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高木 宏明

 当研究所の現在の中期計画の研究体系が形づくられたのは,3年前の今頃である。赴任したばかりの私に研究戦略などあるわけはなく,必要に迫られて,その前の1年以上の議論の積み重ねで形づくられていた原型をもとに,短い期間の議論でそれを修正し,具体化せざるを得なかった。研究の世界ともなじんできた今,研究戦略についての雑感を述べてみたい。

 研究戦略は,長期的な視点にたって策定すべきであることは論を待たない。短期指向の研究戦略では,過去の蓄積を使い果たして,将来の力を失うことになる。ただ,長期的な視点というのはあくまで現時点から見てのものであり,社会の状況が変化すれば,将来の見方も変わる。ホットな問題であればあるほどその傾向が大きいことを最近の外部研究評価における循環型社会・廃棄物研究への評価で経験した。時間の経過とともに期待される研究課題,評価軸も変わってくる。長期的な視点にたった研究戦略といっても研究するのは現在であるので,時代の動きと連動して変化する長期的な視点と現在の研究とを対話させながら研究を進めるような仕組みを研究戦略に組み込むことが重要である。

 一方,時代に流されずに長期的に考えるべきこともある。研究所の強みであるような研究基盤(例えば,高度な計測技術)をどう継承・維持していくかといった問題である。これが研究所の将来の力を左右する可能性がある。地道な努力は力の源泉である。

 当研究所の特色の一つは,いろいろな分野の研究者がいて,分野横断的で総合的な研究が可能という点である。研究戦略を考えるうえで,この特色をいかに生かしていくかも重要なポイントである。ただ,研究を総合的にすることが目的化してしまうと研究戦略はうまくいかない。新しい研究ニーズが生じたときに,いろいろな分野からのアプローチが可能となるような蓄積をつくっていくことと,それらをまとめることができる広い視野を有するリーダーを育てていくことが大事である。

 当研究所は,環境行政に科学的知見を提供することをミッションとして研究を行ってきたが,独立行政法人になってからは,国民への説明責任ということも強く意識せざるを得ない。その観点からは,循環型社会形成,地球温暖化防止,化学物質管理などの社会的に関心の高い環境問題や環境行政での重要課題に中長期的な視点から重点的に取り組む姿勢を明確にすることは必須である。

 現下の課題だけではなく,将来生じる可能性のある問題について予防的な観点から実施する研究も必要である。平成15年度から(社)日本自動車工業会との共同研究として開始されたナノ粒子の健康影響に関する研究などがこれにあてはまる。

 環境技術の開発にも期待が寄せられつつある。環境省の平成15年度予算では,当研究所を対象としてナノテクの環境分野への応用,石油特別会計によるエネルギー関連の温暖化防止技術開発などの新たな環境技術開発予算が確保されている。産学連携という観点からも環境技術開発への期待は高まると思われる。当研究所は技術開発の経験が少ないので,予算を獲得するために無理矢理アイデアを絞り出すような方法では,研究所の評価を下げる結果に終わってしまうおそれがある。当研究所が環境技術開発において今後どのような役割を果たすべきかについて十分議論を行い,しっかりした研究戦略を策定する必要がある。

 以上が研究戦略に関する雑感であるが,こう書いてみると,時代の流れに合わせるのは大変だなと感じる。私を含めて多くの方々が,時代の流れを追いかけるのに疲れ果て,思考する時間がなくなっているように思われる。閉塞感のただよう現代においては,このような状況から解放された自由な思考,新たな価値観が求められている。「目的のない研究」,「趣味的な研究」,「何をやっているのという研究」ができる環境が必要であるように思う。排除すべきムダは多いが,創造すべき「ムダ」もあるように思う。「ムダ」をどう創造していくかが,研究戦略の一番のポイントかもしれない。

(たかぎ ひろあき,主任研究企画官)

執筆者プロフィール

研究所に来て3年が過ぎました。その間,環境とは直接関係しないいろいろな分野の本に触れることができ,思考の幅も広がってきたように思います。