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ポスト京都議定書をめぐる国際合意のための研究成果から

Summary

 地球環境保全に関する国際会議における条約交渉では年々、研究者による学術的知見が大きな影響を与えるようになっていますが、ここでは「2013年以降の地球温暖化対策促進に向けた国際合意のための方法に関する研究」プロジェクトから、3つの最新研究を紹介します。

文献研究

 京都議定書による抑制義務が終わる2013年以降の対策について、近年世界の研究者が積極的に研究論文を発表しています。ここでは2003年度にまとめた、主要国で発表された文献の研究結果を概説します。

 1998年以降に出版された英文論文を精査し、130本以上の論文を収集しました。これらの約4割は欧米の研究者によるもので、残りがその他の先進国(日本、オーストラリア、カナダ)と途上国の研究者の発表です。

 欧州の研究機関の論文の半数以上は、排出量の配分ルールに関するものでした。長期的に一人当たりの排出量が一定となるよう少しずつ排出量を収れんさせていく収縮・収束方式、排出枠の配分を計算するソフト開発、産業、輸送、民生などと部門ごとに分けて排出量を計算する方法を導き出した論文などがその例です。

 危険ではないレベルで温室効果ガスの大気中濃度を長期的に設定し、その水準を達成するための中短期的排出量を計算するという方法も、欧州では盛んでした。

 また米国の研究機関からは、GDP当たりの排出量削減を目標とする案や、排出量取引の応用ルールに関するものが数多く発表されていました。前者に関しては、現在の米国の気候政策とも一致しますが、各国の異なる貨幣価値の換算方法等によって公平で客観的な比較検討が困難といった問題が残っています(表2)。

 途上国の研究者の論文では、排出枠の配分に関するテーマが多く、ブラジルやアルゼンチンの政府からも積極的な配分論が提案されています。また中国やインド等経済が急成長している途上国の研究者からは、一人当たり排出量の制定要求や排出量認定の衡平性を担保する研究、さらには将来的な気候レジームにおいて貧困克服も一つの目的にすべきという主張の論文が発表されていたことが注目されます。

 以上の文献レビューを経て、国・地域ごとに研究者の論文のテーマの傾向自体が大きく異なっている理由として、各論文の前提となっている世界観や価値観(例えば、国際社会において自由経済を重要と考えるか、公平感を重視するか)が異なっていることが指摘されました。つまり、今後の取組みについて国際合意を得るためには、世界観や価値観についてもある程度共通認識を構築しておく必要があるということです。

表2
表2 文献調査

3つのシナリオ評価

 将来枠組みに関する多様な提案を評価することが重要ですが、評価基準に関して合意がなければ、適切な評価はできません。本研究では、評価方法の一つとして、シナリオ・プランニング・アプローチを活用しました。同アプローチは、将来がどのような世界になっていくかについて、現実的な複数のシナリオをストーリーラインを持って定性的に記述していく手法です。同アプローチを用いた結果、今後10年間に、気候変動に関する国際的な議論は「炭素市場発展シナリオ」「政府先導型規制シナリオ」「革新的技術依存シナリオ」という3つの将来像の中で進展していくと説明できました。文献調査で示された多数の制度案は、この3つのシナリオのいずれかに分類されます。そして、シナリオ横断的に4つの観点「環境改善効果」「費用対効果」「衡平性」「制度効率性」でメリットとデメリットを示唆することにより、各シナリオに分類された諸制度案に共通する長所短所が明示されました。(表3)。

表3
表3 気候レジームの評価(定性的評価)
環境改善効果、費用対効果、衡平性、制度効率性の4つの観点から、3つのシナリオにおける気候レジームを評価

 また、国際枠組みそのものに対する評価だけでなく、ある国際枠組みに至るための国際交渉プロセス(どの国がリーダーシップを取り、消極的な国とどのようなテーマで妥協点を模索し、その結果どのような提案で国際合意が得られるか、といったこと)を描いたことが、本研究のもっとも独創的な成果となりました。さまざまな学術的研究に基づく論拠ある知見を踏まえてシナリオを構築することにより、そこで描かれる交渉過程は、単なる机上の空論ではなく、めざすべき国際枠組みに合意が得られるよう交渉を進めるための戦略として用いることができるのです。

 この研究から得られた結論の一つとして、シナリオで合意をめざす場合、気候変動抑制に実効性を持つためには、十分な世論の関心が不可欠であることがあげられています。世論の関心がなければ、十分実効性のある国際制度は合意されないということです。

適応策研究

 ポスト京都議定書を模索する世界の温暖化対策のなかで、適応策が注目されてきました。適応とは、すでに起こってしまった、あるいは起こることが予測される気候変動やその影響に対して取られる各種調整を意味します。適応策が注目される理由の一つには、2013年以降の枠組みに途上国の参加を得るための方策の一つであると先進国が考えていることがあげられます。

 私たちは、適応に関連する施策を将来枠組みにいかに盛り込むか?という観点から研究に取り組んできました。その結果、主に途上国で適応策を実施するための二つの課題が明らかになりました。

 一つ目の課題は、途上国における適応策の実現に必要な能力の育成です。途上国が適応策を練るためには、どの地域にどのような影響が出そうか、どの地域がそういった影響に弱そうかをきちんと評価することが必要ですが、そうした知識や技術を有する人が不足しています。このため、情報やモデル等へのアクセスを向上させ、技術移転を促進し、情報を共有化するシステムを構築しながら、専門技術を持つ人材を育成することが強く求められています。

 もう一つの課題は、途上国が適応策を実施するための資金援助システムの構築です。いかにして資金源を確保するか、また集まった資金をどのように配分するかは大きな課題です。とくに、資金の配分については、適応が基本的に地方レベルの対応であることが問題をより複雑にしています(表4)。

表4
表4 部門別適応策の具体例
出典:IPCC第3次評価報告書より作成