プロジェクト研究の紹介
人工衛星搭載レーザーレーダーを用いた大気環境の評価に関する研究
笹野 泰弘
レーザーレーダーは,レーザー光を使ったレーダーの一種である。国立公害研究所の時代から,当研究所では大気中の微粒子(エアロゾルと呼ばれる),二酸化窒素等の気体成分,あるいは成層圏のオゾンの濃度の空間分布を測定するためのレーザーレーダーを開発し,それらを用いた研究を行ってきた。いずれも地上設置型のレーザーレーダーである。
研究開発の流れとしては当然のことながら,これを航空機に搭載して広域を測定することは出来ないか,さらに人工衛星に搭載して地球規模での測定に用いることは出来ないかということになる。航空機搭載レーザーレーダーは米国等では大いに活用されて,エアロゾルやオゾンの広域分布が精力的に観測されている。人工衛星に搭載出来れば,さらに有効な観測データが取得できよう。
来年,米国宇宙航空局がスペースシャトルにエアロゾル,雲の観測用レーザーレーダーを載せて初の観測実験を行うことになっている。しかし人工衛星に搭載して長期にわたる地球環境観測を行うレーザーレーダーは未だ実現していない。技術的な検討課題が残されていると同時に,大気科学として何が,どのように測定され,どのような意義を持つものか,必ずしも明確に認識されていないという面も否めない。
これらの問題について道筋をつけるために,環境庁地球環境研究総合推進費による研究課題「新型レーザーレーダー計測技術の開発に関する研究」の一環として標記の研究を平成3年度より開始し,現在3年目に入っている。本研究では,主として観測データの大気研究への利用の立場から衛星搭載レーザーレーダー観測の有効性を探ることを目的に,気象・気候の専門家とレーザーレーダーの専門家からなる調査検討委員会を構成して,技術的な問題を整理しつつデータ利用の可能性について検討を進めてきた。
これまでの検討から指摘された主な点を挙げると次の通りである。
平成5年度からは前年度までの検討を踏まえ,具体的な衛星搭載レーザーレーダーシステムの概念設計を進める上で必要となる技術的な問題を明らかにすべく,機器メーカーの専門家を含めて調査検討を進めている。すなわち,レーザーレーダーのサブシステムである(1)レーザー光源,(2)検出器・フィルター系,(3)送受信光学系(掃引機構を含む),(4)信号処理系,(5)熱設計を含むシステム全体,についてそれぞれの技術開発の現状と衛星搭載化に向けての問題,開発要素を明らかにするための調査に取り組んでいる。
ポイントは厳しい電力・重量条件のもとで,宇宙環境で稼働する,信頼度の高い機器の開発の可能性にかかっており,確度の高い技術評価が不可欠である。特にレーザー光源の開発が鍵になると考えられている。
なお現在,日本では宇宙開発事業団が将来の衛星搭載レーザーレーダーに向けての基礎的な研究を開始している。当面は,J−1と呼ばれるロケットを利用した小型衛星実験ミッションとして,衛星搭載レーザーレーダーを宇宙に送り出す構想が最も実現性が高いと思われる。宇宙開発事業団の発行した「宇宙からの地球観測シナリオ」の長期構想によれば,1998年にJ−1によるレーザーレーダー実験観測が想定されており,2000年以降さらに本格的な衛星搭載レーザーレーダー観測に引き継がれることになっている。
本研究の成果が,これらの具体的な計画を推進する上で有効に活かされるよう,毎年度の研究成果を国立環境研究所資料集(F−シリーズ)として出版し,多くの関係者の参考に供している。
(ささの やすひろ,地球環境研究グループ 衛星観測研究チーム)
