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都市域におけるVOCの動態解明と大気環境質に及ぼす影響評価

若松 伸司

 大気汚染物質の中でも炭化水素成分に関しては取り組みが遅れている。メタンを除外した炭化水素成分の総称が非メタン炭化水素(NMHC)であり,これに関しては1976年に光化学オキシダントの生成防止のための観点から指針値が定められた。すなわち午前6時から9時までの3時間平均値が 0.20ppmCから0.31ppmCの範囲となっている。これは当時の都市地域における観測データをもとに統計的に求められた値であり20年以上経った現在でも用いられている。非メタン炭化水素にはアルデヒド等の含酸素化合物は含まれないが,これらの物質も含めてVOC(Volatile Organic Compounds)と呼ばれている。

 都市環境大気中のVOCは光化学大気汚染の原因となると同時に人の健康に有害であることが多いが,種類も多く自動モニタリングの技術も確立していないことなどから実態の把握が十分になされているとは言えない状況にある。一方,1997年2月には大気汚染防止法が改正され,新たにベンゼン,トリクロロエチレン,テトラクロロエチレンの大気環境基準が定められた。NMHCに関しては光化学大気汚染に関連する汚染項目としてこれまで取り扱われてきたが,この3項目に関しては有害化学物質対策の観点から基準が新たに定められており,VOCの大気環境基準は逐次追加がなされることとなっている。

 このような背景の下で,VOC汚染実態の把握とリスク評価が急がれている。我が国においてはVOCのモニタリングはまだ多くは行われていないが,優先取り組み22物質を中心としたモニタリングが各自治体の努力の下に展開されつつある。しかし,種々のVOCの発生量,濃度分布と変動,汚染メカニズムなどに関する体系的な研究は,なされていない。このため,大気汚染防止法の改正や環境基本法を受けたリスク評価にあたり,データの収集・蓄積ばかりでなく,適切なモニタリング頻度・地点数・配置などの判断や,発生源と汚染・リスクの関係の理解などに資するためのモデル解析などの研究が必要とされている。

 VOCの発生源は多岐にわたるが人為起源の主要な発生源は溶剤と自動車である。この中でも最も発生割合が高いのは塗料関連であり7割以上が溶剤から発生していると考えられている。自動車に関してのこれまでの知見では,人為起源のVOC全体に占める発生比率は10%程度であるが,発生地域が沿道であるため,立地条件や気象条件によっては局所的な高濃度が発生する。自動車のテールパイプからのVOCの発生は自動車排ガス処理装置の改善により大幅に低減している。しかし一部の整備不良車からは極めて高濃度のVOCが出ていることが指摘されている。またテールパイプ以外からのVOCの発生が問題となっている。走行中や,駐車中のVOCの蒸発ロスが大きいと考えられており,これらを考慮すると発生比率は10%よりも大きい可能性がある。実態の把握や対策の検討が急がれている。

 ガス状物質の多くはオゾンやラジカルにより酸化されて粒子状物質へと変化するため,光化学オキシダントはそれ自身が人体や植物に対して悪影響を及ぼすばかりではなく広域大気汚染の要因ともなる。図にVOCが大気環境に与える影響を示す。

 そこで本研究では,種々のVOCの正確な発生量の見積もり,NMHCに代わるVOC多成分分析法による環境モニタリング,二次生成大気汚染に関するモデルの適用と検証などを系統的に行い,VOC汚染と二次生成大気汚染の動態・実態を解明することによって,適切なモニタリングのあり方,VOC発生源対策の方向性などを明らかにするとともに,モニタリングを補う実態把握方法を検討する。具体的には以下の三つのサブテーマを中心に3年間にわたり特別研究を行う予定である。

 サブテーマ【1】
自動車からのVOC発生量の推定手法に関する研究

 VOC成分の中でも特に自動車からの寄与の推計値は国内外で大きな開きがあり正確な見積もりが緊急に必要となっている。このため沿道・トンネル等での実測をもとに実際の都市沿道における自動車からのVOC発生量を明らかにする。解析に当たっては,気象条件や反応の影響を正しく評価する必要がある。そこで,より正確な発生量を把握するために,自動車トンネルや沿道におけるVOC汚染のフィールド調査と,風洞実験や沿道拡散モデルによる局所拡散状況の正確な見積もりを行い,これらに基づいて実走行状態でのVOC排出量を推定・評価する。

 サブテーマ【2】
都市域におけるVOC発生量の空間分布推計手法に関する研究

 環境大気中におけるVOCの発生源を積算しメッシュ発生量を推計する手法を検討する。推計を行うに当たっては我が国においてこれまでに用いられてきた既存の排出係数や米国環境保護庁の排出係数に関する報告,欧州の排出目録ガイドブックをもとにした排出係数に関する報告,また国内のPRTR(汚染物質排出移動登録)制度に関する予備的検討や,地方自治体の化学物質管理施策の検討によって得られたVOCの取り扱い量,環境中放出量,化学物質使用実態調査結果等を利用する。これらの情報を収集・整理・精査し最新のVOCの排出係数を確定し,「大気汚染物質発生量算定システム」を開発する。

 サブテーマ【3】
環境大気中におけるVOCの挙動解明に関する研究

 環境大気中におけるVOCの挙動をフィールド観測をもとに把握する。具体的には40成分程度のVOCを連続自動分析し測定値を評価するとともに特別観測を行ってVOC等の立体分布や気象状況の把握を行う。これらフィールド観測で得られた情報をもとに大気汚染シミュレーションモデルによる解析を行いモデルの検証・リファインを行う。このことによりVOC汚染と二次生成大気汚染のメカニズム・実態を明らかにする。またサブテーマ2で得られたメッシュ発生量の推計結果をもとに都市・広域大気モデルを用いて大気環境中のVOC濃度を予測し,この値とVOCの自動連続測定データおよびフィールド観測データとを比較評価し,「大気汚染物質発生量算定システム」を検証し,以てVOC発生量を推計するための手法を確立する。さらに,VOC発生源とVOC環境濃度の関連性を解析・評価する。

 以上のような環境大気中におけるVOC成分の動態解明,発生源評価,フィールド測定,モデル解析の研究結果をもとに,VOC成分等が大気環境質に及ぼす影響を明らかにし,VOCモニタリングシステムの構築に関する検討とVOC対策シナリオの検討を行う。

図 VOCが大気環境に与える影響

(わかまつ しんじ,地域環境研究グループ都市大気保全研究チーム総合研究官)

執筆者プロフィール:

最近は地域大気汚染対策の進め方としてのThink Locally and Act Globallyに関心を持っている。水瓶座,B型