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2012年8月31日

都市・地域内の人口分布パターンの変化を分析する

【シリーズ先導研究プログラムの紹介: 「環境都市システム研究プログラム」 から】

松橋 啓介

 平成23年度から先導研究「環境都市システム研究プログラム」のプロジェクト2「環境的に持続可能な都市・地域発展シナリオの構築」に取り組んでいます。この課題では、都市あるいは地域の内部での人口分布に着目して、環境面から見て望ましい発展の姿を提案することを目指しています。

 人口や活動の密度が過度に高い都市は、混雑等の非効率な状態が生じやすい場合があり、そこから生じる環境汚染物質の濃度が高く、またそれらの影響を受けるばく露人口が多くなる場合がある等、環境面から見て望ましくないと指摘されてきました。その一方で、近年では、人口や活動を駅周辺等に集約することで、効率的で省エネルギー型の地区や都市を形成したり、環境影響を受けやすい地域への立地を避け、脆弱な自然地域を保全すること等が期待されるようになっています。しかし、これまでの環境面から望ましい人口分布をモデル的に解析した例では、極端に分散した姿や極端に集約した姿が提示されており、具体的に目指すべき姿やその達成年次および過程が明らかではないため、都市計画等へはあまり活用されませんでした。

 そこで、過去の地域内の人口分布の動向を分析し、その結果を基にして将来ありそうな人口分布のパターンをいくつかのシナリオとして与え、さまざまな環境負荷低減あるいは環境影響緩和の効果について評価することで、環境面から望ましい人口分布とその実現のロードマップを明らかにすることをプロジェクトの目的としました。

 今回は、過去の人口分布の動態を分析した結果について紹介します。1980年から2005年までの過去6時点の国勢調査地域メッシュ統計データを分析しました。日本全国を対象に、経緯度に基づいて一辺の長さを約1kmに区分した基準地域メッシュ(第3次地域区画)の単位で人口と世帯数に関する詳細なデータが統計局から提供されています。ただし、人口規模の小さいメッシュについては、プライバシーの観点から男女・年齢(5歳階級)別人口のデータに秘匿があるため、市区町村の値から補間する推計を行いました。

 その上で、メッシュ間の転居等が無いとした場合の出生や死亡による5年後の人口を男女・年齢別に求め(この人口を封鎖人口、5年間の差を自然増減数と呼びます)、実際の転居等があった場合の値との差分を社会増減数として推計する「コーホート要因法」と呼ばれる手法を適用しました。なお、人口規模が小さいメッシュについては、社会増減数の推計値が極めて大きな幅を示す等、値の信頼性が低いと考えられたため、3,000人以上となることを目安に周辺メッシュと併合して推計することで、信頼性の高い値を得る手法を開発しました。その結果、5年間の社会増減率は±20%の範囲にほぼ収まること、人口規模の小さいメッシュにおける社会減少の傾向が近年強まっていることが分かりました。

 次に、市域の内部の人口分布の変化をとらえるため、各市区町村毎にその内部のメッシュ人口を用いて「人口分布ジニ係数」を算出しました。この指標は、人口の偏り具合を示す値で、0に近いと均一、1に近いと偏在の状態を表します。都道府県間や市区町村間の人口の偏りを評価するために国土交通省等で使われています。

 ここでは、三大都市圏と地方を分け、政令市、中核・特例市、一般市といった都市規模別に分類し、市の人口増減の様子と人口分布の変化の様子を図にまとめました。なお、変化の有無は、人口増減については5年間で人口変化率が±3%、人口分布については5年間で人口分布ジニ係数が±0.01をそれぞれのしきい値として集計しました。

図(クリックすると拡大表示されます)
図 市域人口と人口分布パターンの変化した市の割合

 図を見ると、政令市を中心に、1995年あるいは2000年頃まで、市域人口が増加し、同時に均一化が進んだ市が多く見られたことが分かります。これは、もっぱら市街地が広がることで都市が成長してきた様子を表しています。しかし最近は、均一化の傾向が目立たなくなっていることから、都心にも人口が増えてきたことが分かります。中核市・特例市も政令市と同様の傾向ですが、地方では、人口が減少する中核市・特例市が増えてきています。

 一般市では、偏在化する例も多く見られます。人口増加に伴って偏在化が生じた一般市では、都市規模の割には大規模な開発が行われて、人口が集積した地区が生まれたことが伺われます。一方、地方一般市では、人口減少に伴う偏在化が起きた例が最近多く見られます。人口規模が小さいメッシュでの人口減少が著しく、いわゆる過疎化が急速に進んでいることが伺われます。

 さらにメッシュの人口規模別に、自然増減数と社会増減数の寄与割合を詳細に分析しました。その結果、三大都市圏では、人口2,000~5,000人のメッシュの社会増加率が高く、5,000人を超過すると増加が収まる傾向にあり、人口集中地区(DID)が形成されていることが分かります。高密度な10,000人以上のメッシュでは社会減少であった傾向が社会増加の方向に転じており、近年の都心回帰の傾向が表れています。

 地方都市圏では、5,000人以上で社会減少、5,000人未満で社会増加の傾向が続いていましたが、その差は縮まりつつあります。2000年以降には、500人未満のメッシュで人口減少に転じており、人口規模の大きいメッシュで人口増加に転じています。特に、地方一般市の人口200人未満の小規模メッシュにおいて、死亡数が多く出生数が少ないことによる自然減少に加えて、転出等による社会減少が同時に起こっていることが分かりました。

 これまで、人口分布パターンはあまり変わらないと仮定し、人口減少に伴って人口密度が一律に希薄化するとの推計が行われる場合がありました。しかし、実際には、近年は均一化の傾向は収まり、人口減少する際に人口分布パターンが偏在化する方向にあったことが分かりました。

 なお、2010年の国勢調査データでは、人口減少が加速していることから、地域メッシュ統計データが提供され次第、詳細な分析を引き続き行うことで、特に人口減少時の人口分布パターンの変化についてより詳しく知ることができると期待しています。

 また、これらの分析を踏まえて、地域の類型別に偏在化あるいは均一化した都市のメッシュの人口変化率のデータセットを取得することができました。これらの値を元に、偏在化が進んだ場合の人口分布のシナリオと均一化が進んだ場合の人口分布のシナリオを構築し、環境負荷低減あるいは環境影響緩和の効果について評価する研究を進めています。

(まつはし けいすけ、社会環境システム研究センター
環境都市システム研究室 主任研究員)

執筆者プロフィール:

筆者の松橋啓介の顔写真

給油量を記録しています。2005年と比べて給油量と走行量は約60%、単価は約120%、ガソリン代は約75%になりました。平均燃費は変わらず。エコドライブで約1割改善しましたが、遠出が減った分、数字に出ないのです。

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