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2012年8月31日

発展途上国で家庭系ごみを分別する場合にどんな処理技術が適用できるか

●特集 アジアの廃棄物循環● 【研究ノート】

河井 紘輔

 発展途上国では、ごみが分別収集されている事例はこれまでほとんどありません(ただし、経済的価値のあるアルミ缶やペットボトルなどの有価物はごみとは分別されて売られます)。さらに、収集されたごみの処分を埋立に依存している例が極めて多く、しかも埋立処分場での適切な管理はほとんど行われていません。その結果、埋立処分場では厨芥類(台所ごみ)を中心とした生分解性ごみの分解過程でメタンガス(二酸化炭素の21倍の温暖化ポテンシャル)が生成・大気放出され、浸出水は未処理のまま周辺水域へ放流されています(写真1)。近年、都市部での人口増加が続いているためにごみ収集量は増大し続けているにも関わらず、埋立処分場を新たに建設するための用地の確保が容易ではなく、埋立処分場の空き容量が急速に減少しています。これは人口密度の高いアジア地域で特に顕著な問題です。日本で一般的な焼却処理を含め、埋立処分に代わる新たなごみ処理技術が近年、東南アジアでも求められていますが、技術的な制約により即座に新しい処理技術を導入することが難しい場合があります。特に東南アジアでは生分解性ごみの割合が多いために水分を多く含むと言われています。水分を多く含むと、処理工程で追加的な燃料や資材を投入するか、あるいは前処理を必要とします。このような技術的な制約を克服するための方法のひとつとして、ごみの成分調整を目的とした「分別」が挙げられます。ここでは、ベトナムの首都ハノイ市における家庭系ごみをケーススタディとして、市民がごみをどのように分けるのかという分別シナリオを想定して、分別の達成度合い(市民の分別協力)に応じてごみの性状がどう変化するのかを評価してみたいと思います。

写真1
写真1 発展途上国の埋立処分場

 まずは元々のごみの性状を明らかにする必要がありますが、発展途上国ではごみに関して信頼できるデータはほとんど存在しません。そこで、家庭系ごみを対象として構成割合及び水分、可燃分、灰分(三成分)を分析することにしました。

 ごみの構成割合及び三成分を分析するにあたり、サンプルとしてハノイ市中心地区において337世帯分の家庭系ごみを採取しました。構成割合とは、目視によりごみを選別した際の各項目の割合(重量比)を表し、ここではサンプルを16項目(有価物として紙類、プラスチック類、ガラス類、金属類、ごみとして紙類、プラスチック類、ガラス類、金属類、厨芥類、草類、練炭灰、ゴム・皮革類、陶磁器類、繊維類、木類、その他)に選別しました。さらに項目ごとに選別されたサンプルを約100g程度になるまで縮分(量を少なくすること)し、即座にベトナム国立土木工科大学の研究室へ持ち込み、項目ごとに水分、可燃分および灰分の三成分を測定しました。まず、実験用乾燥機を用いてサンプルを85℃で3日間乾燥させて水分を測定しました。次に、重量が一定になったのを確認してからサンプルを適量に縮分したのちに800℃で2時間燃焼させて可燃分と灰分を測定しました。

 分別シナリオとして、焼却処理または固形燃料(RDF)化する可燃性ごみと埋立処分する不燃性ごみ、ならびに堆肥化処理する生分解性ごみの3種類に分別するシナリオを想定しました。それぞれの区分に正しく分別される割合(重量比)を「分別達成率」と定義しました。本研究では、分別達成率の範囲を50~100%として三成分の変化を図示しました。例えば分別達成率が50%というのは、本来は可燃性ごみに分類される項目であるにも関わらず、(重量比で)50%のみが正しく可燃性ごみとして分別され、25%は不燃性ごみ、25%は生分解性ごみとして分別される状況を表します。つまり分別達成率が100%というのは、すべてが正しく分別された状況です。厨芥類と草類は可燃性ごみでもあるのですが、上記3種類に分別する場合は生分解性ごみに分別することとしました。

 各種処理技術には様々な制約条件があるのですが、ここでは三成分を判断基準とした処理技術の境界条件を田中信壽らによる既往研究を参考にして図1~図5に示しました。なお、三成分は水分と可燃分と灰分を足すと100%になります。

図1
図1 ごみの三成分に関する焼却処理の適用範囲
(HL は低位発熱量を表します)
図2
図2 ごみの三成分に関する発電可能な焼却処理の適用範囲
(HL は低位発熱量を表します)
図3
図3 ごみの三成分に関する堆肥化処理の適用範囲
図4   ごみの三成分に関するRDF化処理の適用範囲
図4
図5
図5 ごみの三成分に関する埋立処分の適用範囲

 分析の結果、家庭系ごみのなかでは厨芥類の構成割合が最も大きく、水分も最も高いことがわかりました(表1)。また、多くの家庭で練炭を調理用燃料として利用しており、家庭系ごみの中では練炭灰が無視できない構成割合を占めることが確認できました。有価物の構成割合は3.6%で、有価物として分類した紙類、プラスチック類の水分は10%を下回っていました。これは選別作業の時点で極度に水分を含んでいるもの、汚物が付着しているものは有価物とは見なさなかったことが原因です。

表1
表1 ベトナムのハノイ市における家庭系ごみの性質、構成割合
(重量比、%)、三成分(重量比、%)

 家庭系ごみの分別達成率と三成分の変化を示したのが図6です。各線は処理技術の適用可能な三成分の境界条件を表しています。本研究で測定した三成分からごみ全体の低位発熱量を計算すると、858kcal/kgで、辛うじて自燃限界を上回っていましたが、安定的な焼却処理のためには分別や前処理が必須となります。可燃性ごみと不燃性ごみと生分解性ごみに分別した場合、可燃性ごみ中の可燃分は上昇しますが、低位発熱量を1,500 kcal/kg確保するためには71%以上の分別達成率が求められることがわかりました。また、分別達成率が100%であっても、可燃性ごみのRDF化処理には前処理として乾燥工程が必要になると言えます。生分解性ごみを堆肥化処理する場合には分別達成率が高くなると水分が高すぎるために、もみ殻などの吸水材が必要であったり、強制的に空気を送り込む必要があります。

図6
図6 家庭系ごみの分別達成率と三成分の変化(□は現状を表します)
補足:分別達成率は可燃性ごみ、不燃性ごみ、生分解性ごみにおいても同時に変化させました。つまり、可燃性ごみの分別達成率が50%の場合は、不燃性ごみ、生分解性ごみの分別達成率も50%です。

 このように、分別システムを導入したとしてもすぐに新しい処理技術が適用できるとは限りません。またここでは家庭系ごみのみを対象としましたが、実際にはレストランやホテルなどから発生する事業系ごみに関しても検討すべきです。しかも、サンプリング数や方法によって分析結果が大きくばらつくのが、ごみ研究の特徴です。ここでは、処理技術の導入及び運用、メンテナンスに係る費用がどれだけかかるのかや、市民が本当に分別できるのかなどについての議論は含みませんでしたが、現実社会では新たな処理技術を導入するに当たってはごみの性状からみた技術的な制約だけでなく様々な制約が課題となります。

 たとえ発展途上国であっても不適切なごみ管理に関わる環境負荷は可能な限り低減させるべきで、現行のごみ管理を改善する必要があります。そのためにもここで紹介した構成割合や三成分といったごみに関する信頼性のあるデータが必要です。我々は今後も東南アジアを研究フィールドとしてごみ管理の改善に資する信頼性の高いデータを取得・評価し、それら研究成果を発展途上国に還元して、少しでも発展途上国のごみ管理に関わる環境負荷の低減に貢献したいと願っています。

(かわい こうすけ、資源循環・廃棄物研究センター
循環型社会システム研究室)

執筆者プロフィール:

河井 紘輔

学生時代にベトナムに住みついてごみの研究を始めた頃は悪戦苦闘の毎日で、唯一の成果は「人脈」でしたが、発展途上国を研究フィールドにしていると、実は「人脈」こそが最も重要であることに気づかされます。

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