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国立環境研究所辺戸岬大気・エアロゾル観測ステーションの開設

国立環境研究所辺戸岬大気・エアロゾル観測ステーションの開設

畠山 史郎

 東アジア地域では急速な工業化にともなって大気汚染物質の排出も増大し,その影響は一国にとどまらず大陸規模から北半球規模へと広がっている。このため東アジア域全体を視野に入れた広域大気汚染や対流圏大気質変動の研究の必要性が高まっている。東アジアにおける広域大気汚染や対流圏全体の大気質変動は反応性の高い(大気中での滞留時間の短い)物質の時間・空間的な変動に起因している。そのため,それぞれの反応性物質の時間的・空間的な分布の理解や輸送・変質過程の理解が必要である。

 観測からの現象解明のアプローチとしては,広域を一望する観測,空間的に密な観測とともに,様々な化学種やその物理・化学的な特徴を総合的に把握する拠点観測が重要である。地上の拠点観測の長所は,スペースや電力に比較的余裕があるため,多くの測器を用いた総合的な観測が可能であること,時間的に連続な観測が可能であり,適切な観測サイトを設定することによって,中国各地,韓国,日本等の様々な地域からの気塊を観測することができること,などである。特にエアロゾルの場合,それが持つ特性は,個数濃度,重量濃度などの濃度だけではなく,粒径分布,形状,光学・放射特性,そして構成する化学成分とその濃度などきわめて多岐にわたる因子に支配されており,それらを総合的に把握するためには一つの拠点に多くの測定機器を集めて様々な角度から観測する必要がある。

 沖縄本島は中国大陸,韓国,日本からの気塊が到来する頻度が高く,また東南アジアなど南方からの気塊や,バックグラウンドである太平洋の気塊をとらえることも可能である。アジア大陸から輸送されるエアロゾルと雲との相互作用に関するデータを得る上で沖縄本島北端の辺戸岬周辺はほぼ南限の位置であり,東アジアにおけるエアロゾルの分布と輸送を把握するには絶好のポイントである。

 このような観点から,このたび辺戸岬(沖縄県国頭郡国頭村,図参照)に国立環境研究所辺戸岬大気・エアロゾル観測ステーション(英語名:Cape Hedo Atmosphere and Aerosol Monitoring Station, 略称:CHAAMS,写真1参照)が開設された。民間の土地を借り受け,国定公園内にあることから,沖縄県の建築許可を受けて,本研究所の平成16年度研究基盤整備費によって建設されたものである。平成17年8月10日には開所式が挙行された(写真2参照)。

沖縄の地図
図 沖縄辺戸岬
建物外観写真
写真1 建物全体写真
奥の屋上利用可能な2棟のうち向かって左がA棟で物理・放射観測用,右がB棟で化学観測用,手前がC棟で集中観測用,その手前の屋根に窓のある小さい棟がD棟ライダー用である。又白い建物は従来からあるE棟で,炭化水素の観測用である。
開所式の様子の写真
写真2 開所式でのテープカット
手前より笹野大気圏環境研究領域長,宮城国頭村助役,大塚理事長,上間沖縄県文化環境部環境企画統括監,上原京急不動産常務取締役

 この観測ステーションは東アジア地域から輸送される様々な大気汚染物質を観測の対象とし,東アジアにおける広域大気汚染の状況や対流圏大気質の変動を総合的に観測するための拠点として位置づけられるものである。この観測サイトにおいて収集される地上観測データを中心として,波照間モニタリングステーションや隣接する環境省の国設酸性雨測定局のデータも包括的に利用し,東アジア地域における大気汚染関連物質の変質・輸送過程の状況や対流圏大気質の変動状況を明らかにすることができるものと期待される。

 現在,国連環境計画(UNEP)によって進められているABC(Atmospheric Brown Clouds-Asia)プロジェクトにおいても,重要なサイトになり得るものとして期待されており,日本における観測のスーパーサイト(様々な項目の観測が行えることと,1つの研究機関だけでなく,国内外の複数の研究機関・大学などが共同して観測に参加できる施設)として,本研究所を中心に観測研究を進めていく。

 本観測ステーションにおける観測の対象はあらゆるガス状大気汚染物質およびエアロゾルであるが,特に東アジア地域東南アジア地域から輸送されるものを中心的な観測の対象とする。ただし,温室効果ガスについては波照間島において本研究所地球環境研究センターが中心となった長期モニタリングが行われており,また,本サイトに隣接する環境省の国設酸性雨測定局では,主に降水やいくつかのガス状汚染物質の観測が行われているので,これらとの重複は避けることにしている。

 本観測ステーションでは,本研究所の研究者のみではなく,広く大学や他の研究機関の研究者にも観測への参加を呼びかけ,真の意味でのスーパーサイトとして観測を推進する。エアロゾル並びにガス状汚染物質の化学的な測定と,エアロゾルに関するライダー観測は本研究所を中心に行うこととし,さらに,エアロゾルの光学・放射特性などの物理的な性状に関する測定には,大学を含めた国内外の研究者が参加している。

 今後所内に運営委員会を設け,定期的にデータの検討会を開く他,データアーカイブ用のウェブサイトを開設・維持する予定である。

(はたけやま しろう,大気圏環境研究領域大気反応研究室長)

執筆者プロフィール:

村野さんと沖縄本島の端から端まで走り回って場所探しをしてから15年余り。所内外の皆様のご協力で本観測ステーションができあがりました。大学や他研究機関の研究者にもオープンなステーションとして共同研究をすすめ,いわゆるスーパーサイトとして運営していきたいと考えています。