ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方

自動車から排出される揮発性有機化合物(VOC)についてのトンネル調査

研究ノート

桜井 健郎

 最近,ガソリンや自動車排気ガス中にベンゼンという物質が含まれることや,室内空気中にホルムアルデヒドという物質がしばしば検出されることをマスメディアで耳にする。ベンゼンやホルムアルデヒドは揮発性有機化合物(VOC )として分類される。

 VOC とは,環境中に放出されたときに,その大部分が大気中に気体として移動する有機化合物である。したがって一般的には,人間は呼吸を通じて VOC に暴露されるし,VOC の環境中での反応や消失の主要な部分は大気中で起こる。

 VOC は,光化学スモッグの原因物質の一つで,オゾンなどの酸化性物質の生成に関与していることから注目されてきた。また近年では,VOC 自体の健康影響が関心を集めている。たとえばベンゼンは発癌性を示すが,国内の大気濃度調査地点の多くで環境基準値を超えている。

 ある物質の影響レベルが問題である場合,さまざまな排出源からの寄与の度合いを調べることが,有効な対策のために必要である。政府の見積もりでは,自動車関連の排出は,日本の総排出量のうち10%強を占める主要なVOC 発生源の一つである。さらに,自動車の使用は人口の分布とある程度対応しており,影響への寄与率は総排出量への寄与に比べ高い可能性がある。また,化合物によって排出の状況や物理化学的な性質や毒性が違うため,詳細な評価には個別化合物の情報が必要である。しかしこれまで,議論の根拠となる具体的なデータ,特に実際の走行状況を反映したデータが少なかった。

 自動車由来のVOC の排出を調査するいくつかの方法のうち,トンネル調査とは,その名の通り,普通に使われている自動車トンネルへ出かけていって,トンネルに出入りする空気中のVOC を測定し(数時間~数日程度),その結果から,トンネル内を走行する自動車からのVOC の排出を調べる方法である(図1)。実際に道路を走行している,型式・年式・整備状況等が異なる多数の車両からの,平均的な排出状況を知ることができる点,また,排気管からの排出以外の,燃料の蒸発による排出も含めて把握できる点がトンネル調査の利点である。

図1:トンネル調査の概念図
図1トンネル調査の概念図
この例(トンネルB )では送気量V in >排気量V out となるように管理し,一定時間内の通過交通量T mix と,送気量V in ,送気と排気中の物質濃度C bg とC ex ,トンネル長L を用いて,全交通量に対する排出係数EF mix を計算した。

 以下,私たちが最近行っているトンネル調査の結果の概要を紹介する。トンネル調査という手法自体は新しいものではないが,VOC への適用事例は日本では限られている。これまでに,走行速度や車種構成が異なる二つのトンネル(トンネルA ,B )で調査を行っている。トンネルA では比較的低速の走行,トンネルB では高速走行であった。車種構成はトンネルA では比較的一定で普通乗用車が大部分を占め,トンネルB では大型車両率が平日に高く週末に低いという変動が見られた。

 両トンネルから得られた排出係数(一台・走行距離当たりの排出量)の一部を,他の研究結果と比較して図2に示した。比較対象としたのは,米国でのトンネル調査の一例と,国内での台上試験の一例とである。台上試験では,特別な装置上で一台一台の車からの排出を調べる。図2より,以下の点が読み取れる。a )トンネルA およびB の結果は,オーダーとしては近い値であり,化合物の相対的な組成も全体としては類似している。b )トンネルA の結果は,米国のトンネル調査の結果(普通車)に近いが,これはトンネルA での車種構成と矛盾しない。c )トンネルB では,ホルムアルデヒドなど一部の化合物の排出係数が平日で高く,台上試験および米国でのトンネル調査の結果と合わせて考えると,これらの化合物は大型車あるいはディーゼル車から,より多く排出されていると解釈できる。

図2:排出係数の比較
図2トンネル調査等で得られた排出係数の比較
排出係数は対数軸。トンネルA については空気量の収支を得ていないので,排出係数がよく調べられているある物質の値を基準にして推定した。トンネルB では非メタン炭化水素は測定されていない。台上試験では,トルエン,キシレン,エチルベンゼンは測定されていない。a )Sagebiel et al., 1996; b )発生源インベントリー・対策技術分科会報告書(環境庁),1995。

 今後は,他の手法と組み合わせながら,物質ごとに車種ごとの排出特性を把握していくことが一つの課題になろう。自動車由来のVOC 排出の全体像の把握と,その有効な削減方策の提案のための,有効な基礎データとなることを期待したい。なお,ここで紹介した研究は,地方自治体等,多くの方の協力によって遂行されており,関連する方々に感謝する。

(さくらい たけお,地域環境研究グループ水改善手法研究チーム)

執筆者プロフィール:

東京出身。最近,研究所は建築ラッシュで多くの木々が伐採されている。窓の外は林だったが,砂利引きの駐車場に変わった。個人的には環境の悪化である。雉や狸はどうしているだろうか。