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カールスルーエ大学独仏環境研究所から

海外調査研究日誌

寺園 淳

 2000年10月から一年間の予定で旧科学技術庁長期在外研究員(現日本学術振興会海外特別研究員)制度によって,ドイツのカールスルーエ大学の独仏環境研究所(DFIU)に来ています。DFIUは環境分野における独仏間の研究体制支援を目的として,独仏間で隣接しているバーデンヴュルテンベルク州(独)とアルザス地域圏議会(仏)の支援を受けて1991年にカールスルーエ大学(独)とストラスブールルイパスツール大学(仏)に設立された研究機関です。私がいるドイツ側のDFIUは4つのグループから構成され,全体で20名程度の研究員と,私のような客員研究員や学生などが同数程度活動しています。

路面電車の写真
写真 カールスルーエ市内の路面電車

 私の所属するグループのテーマは「VOC(揮発性有機化合物),NOx,SO2などの大気汚染物質排出削減対策や規制(EU溶剤指令など)に関する環境・経済効果の分析」「中小企業(自動車修理など)における物質フローマネジメントと最良利用可能技術(BAT)の決定」「多媒体環境影響評価と多基準意思決定支援」など多岐にわたっています。DFIU全体の共通点として,政策効果を環境面と経済面の双方について評価し,それを現場に適用しようとする姿勢が伺えます。

 私は,グループ内での自動車修理産業におけるVOC排出に関する蓄積を利用しながら,日独の自動車使用実態と環境負荷の比較分析に関する研究に取り組んでいます。また,グループ内で「EU溶剤指令に係る情報交換システムの構築に関する研究」(EUより受託)にも参加し,各国や業界における規制や技術動向に関する情報収集の作業も行っています。

 実はDFIUでの研究テーマは,その多くがEU内での諸規制と関係しています。最もよく耳にするのは IPPC指令(IPCCではありません),すなわち「総合的環境汚染の防止と制御(Integrated Pollution Prevention and Control)に関する指令 96/61/EC」というもので,特定の産業活動に対して設備ごとにBATに基づく排出限界量設定などをするものです。また,このIPPC指令を受けた形の(通称)溶剤指令 99/13/ECというものもあり,塗装などの産業活動に対するVOC排出削減や加盟国間での技術情報交換などが求められています。

 上記のようなEU指令の実施にあたっては,EU,加盟国,州政府などの公的団体や業界が法やガイドラインを整備する必要がありますが,その作業の大部分は情報蓄積のある専門機関に委託しているのが実情です。よって,ある研究機関が受託した研究で一度成功するとその評判が高まり,同種の委託(受託)研究を多くの公的団体や業界から獲得できる好循環が生まれるという仕組みです。当グループもEU,ドイツ連邦,州などから現在多数の委託研究を受けており,「また新規に受託できた」と喜ぶ同僚の姿などは大変印象的でした。委託研究と研究活動の自由との関係は微妙ですが,今後の環境研にとって参考になることがあるかもしれません。

 また,欧州内で(学生を含めて)研究者の異動が活発なことや,EU指令を巡る展開などを近くで見ていると,大げさに言えば欧州が一つの世界として機能しているのが実感できるような気もしてきます。日本からの情報発信や交流もますます必要になるでしょう。

 このような環境で,好奇心と語学の壁がぶつかり合いながら,何とか当地での研究関連情報と手法をモノにしようとバタバタとしているような状況です。また日常面では,世界的にも有名な市内の路面電車を利用した環境にやさしい都市生活を満喫することができるので,大変助かっています。このような都市基盤整備こそ環境低負荷型社会への早道なのではないかとも思索する日々ですが,そうした学内外のあらゆる経験が帰国後生かせるように,当地での残りの期間を有意義に送ろうと思います。

(てらぞの あつし,社会環境システム研究領域)

執筆者プロフィール

語学力に加えてシャイな性格から来る交流上の苦労は未だにありますが,3月末に家族も合流し,無事に生活しています。歩行距離の増加によって,つくばで太り気味だった体の減量に成功。最後に,渡航前は何名かの方から独法化前後の大事なときに環境研を不在にする勇気を称えられ(?)たりもしましたが,不在中,関係者に大変ご面倒をおかけしていますことに,この場を借りて謝意を申し上げます。