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理事 浜田 康敬

 国立環境研究所が独立行政法人として再スタートを切ってから約4ヵ月が過ぎた。「独立行政法人としての研究機関はどう運営されるべきなのだろうか」,未だに自問自答の日々である。

 いまさら引用するまでもないと思うが,独立行政法人通則法の第二条に,『「独立行政法人」とは,国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務及び事業であって,国が自ら主体となって直接に実施する必要のないもののうち,民間の主体にゆだねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるもの又は一の主体に独占して行わせることが必要であるものを効率的かつ効果的に行わせることを目的として,この法律及び個別法の定めるところにより設立される法人をいう。』とある。

 このような大枠の概念のもと,我が国では前例のない独立行政法人をどう運営するかという大きな命題が与えられている中で,その「効率的な運営」については明確な課題として示されている。平成13年4月1日付けで環境大臣から当研究所に指示された中期目標においても,「第一 目標の期間」に続く第二の項目として「業務運営の効率化に関する事項」が掲げられている。このような要請に研究所はいかに応えていくべきなのだろうか。

 「効率的」の一般的な意味は,業務のために投入した人的,物的資源に対してできる限り価値のある成果を上げるということであろう。しかし,製品を作ったり,サービスを提供するというような業務と違って,知的活動の集約である研究業務においては成果の絶対的な価値を測る尺度はない。したがって,それが効率的に行われているかどうか,つまり「効率性」を判断するのは容易なことではない。特に,当研究所が行っている環境研究に関する効率性の判断は極めて難しいと思う。

 その理由の第一は,民間では実施されないような経済財に直結しない研究の成果の価値をどのように評価するかという問題があることである。現在行われている研究成果に関する評価は,研究目標の妥当性や目標に照らした達成度を判断するものでしかない。このため,国家的研究として重要なものであっても,例えば,息の長い現象解明の研究や脚光を浴びる機会の少ない地道な基礎的研究などについて,効率性は相対的に低いと見られがちである。

 第二には,環境研究は内容が非常に広い分野に及ぶという問題がある。よく言われるように,環境研究は地球規模から地域規模までの環境を対象として,人間活動による様々な影響を計測・予測するとともに,その影響を最小にする方策を見いだそうとする研究であり,広範囲な科学分野を動員する必要があるものである。したがって,それぞれの研究課題はまさにジグソーパズルの一片を構成するためのものが少なくなく,個々の成果だけからではその価値を必ずしも十分に判断することができない。

 それでは研究所としての業務の効率化を如何に追求すれば良いかについて,現時点では極めて常識的な答にしか行き着かない。すなわち,多少の誤解を覚悟で簡明にいえば,研究所の目指す方向について意欲ある研究者を軸に据えた研究体制を作り,そうした研究者が実力を発揮できるように研究環境を整備することが結局は効率化への近道ではないかと考えている。その際,国立環境研究所に求められている特色のある研究には十分な資源を投入する覚悟がなければ高い効率をもたらすことは期待できないが,そのような投資を有効に活用する適切な研究管理が伴わなければ一転して極めて効率が悪いものになる危険性もあることに留意しなければならない。

 いずれにしろ,研究業務の効率化のためには,国立環境研究所への社会的要請に即した明確な目標を持って,その実現に向けて思いきった業務運営上の決断をしていくことが必要なのであろう。関係各位のご支援とご叱正をお願いしたい。

<div style="text-align:right">(はまだ やすたか,企画・総務担当理事)</div>

執筆者プロフィール

1944年兵庫県生まれの和歌山県育ち。大学では都市工学科の衛生工学分野を専攻。入省した厚生省では3年間かかわった廃棄物行政を除いて水道行政を担当。環境庁などに在籍した14年間余に様々な環境行政を経験。1988年から2年間は当研究所の主任研究企画官を務め国立公害研究所から国環研への改組にも参画。2001年4月から現理事。趣味を強いて挙げれば「ヘボ碁」。