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PCB処理と分解メカニズム

環境問題基礎知識

野馬 幸生

 2001年6月ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法(PCB特別措置法)が制定され,15年以内にPCB廃棄物を処分することが義務づけられました。これは,様々な環境媒体においてPCBが検出されていること,PCBの長期保管による紛失が発生しており保管の継続による環境汚染のリスク増大が懸念されていること,2001年5月には残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)が成立し国際的取り組みが促進されることなどから早期処理体制を構築するための法制化が必要と判断されたためです。

 PCBとはビフェニル骨格に塩素が1~10個置換したもので,置換塩素の数や位置によって理論的に209種類の異性体が存在します。市販のPCB製品では約100種以上の異性体が確認されています。PCBは化学的に安定で,熱により分解されにくい,酸化されにくい,酸・アルカリに安定,水に極めて溶けにくい,絶縁性が良い,不燃性であるなど多くの優れた特性を持っているため,熱媒体,トランス・コンデンサー用の絶縁油,感圧複写紙,潤滑油,可塑剤,塗料,印刷インキ,シーラント等広範囲にわたって使用されました。国内では1954年から鐘淵化学工業,1969年より三菱モンサントにより製造が開始されました。しかし,1968年におきたカネミ油症による中毒事件が契機となり1973年より化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律の第一種特定化学物質に指定され,製造等が禁止されています。

 カネミ油症事件では,ニキビ様発疹,色素沈着,手足のしびれ,痛み,倦怠感などの症状で約2000名もの認定された被害者が出ました。この原因はライスオイルを加熱脱臭するために使用されていた熱媒体としてのPCBにより汚染されたライスオイルを摂取したためであることが分かりました。また,その後の研究によって,熱媒体としての使用中にPCBが変性し,毒性の高いコプラナーPCB異性体やポリ塩化ジベンゾフランの増加が発症の一因であることが明らかとなりました。

 国内では約59,000トンが製造され,約54,000トンが使用されましたが,そのうち鐘淵化学工業で回収・保管していた約5,500トンが1987~1989年に高温熱分解処理されたのみで,残りのほとんどは使用していた事業所などで自己保管されています。保管量と現在も使用されている量を表に示しましたが,処理すべきPCB廃棄物は非常に多いということが分かります。高温熱分解処理は何度も計画されましたが,地方自治体や地域住民の同意が得られず,施設建設にはいたりませんでした。焼却により排気ガス中にPCBが含まれるのではないかダイオキシン類が発生するのではないか等の不安によるものですが,高温熱分解法は非常に高い分解効率で短時間にPCBを分解しダイオキシン類も発生しない安全な技術で,欧米では確立済みの技術として廃PCB処理に日夜使われている方法です。

 表.PCB廃棄物の保管量と使用量(平成14年度全国集計結果)
表.PCB廃棄物の保管量と使用量(平成14年度全国集計結果)

 高温熱分解法に変わる技術として化学処理法が開発されてきましたが,化学処理法はダイオキシン類の生成がない,モニタリングが容易,事故時の対応が取りやすい等の特長があります。化学処理法には脱塩素化分解法,水熱酸化分解法,還元熱化学分解法,光分解法,プラズマ分解法があります。脱塩素化分解法とは,化学反応によりPCB分子中の塩素原子を水素等に置換してビフェニルなどPCB以外の物質にする方法です。水熱酸化分解法とは,高温,高圧下での水のもつ強い反応溶媒特性を利用して,炭酸ガスや水,塩素,水素などに酸化分解する方法です。還元熱化学分解法とは,酸素のない還元的な状態の高温下において,PCBを熱的,化学的に分解する方法です。光分解法とは,紫外線(波長250~300nm)を照射することでPCB中の塩素を脱離させる方法です。プラズマ分解法とは,アルゴンのプラズマを発生させ,3000℃以上の高温プラズマ中にPCBを噴霧注入することにより,PCBを炭酸ガスや水,塩素,水素などに分解させる方法です。

 これらの処理技術では,PCBの分解とともにPCB中に含まれているダイオキシン類も分解されること,また新たなダイオキシン類が発生しないことの確認もされてきました。しかし,より安全性を高めるためこれらの分解過程においてPCBがどのようなメカニズムで分解していくのか,またPCBやダイオキシン類以外の有害物質,例えば他の有機塩素化合物は生成していないかなどの研究も進められています。

 一例として,脱塩素化分解法の一つであるパラジウム・カーボン触媒分解法(Pd/C法),金属ナトリウム分解法(SD法)と光分解法(UV法)でPCBを分解したときの例を示します。Pd/C法はPd/C触媒の存在下で常圧で水素ガスにより塩素を水素に置換する方法,SD法は窒素ガス中で金属ナトリウム分散体(5~10μm程度の金属ナトリウムを10~20%となるよう絶縁油に分散させたもの)を用いて脱塩素化する方法,UV法はアルカリ性イソプロピルアルコール中で紫外線を照射して脱塩素化する方法です。図に示したものは,オルト位,メタ位,パラ位に連続した置換塩素のある2,3,4-トリクロロビフェニルを分解したときのものです。この研究によって,UV法ではオルト位塩素が脱離しやすい,Pd/C法ではオルト位塩素が脱離しにくい,SD法ではパラ位塩素の反応性がやや高いなどが分かりました。

 図.2,3,4-トリクロロビフェニルの主分解経路
図.2,3,4-トリクロロビフェニルの主分解経路

 1999年より規模は小さいながらもPCBを保管している企業による自社処理も行われ始めています。国においても北九州市,大阪市,豊田市,東京都,室蘭市で広域的な処理が計画されています。本格的なPCB処理が始まりますが,トランスやコンデンサ等の解体・粉砕設備や容器・部材処理まで含めた総合的な処理やPCBを処理施設まで安全に運搬する計画も必要です。また,処理施設内や周辺環境のモニタリングも重要です。これから10数年間PCB処理が行われることになりますが事故が起きず,PCBが完全になくなることを願っています。

 (のま ゆきお,循環型社会形成推進・廃棄物研究センター)

執筆者プロフィール:

1950年生まれ。循環センター新設とともに2001年4月広島県からつくばに移ってきた。夏はつくばの別荘で避暑気分だが,冷える冬は苦手。魚つりが好きだが,広島とは違い海が遠いので,誘惑されず研究所に居座る日々を送っている。