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新米の大学教員から環境研究所をみて

慶応義塾大学教授 清水 浩

 昨年の春,約21年勤めた国立環境研究所から今のところに移りました。ここは環境情報学部と総合政策学部が湘南キャンパスの中にあって両学部の学生が相互乗り入れで教育が受けられるというのが特徴の一つです。

 私は今ここで4つの科目を受け持っています。3年,4年が対象の環境情報システム論と自然環境論,1年,2年が対象の現代技術,大学院の概念構築(環境)という科目です。このほかにも3,4年が対象の研究会と称するゼミ形式の授業と大学院のゼミがあります。研究会のテーマは「電気自動車と未来型交通機関」及び「温暖化とその対策」という設定をしました。大学院ゼミのテーマは「環境・テクノロジー・グローバル」というものです。

 これらの科目やテーマから,私の今の生活はほとんど環境三昧だということがお分かり頂けると思います。しかも,扱っている学生がとても多いのです。学部の授業の履修平均は150人から450人にもなります。研究会のメンバーはそれぞれ25人で合計50人も居ます。大袈裟でなく人波にもまれているという感覚です。それというのも私立大学は専任の教員数に比べて学生数が圧倒的に多いということと,環境と名の付いた他の学部と同様に環境問題をやってきた先生がほとんどいないという現実があるためです。

 しかし,せっかく受講しようという学生がこれだけ大勢いるのだからおろそかにするわけにはゆきません。やってやろうじゃないかという気概で向かっています。

 ところが困ったことに私にとって「環境情報システム論」のうち情報システム,「自然環境論」の自然の部分は全くチンプンカンの状態でした。私は環境研究所に居た当時,レーザーレーダ,電気自動車,温暖化対策技術という分野で研究をしてきました。その中では情報システムや自然に触れる機会がなかったわけではありません。レーザーレーダのデータ解析には膨大な量のデータ処理が必要だし,電気自動車の設計,温暖化対策の分析にもシュミレーションや数値計算の手法を用いてきました。レーザーレーダの応用対象はもちろん自然です。しかし,環境研究所時代にはとても優秀な同僚に恵まれていたおかげで,コンピュータに触れることや自然を直接相手にすることは皆,彼らがやってくれていました。そして論文は連名ですから世間にはあたかも私がコンピュータに強く,自然のこともよく知っているように見えたのではないかとも思います。

 このため,いざ自分で授業を受け持つことになると,うまく内容を組み立てられないことに気付いたのです。そこで,授業の各テーマごとに環境研究所の皆様方に教えてもらうという日々が続きました。授業のない日に,その次の週の準備のための情報を教えてもらいました。おかげで昨年一年間を一応こなすことができました。

 このような経験をとおして改めて環境研究所を見直してみると色々なことが分かりました。まず,環境の面で極めて幅広く深い知識が蓄積されていることです。このことは国立研究所では唯一の環境研究所なのだから当たり前と言えないことはないのですが,想像以上であったということです。また,最新の研究成果も次々に生まれてきていることが印象的でした。これは,過去20余年の間の各人の努力の積み重ねがいつのまにか大きく成長してきていることの現れであるとも思います。

 この事実を見た上で,私の当時の研究生活の反省として,いつもなにかに怯えながらやってきたような気がします。社会的な批判の対象になるのではないか,行政からクレームがつくのではないか,予算がストップするのではないか等ということです。しかし,今,思い直してみると,それらは無用だったようです。この組織は十分に自信をもってやっていけるところです。

 今後大きな変革が予測されます。そのときに,この思いが各人のなかにあれば,より素晴らしい組織として成長していくことは間違いありません。

(しみず ひろし)