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ウィスコンシンにミジンコ怪獣現わる

海外からのたより

花里 孝幸

 飛行機がアメリカ北部に到達し、真白な雲海が切れて地上が見えると、そこには小さな水たまりが散在していた。湖である。あきれるほど多くの湖が広い平原に散らばっている。それらが太陽の光を反射してキラキラ光り、まるで粉々に割れたガラスの破片が散らばって輝いているようだ。アメリカ北部で陸水学が盛んな訳だ。うらやましい限りである。

 昨年11月より、私はウィスコンシン州マディソンにあるウィスコンシン大学で、湖の主役であるミジンコの研究を行っている。生物間相互作用に及ぼす殺虫剤の影響を調べるのが目的である。最近私は、捕食者の出す化学物質がミジンコに与える影響に興味を持っている。捕食者が水中に化学物質(臭い?)を放出し、それがミジンコの形態や行動、さらには成長速度まで変化させることが分かってきた。水中の生物達の間にはこのような化学物質が介在し、重要な働きをしているものと思われる。私のアメリカでの最初の仕事で、この物質がミジンコの殺虫剤耐性を低下させることが明らかになった。捕食者が共存していると、ミジンコは殺虫剤によるダメージを受けやすくなるのである。

 マディソンに来て四か月。私はまだ冬のマディソンしか知らない。初めて経験する寒さに驚いた。当地の遅い春が待ち遠しい。ただ、寒い所にはそれなりの楽しみがあるもので、真冬には全面結氷した湖でスケートをした。マディソンでの楽しい思い出の一つである。

 アメリカの大学生はよく勉強する。そして頻繁にセミナーを開いて議論している。このような姿勢は見習いたいと思う。時間を有効に使いたいためか、よくランチタイム・セミナーをやる。毎回演者がスライド等を使って仕事の紹介をするのだが、聴衆はムシャムシャとお昼を食べながら聞く。午後にはポップコーンを食べたりジュースを飲みながらセミナーをやる。このような生活態度はヨーロッパとは随分違うように思われる。他の国と比較しながらアメリカ人の生活習慣を眺めるとおもしろい。

 最後にアメリカ人のジョークを一つ紹介する。写真は、私と共同研究しているS.Dodson教授が、湖でミジンコ怪獣に襲われているところである。ただし断っておくが、実際のミジンコは、体長が0.5〜3mmのつぶらな瞳を持ったかわいい生き物である。

(はなざと たかゆき、地域環境研究グループ化学物質生態影響評価研究チーム)

写真はBill Feeny氏の作