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家電リサイクル法と循環社会

環境問題基礎知識

田崎 智宏

 今年度の4月から使用済みとなったテレビ,冷蔵庫,洗濯機,エアコンの家電四品目には,リサイクル費用として,2,400~4,600円が徴収されるようになりました。しかし,これを単なる費用負担だと考えては,現在のごみ・リサイクル問題を正しくとらえたことになりません。なぜならば,これは,大量生産・大量消費・大量廃棄の社会を見直し,循環型社会を形成する動きの一つだからです。

 家電リサイクル法は,正式には「特定家庭用機器再商品化法」といって,平成10年に制定されました。三年近くの準備期間を経て,実際にリサイクルが始まったのは,平成13年の4月からです。その仕組みは以下のとおりです。消費者は,家庭で利用している対象家電四品目を業者に引き渡すとともに,収集・リサイクル費用を負担しなければなりません。業者のうち,小売業者はそれをさらに製造業者等に引き渡し,製造業者等はこれら四品目を引き取り,それらの一定の重量割合をリサイクルしなければなりません。その割合とは,エアコンが60%以上,テレビ(ブラウン管型のみ)が55%以上,冷蔵庫と洗濯機が50%以上で,マテリアルリサイクル(金属類やプラスチックなどを原材料として利用すること)によって達成することとされています。これらは,金属類・ガラスをリサイクルすれば達成が可能です。法律上では,サーマルリサイクル(プラスチックなどを燃焼させて水蒸気や温水の形で熱エネルギーを得ること,熱回収ともいう)を行うことが想定されていますが,現段階では数値基準に盛り込まれていません。将来的には,プラスチックなどのリサイクルを加え,この割合を段階的に引き上げていくことが検討されるでしょう。また,エアコンと冷蔵庫の冷媒に用いられているフロン類については,オゾン層破壊防止のためにこれを回収し,適切に処理しなければなりません。

 消費者には,家電マニフェストと呼ばれる管理票が発行されます。これと同じ管理票が小売業者と製造業者等で保管されており,自分がリサイクル費用を負担した家電四品目がリサイクルを行う製造業者等まで適正に引き渡されたかどうかを確認できる仕組みになっています。

 そもそも,家電リサイクル法が制定された背景には,どのようなことがあったのでしょうか。まず,埋立地の残余容量がひっ迫しており,かつてないほど,廃棄物の減量とリサイクルが必要となっていることが挙げられます。また,家庭ごみと一緒に収集できないことや,モーターやコンプレッサーなどの非常に硬い部品が含まれており,粗大ごみ処理施設での破砕できないなど,これまで廃家電の処理を行っていた市町村が処理に苦慮していたことがあります。平成3年より適正処理困難物として25インチ以上のテレビ,250リットル以上の冷蔵庫については,製造・販売業者等の協力を求めることができるようになったとはいえ,それ以降も市町村がその処理に苦慮していました。それから,家電には金属類やガラスなど有用な資源が多く含まれているにもかかわらず,ほとんどリサイクルが行われていませんでした。

 アンケート調査によれば,8割近くの国民がリサイクルの必要性を認識しているように,リサイクルに対する社会ニーズは高まっています。そして,それを支える新たな法律が整備されてきています。環境基本法では循環が基本理念の一つに掲げられていますし,平成12年には循環型社会形成推進基本法というきわめて重要な基本法が成立し,発生抑制(リデュース),再使用(リユース),再生利用(マテリアルリサイクル),熱回収(サーマルリサイクル),適正処分という優先順位で対策を進めるという基本原則が示されました。また,改正リサイクル法,容器包装リサイクル法,建設リサイクル法,食品リサイクル法など,個別法の整備も進んでいます。では,一体だれがリサイクルを行うのか,また,その費用を誰が負担するのかということは極めて重要です。

 前者については,OECDで提唱されている拡大生産者責任(EPR)という考え方が重要です。製品について最も熟知しているのは生産者であること,また,リサイクルや適正処理のしやすさは製品の設計に大きく依存することなどから,これまで製造・使用段階まで及んでいた生産者の責任を拡大して使用以降の廃棄段階まで及ぶようにするのが合理的とする考え方です。家電リサイクル法では,拡大生産者責任という言葉は使われていませんが,この考え方を背景に,製造者等がリサイクルを行うこととなりました。

 後者については,排出者責任というごみ処理の原則が重要です。廃棄物処理法は,ごみの排出者が責任をもってごみ処理をしなければならないという基本的考え方に立っています。家庭ごみについては,各家庭がごみ処理を行うのは難しく,適当でないと考えられたため,市町村が代わりにごみ処理を行い,その費用に税金を用いることで,市民が間接的にごみ処理費用を負担して,間接的に排出者責任が全うされるようになっています。しかし,費用の負担感がない,ごみを多く出そうが少なく出そうが税金への負担額は変わらないことなどのために,ごみ量は一向に減らないという問題がありました。そのため,市町村において,ごみの有料化が議論されました。処理が比較的困難な粗大ごみについては,すでに多くの市町村において,処理費用の一部として数百円~千円程度を市民が負担して,市町村が回収・処理を行うようになっていました。家電リサイクル法では,それをさらに進め,消費者がリサイクル費用を負担し,業者が回収・処理を行い,基本的に市町村は回収・処理に関与しないようになりました。ただし,離島などの地理的条件が悪く回収しにくいところなどにおいては,市町村が回収を行っているところが一部残っています。

 このように排出者責任を強化するとともに,生産者の責任も拡大していくのが,現在のごみ処理ならびに循環型社会形成の大きな動きになっています。欧州でも家電製品をはじめとする電気・電子機器のリサイクル数値基準が定められ,それに基づいたリサイクルが行われようとしています。それに先駆けて行われた日本の家電リサイクル法は国際的にも注目されています。

 最後になりますが,家電リサイクル法によって,廃家電の不法投棄が増えるのではないかと心配されています。冷蔵庫,洗濯機,エアコンの不法投棄台数は,この4~9月の間に昨年度と比べて0.8~1.1倍と大きな違いはありませんが,テレビは1.5倍と大きく増えており,単純に廃棄時の費用徴収が悪いとはいえないものの,品目によってはその心配が現実化しています。現在,我が国では,自動車やパソコンについても,家電リサイクルと同様に,リサイクルを進める体制が整えられつつあり,こちらでは購入時にリサイクル費用を負担することが検討されています。

 消費者には,排出者としての責任をもってリサイクル費用を負担することに理解をいただくとともに,国全体としては,できるだけ不法投棄が起こりにくい仕組みを考える必要がでているでしょう。循環型社会を形成する試みは,まだまだ始まったばかりです。

(たさき ともひろ,循環型社会形成推進・廃棄物研究センター)

解体の写真
家電リサイクルプラントのテレビ解体工程

執筆者プロフィール

1973年生まれ。この4月に国立環境研究所に入所。1月末に長男が産まれました。研究に没頭する余り父親になる心の準備ができないでいる一方で,子供を溺愛しすぎて研究が手につかなくなりそうな自分にも心配でいます。