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大気汚染物質の研究をめぐって

Summary

 VOCは,太陽からの紫外線を受けてO<sub>3</sub>を生成するため,光化学大気汚染の原因物質の一つとして対策が進められてきました。一方,光化学反応時に大気中に微小粒子を発生させる働きがあることが最近注目されています。微小粒子は肺の深部に侵入・沈着する割合が大きく発がん性が高いといわれていますが,VOCや微小粒子に関しての知見は少なく,各国でも研究が急務となっています。

世界では

 OECDでは環境データ(OECD,1999)の中でPMを含め大気汚染物質に関する排出インベントリー(目録)をとりまとめています。その中でもとくにアメリカ環境保護庁(U.S.EPA)のデータ整備が充実しています。U.S.EPAによる排出量の推計は,部門別だけではなく地域別でも行われています(図5)。さらに,詳細な地点別の排出量がEPA-AIRDataとして公開されています(U.S.EPA,2001)。固定発生源については施設名,所在地,排出量や全体への寄与率を公開しており,移動発生源については郡ごとに集計した結果を知ることができ,すべてのデータがインターネット上から入手が可能になっています。さらにEPAでは,排出係数,SCC(Source Classification Code)に対応した地域別の活動量データが組み込まれ,対象地域,年月を選択すると発生源別に排出量を計算するソフトウエアASEM (Area Source Emissions Model)を開発中です。

 カナダでは環境省(Environment Canada)がPM,PM10,PM2.5,SOx,NOx,VOCおよびCOの部門別排出量を経年で推定し,ホームページ上で公開しています。

 一方,イギリスでは1970年から1996年までの年間PM10,PM2.5,PM1およびPM0.1排出量をそれぞれ推定しています。移動発生源からの排出に特化したものとしてCOPERT II(COmputer Programme to calculate Emission from Road Transport)というガス状汚染物質およびPMの道路交通による排出量推定システムが開発されています。これはNMHC,アンモニア,DEPなどが推計できるものですが,現在では多環芳香族炭化水素(PAHs)や残留性有機汚染物質(POPs)を対象として加え,排出係数を改訂したCOPERT IIIが公開されており(EEA,2000),世界各国の排出推計に用いられています。

図5 アメリカ
図5 カナダ
図5 イギリス
図5 アメリカ、カナダのPM2.5地域別排出量と、イギリスのPM10地域別排出量

国立環境研究所では

 国立環境研究所では,VOC特別研究の成果を踏まえ,平成13年度から「大気中微小粒子物質(PM2.5)・ディーゼル排気粒子(DEP)などの大気中粒子状物質の動態解明と影響評価プロジェクト」(略称:PM2.5・DEPプロジェクト)を5年間の予定で実施中です。研究に当たってはPM2.5・DEP研究グループが中核となり,大学,自治体など外部の研究機関やJCAP(Japan Clean Air Program)などとの研究協力を重視して,研究を推進しています。

 PM2.5を中心とする浮遊粒子状物質汚染に関して,たとえば日本ではPM2.5に関する排出係数がほとんど存在しないのが現状であり,排出インベントリー整備には多くの課題が残されています。

 これらを含めPM2.5やDEPを中心とした大気中粒子状物質汚染を改善するためには,発生源の把握から影響評価までの一連の研究を実施し,得られた知見を対策評価にまで結び付けていく必要があります。

 このため,本研究プロジェクトでは対策シナリオの評価などに資する情報の提供を最終的な目的とし,以下の5つのテーマを中心に研究課題を有機的に結合させ実施しています。

(1)発生源の把握と対策評価

 PM2.5やDEPなどのエミッションファクター(排出係数)を,シャシーダイナモ,車載型計測調査,トンネル・沿道調査などを通じて調べ,できるだけ実態に即した発生量の推計を行っています。また得られた結果を相互に比較することにより,正確な実発生量を求め,マクロ的推計調査と合わせて面的分布の把握をめざしています。

(2)環境濃度との関連性の解析

 環境大気中でのライフタイムが長いPM2.5については,沿道ー都市ー地域などの汚染現象が相互に関連し合っているため,それぞれのスケールでの理解が必要であるとともに継続的な調査観測が欠かせません。また,外国諸都市との比較も必要となります。これらを並列的に実施することにより,環境濃度との関連性の解析を行っています。

(3)測定方法の確立とモニタリング

 発生源調査,環境測定,毒性評価実験などに統一的に利用できる測定方法の確立をめざしています。すでにDEPに関しては,有機炭素成分と元素状炭素成分の測定方法の統一を進めるための検討を行っています。また,モニタリングに関しては,リモート計測技術の積極的な利用などの検討を行っています。

(4)疫学・ばく露評価

 疫学調査データ解析を行うために,ばく露量の正確な把握をめざしています。そのための基盤として,発生源把握や環境動態予測に必要な地理情報システムの利用方法を明らかにしました。また,健康影響評価のためのばく露量推定モデルの開発を行っています。さらに環境省と協力して環境データ,疫学データの解析・評価手法の検討も行っています。

(5)毒性・影響評価

 呼吸循環系に障害を有する人は,PM2.5の影響を受けやすいという疫学調査の結果があります。それが動物のばく露実験で再現されるか,また動物を使ったアレルギー反応などへの影響についての結果を,ヒトの場合にどのように当てはめるかなどを検討することをめざしています。

 このため,ばく露ガスの組成や粒子の粒径分布などのばく露条件の検討を行っています。また正常な動物ばかりではなく,病態モデル動物を使ったばく露実験による影響も検討しています。

実験室の様子
シャシーダイナモのコントロールルーム