加水分解の程度や高級脂肪酸の種類によっても大きく変動します。そのため、メニューの違いや調理方法、管理状態、清掃頻度等の違いが油分の性状に影響を与えていると考えられます。解析の結果、油分の特徴に関わる分類を決定づけるのは、油分の固化に関連する項目と劣化に関連する項目でした。例えばフランス料理やラーメンのサンプルが属する緑枠グループの油分は、遊離脂肪酸割合や過酸化物価等の劣化指標は低い一方で脂肪酸の飽和度が高く(つまり動物性脂肪分が多い)、液化する温度は30℃以上でした。ラーメン店等は、排水と共に流出する油分が固化して排水管の閉塞を起こしやすいことが知られていますが、得られた液化温度からそれも納得できます。逆に和風食堂やポルトガル料理サンプル等が所属する赤枠グループの油分は、液化温度が非常に低く、室温ではほとんど液体でした。居酒屋サンプルが多く所属する青枠グループの油分は、液化温度は中程度で遊離脂肪酸割合が非常に高い結果となりました。

 廃グリース中の油分は液化度合いが高いほど水や食品カスと分離しやすいことが明らかでしたので、廃グリースを加温したところ、表1のすべての液化温度を上回る50℃以上でどのような油分であっても液化し、油分を分離・抽出できることがわかりました。その結果、一部の油分は、水・食品カスと一体(エマルション形成)となって留まっていましたが、廃グリースに含まれる油分全体の8割以上はほとんどのサンプルにおいて回収することができました。一方で、抽出後の残さ分を分析してみると、炭水化物・タンパク質・油分からなる有機物濃度は約10%で湿式メタン発酵(液状の原料をタンクで撹拌しながら発酵する方法)の投入原料として典型的な水準であって、エネルギー回収に適した組成であることが確認されました。

表1 廃グリースサンプル中の油分の性状に基づく分類と液化・抽出特性

飲食店廃グリースからの燃料生産

 上の調査を踏まえて、私たちは50℃以上の加温による油分の液化・抽出と残さのメタン発酵による液体と気体のデュアル燃料生産の試験を行いました。まず、図2で示されているような自動分離装置を使って、7~10店舗分の浮遊グリース約100 Lを加温分離し、油分の抽出と残さの回収を機械的に行いました。4回の試験結果から、廃グリース中の油分は81~93%程度抽出が可能で、それは廃グリース全重量の平均35%に相当することがわかりました。抽出された油分は動粘度約20 mm2/s、残留炭素分0.4%未満、水分量0.4%未満、灰分量0.01%以下、硫黄分はほとんどなしでした。例として、JIS規格におけるA重油(軽油に近い低粘度の燃料)は動粘度20 mm2/s、残留炭素分4%以下、水分量0.3%以下、灰分量0.05%以下、硫黄分は2.0%以下です。したがって、抽出油分はA重油水準の品質でした。それ以外にも、微量金属濃度などは廃食用油と遜色ない水準で、高純度の油分が機械的に再現性のある方法で抽出可能であることがこの試験から示されました。

図2 廃グリース分離の仕組みと回収が期待できる燃料量

 一方で油分抽出後の残さは廃グリース全重量の平均65%を占め、COD濃度(水質汚濁物質濃度を示す値)が平均153 g/L、全窒素濃度が平均1.8 g/Lで、ミネラル分はやや不足していましたが、メタン発酵を行う微生物の生育に適した栄養素の組成であることが確認されました。メタン発酵によるメタン生成のポテンシャルは有機物分1 gあたり700~1000 mLであって、家畜排泄物の約3倍、都市ごみ有機成分の約2倍程度の高い値を示しました。しかしながら、有機物分に占める油分の割合は50%以上と高く、連続的な処理を行う際には油分由来の物質が微生物の働きを阻害することが問題となります。直接的に阻害を引き起こす物質は、油分の加水分解に伴い生成してくる高級脂肪酸で、わずか6 mmol/Lの高級脂肪酸に6時間程度暴露された場合でも、メタン発酵微生物の活性は半分まで低下することがわかりました。私たちは、高級脂肪酸濃度をモニタリングするセンサーの開発や微生物に対する無害化のための処理を施すことで約1年間の連続的な処理が可能であることを確認しました。

 このような研究結果を踏まえて、図2に示されているように浮遊グリース100 Lあたりから平均35 kgの油分と3 m3のメタンが回収可能であるという結論に至りました。私たちが過去に行った試算では、関東圏域で年間約14万トンの浮遊グリースが発生していると見込まれます。それに対して本手法を適応すると考えると、4.9 万トンの油分と420 万m3のメタンが回収されることになります。これらが重油の利用を代替すると仮定すると、CO2排出量が14万トン程度削減される計算になり、同地域で廃食用油全量をバイオディーゼル燃料化して軽油代替とした場合よりも大きな削減量が期待できます。このように、廃グリースの燃料化は冒頭で述べた都市環境への油脂の排出抑制への寄与だけでなく、油系廃棄物からのエネルギー生産手法としても従来取り組まれている手法に匹敵するポテンシャルを有しています。現在、私たちはさらに燃料製造コストを安くしつつ、環境保全にも大きく貢献できる資源化・実証シナリオを検討しています。

(こばやし たくろう、資源循環・廃棄物研究センター 国際廃棄物管理技術研究室 主任研究員)

執筆者プロフィール:

この研究に取り組みはじめてから日々の食事の食べ残し、とくにスープ系については思うところがあります。例えばラーメンの残り汁、飲み干すべきか捨てるべきか、捨てるとしたら排水口は避けるべきでは…等。