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遺伝子操作技術の環境研究への応用について

研究ノート

中嶋 信美

 植物の遺伝子を単離しその構造を決定する技術が確立して10年余りが過ぎ、今では比較的短い訓練で誰でもこの技術を修得できるようになっている。しかし、その技術の環境研究への応用はまだ不十分な状態である。私としても遺伝子操作技術を環境研究に少しでも役立てたいと思い、以下の方向で模索している。

 その1として遺伝子操作による有用植物の開発があげられる。既に本研究所で開発されたSO2ガス耐性タバコがその例である。植物の持っている能力を遺伝子操作で強化してやることで乾燥耐性、紫外線耐性、環境汚染浄化植物などを開発できる可能性がある。私も現在、植物の水分やイオンの取り込みを調節している遺伝子の単離とその構造を解析しおり、将来的にはその構造を改変して乾燥に強い植物の開発も可能ではないかと考えている。また、これまではタバコなどの実験植物を材料として研究が行われてきたが、近い将来は街路樹などの遺伝子を組換えることによって排気ガス耐性の樹木や汚染ガスを吸収する樹木を作出するなど、これまでの研究成果を実用化する方向に進めたいと考えている。

 その2として、既に犯罪捜査などでも知られているように、遺伝子の構造を調べることによってその生物の親子関係や系統関係を推定することが可能となっている。そこで、この方法をフィールドに応用すれば、植物群落などを今までよりもっと細かく分類できるのではないかと考え、湿原植物を材料として、同じ種でも遺伝子を調べることによって違いを検出する方法を検討している。この研究が進めば、見た目は同じ植物でも環境の違う場所に生えているものは違う遺伝子を持っていることが明らかになる可能性がある。この分野で野生植物を用いた研究は穀類など栽培植物を用いた研究にくらべて遅れており、より一層の進展が望まれる。

 以上が遺伝子操作技術を環境研究に役立てようと私なりに考えたテーマであるが、この他にもいろいろな研究分野に応用できる可能性があり、この技術がより多くの研究者に利用されることを願っている。

(なかじま のぶみ、地域環境研究グループ新生生物評価研究チーム)