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ホーム > 刊行物 > 国立環境研究所ニュース > 29巻 > 5号 (2010年12月発行)  > 摩周湖、澄んだ水は危険と隣り合わせ


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【調査研究日誌】
摩周湖、澄んだ水は危険と隣り合わせ田中  敦

みなさんは摩周湖と聞いて何を思い浮かべるでしょう。まずは霧、次いで水の青さではないでしょうか。霧が晴れた時に現れる湖面の独特の青さは、摩周ブルーとも称され、神秘的な印象を与えます。しかし、観光客にとって摩周湖は展望台から眺めるだけのものであり、湖面に降りることはできません。近づけないから神秘的なのであって、許可を取って湖の調査を行っている私たちは、神秘的と言って済ます訳にはゆきません。

摩周湖全域は阿寒国立公園の特別保護地区になっており、尾根道以外に散策道さえありません。というよりは、むしろ、切り立った崖に囲まれて道が作れないというのが実状でしょう(写真1)。私たちは、調査のたびに観測機材を担いで急斜面を下ります。そして、一日の終わりには採取した水をたっぷり背負って、来た道を登るのです(写真2)。以前の話ですが、無理やり崖を降りてきた観光客が脇から突然現れ、「いったいどこから登ったらいいでしょう」と訊ねてきたことがあります。やたらな場所から降りたら、それこそ命を失いかねません。

写真1 典型的な湖岸壁
写真1 典型的な湖岸壁

写真2 調査機材の運搬
写真2 調査機材の運搬

私たちにとっても、摩周湖の調査には多くの危険が潜んでいます。ここには他の人は誰もいません。この1、2年で携帯電話が通じる時もあるようになりましたが、それまでは外界との緊急連絡の手段もありませんでした。すべて自分たちで対処するしかないのです。考えられる危険をあげてみると、重い荷物を背負ったまま斜面から滑落する、風波でボートが転覆する、あるいは冷たい湖水に落水する、湖上で船外機が故障して漂流する、湖岸に待機しているメンバーがヒグマに襲われる。冬場ならば、雪崩に埋まる。さらに恐ろしいのは、雪崩もろとも氷水の中に投げ出される。書いていても、身がすくむ思いです。それぞれの危険について、できる限りの対応をしています。写真3は、遊んでいる様子ではありません。ドライスーツという防水服と救命胴衣を着用し、落水したときにあわてない訓練をしているものです。

写真3 ドライスーツを着た落水訓練
写真3 ドライスーツを着た落水訓練

摩周湖の青い湖水は、透明度と密接な関係があります。摩周湖は1931年に41.6mの透明度を記録し、これは今にいたるまで破られたことのない湖沼透明度の世界記録です。ところが、近ごろでは透明度が20m前後で推移し、最も悪いときには14mとなり、新聞に報じられるほどでした。この原因を探る調査を摩周湖の化学物質モニタリングと併行して実施しています。その一つが、クロロフィルや光照度を測定する機器を水中に沈め、年間の変動を調べる係留観測です(写真4)。この係留観測によって、雪と氷に閉ざされる真冬のデータも得られました。摩周湖の透明度は夏場に低下し、冬場に上昇するという結果となり、実際に2009年の5月には、32.5mという過去25年間で最大の透明度を観測しました(写真5)。貧栄養湖である摩周湖では、植物プランクトンに由来する光吸収が少なく、その結果として独特な青い湖水を生じていました。しかし、夏場は植物プランクトンの数が増え、透明度が下がります。すると、青い水の色もやや緑色に変化してしまうのです。このことは水中光を波長ごとに観測した結果からも確認されています。

写真4 湖水から回収された観測機器  ワイパーの働きでセンサー面に藻類の付着はない

写真4 湖水から回収された観測機器
ワイパーの働きでセンサー面に藻類の付着はない

写真5 摩周湖の透明度観測  2009年5月、白い円盤が透明度板

写真5 摩周湖の透明度観測
2009年5月、白い円盤が透明度板

実は、摩周湖の霧は夏場に出ることが多く、冬に霧がかかることはまれです。青く澄んだ摩周湖をご覧になるのでしたら、ぜひ、寒い時期に訪れてみてはいかがでしょうか。

(たなか  あつし、化学環境研究領域
無機環境計測研究室主任研究員)

執筆者プロフィール:
透明な氷に一歩が踏み出せないへっぴり腰が私です。氷にあけた穴からのぞくと、まっすぐに降りた透明度板が瞳の像の中に映ります。このところ摩周湖が凍りにくくなってきていますが、次に湖面に立てるのはいつになるのでしょうか。

田中 敦


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