- 予算区分
- CD 文科-科研費
- 研究課題コード
- 0809CD002
- 開始/終了年度
- 2008~2009年
- キーワード(日本語)
- 地球温暖化
- キーワード(英語)
- global warming
研究概要
大気海洋結合モデルを用いた地球温暖化予測実験において、温室効果ガス濃度とエアロゾル排出量のシナリオ(排出シナリオ)が異なると、単位気温変化あたりの全球平均降水量変化率が変わることが近年しめされてきた。しかし降水量変化率が何故排出シナリオに依存するのかは明らかになっていない。本研究では、降水量変化率が排出シナリオに依存する要因を解明することを目的とする。
ここではエアロゾルの第1種、第2種間接効果を陽に扱うことのできる大気海洋結合モデルを用いて、外部要因(温室効果ガス、硫酸性エアロゾル、炭素性エアロゾル、対流圏・成層圏オゾン)を個別に与えた実験を行い、どの外部要因がスケーリングパターンの排出シナリオ依存性をもたらすかを明らかにする。外部要因を切り分けて要因推定を行う際の前提条件は、各外部要因に対する応答の線形足し合わせが可能なことである。本研究では、線形性がどの程度保たれているかを注意深く確認し、非線形性が強い場合にはその原因を調べる。
本研究により、地球温暖化による降水量変化率予測の排出シナリオ依存性に関する考察が得られるものと予想される。それにより将来予測の不確実性を減少させるだけでなく、影響評価・適応策・緩和策などの研究に対しても有益な情報を提供できることを目指す。
研究の性格
- 主たるもの:基礎科学研究
- 従たるもの:応用科学研究
全体計画
初年度は、大気海洋結合モデルを用いて、「気候変動に関する政府間パネルの排出シナリオに関する特別報告(IPCC SRES)」のA2とB1の2種類の排出シナリオに沿った人為起源外部要因切り分け実験を行う。これらの実験の結果を解析し、単位気温上昇ごとの降水量変化率が排出シナリオに依存する要因を調べる。
次年度は、降水量変化率が排出シナリオ依存性によって、影響評価にどのような誤差が生じるかを検討する。
今年度の研究概要
初年度は、大気海洋結合モデルを用いて、「気候変動に関する政府間パネルの排出シナリオに関する特別報告(IPCC SRES)」のA2とB1の2種類の排出シナリオに沿った人為起源外部要因切り分け実験を行う。切り分ける外部要因は、 (1)二酸化炭素などの温室効果ガスの濃度変化、(2)炭素性エアロゾルの排出量変化、(3)硫酸性エアロゾルの排出量変化、(4)対流圏と成層圏のオゾン濃度変化の4種類である。積分期間は、2001年から2100年までの100年間とする。それぞれの切り分け実験は、3本以上の異なる初期値から積分を始めるアンサンブル実験を行い、内部変動の影響を小さくする。また全ての外部要因を2000年条件で固定した2000年固定実験を行うことで、2000年時点での放射強制力がもたらす影響も定量化する。
これらの実験の結果を解析し、単位気温上昇ごとの降水量変化率が排出シナリオに依存する要因を調べる。排出シナリオ依存性の原因として想定されるものは主に次の3つである。
(i) 排出シナリオごとに温室効果ガス濃度の増加量が異なり、気温上昇量に差がある。このとき気温上昇量によって、1℃あたりの降水量変化率が変わる可能性がある。
(ii) 温室効果ガスとエアロゾルの強制力に対して、それぞれ気温が1℃変化したときの降水量変化率が異なるかもしれない。この場合、排出シナリオごとに温室効果ガスとエアロゾルによる気温変化の割合に差があるため、降水量変化率に排出シナリオ依存性が生じる。
(iii) 温室効果ガスとエアロゾルの非線形効果が顕著で、降水量変化率の排出シナリオ依存性をもたらしている可能性がある。
これらの仮説を検証することで、排出シナリオ依存性の原因を特定する。(i)は、A2シナリオとB1シナリオで「温室効果ガス濃度のみ変化させた実験」を比較することで調べることが出来る。(ii)は、「温室効果ガス濃度のみ変化させた実験」と「エアロゾル排出量のみ変化させた実験」を比較することで調査する。(iii)の問題は、外部強制力に対する応答の線形性・非線形性を調べることで検証する。
以上の実験およびデータ解析により、降水量変化率の排出シナリオ依存性の原因を特定し、気候システムの人為起源強制力に対する応答に関する知見を得ることが期待される。
課題代表者
塩竈 秀夫
- 地球システム領域
地球システムリスク解析研究室 - 室長(研究)
- 理学博士
- 地学,理学