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浚渫ヘドロを用いた人工ヨシ湿地の創出に関する基礎的研究

研究ノート

徐 開 欽

 水域と陸域の遷移帯であるエコトーンの役割が近年見直されつつあり,人工湿地の創出等の動きが注目を浴びている。湖沼等の閉鎖性水域における環境問題として,(1)生活雑排水や農業排水等非点源負荷による水質改善が見られず,富栄養化も進行し,環境基準の達成率が依然低いこと,(2)航路維持や水質改善のために大量の底泥が浚渫されているが,その浚渫底泥の有効利用や処理処分が極めて困難な状況にあること,(3)沿岸水域に見られる湿地・エコトーンは,自浄作用があるにもかかわらず,埋め立てや人工護岸等によって減少してきたことなどが挙げられる。

 これらの環境問題を解決する方法として,浚渫ヘドロを利用して,水質浄化に有効とされるヨシ湿地を創出し,このヨシ湿地により対象水域の水質浄化を図る「ウェットランドシステム」が提案されている(図1)。

図1ウェットランドシステムの概念図

 ヨシ原の植栽手法は(1)茎植え,(2)地下茎植え,(3) ブロック植え(株植え),(4)播種,(5)種子苗植えの5つが考えられる。(1)~(3)のようににヨシの根茎を利用した工法は数多く研究されているが,植え付け用のヨシを得るために現存ヨシ原を破壊しなければならないこと,切り口の処理および運搬が困難であること,植栽作業が大変であること等の欠点がある。  また,浚渫ヘドロ上での植栽作業を考えると,その作業が一層困難となることが予想される。(4)の播種は,八郎潟の埋立干拓の際に当初,ヨシの蒸発散能力を利用する目的でヨシ種子を大量播種した例があり,目的は違ったが実際に広範囲にヨシ原を創出することができた。しかし,水域を対象にする場合,種子が定着しにくいことから目的場所に創出するのが難しく,発芽後湛水するとすぐに枯れてしまう可能性があるので着種場所をしっかりしないと創出は困難であると考えられる。(5)の種子苗植えは,本研究で用いた手法で,ヨシ苗は簡易土壌などに種子を播種して設け,創出する場所の水位よりある程度高く成長した状態で植栽を行う。育苗場所の確保や手間などに工夫が必要であるが,それらを改善できれば茎植え手法の問題点を解決でき,ヨシ原創出の有効な一手法といえる。  種子苗の育成方法は図2に示すように,実験圃場で採取したヨシの種子を市販の育苗用土壌に蒔き,水切りアミにのせ,パット内に入れて育苗した。発芽に及ぼす光,温度,塩分の影響を調べた結果,ヨシの種子から発芽させる際に,低温処理を施した上で,30℃前後の温度条件と明条件を満たし,塩分濃度が0.5%以下であれば,発芽率が90%以上となることが示された。これらの環境条件は,比較的容易に維持することが可能であるので,前年度に採取したヨシの種子から発芽させて大量のヨシ苗を容易に供給することが可能であることが示された。

図2ヨシ苗の育成方法

 「苗植え」は「茎植え」に比べ,活着率が良く,活着したものの平均生育高さも大きいことから,ヨシの移植方法としては確実な方法であると考えられる。さらに,「苗植え」の場合,ヨシの種子を採取するための労力が少なく,採取場所のヨシ湿地を損傷することがないため,既存の湿地生態系への影響が少ない。したがって,ヨシ湿地を人工的に創出するために,大量のヨシを供給し植栽する方法として,種子から発芽生育させた苗を植栽する「苗植え」は実用性が高い方法であると考えられる。

 さらに,浚渫ヘドロを利用する観点から,実際の植栽については,水分を多く含む軟弱な地盤での植栽作業を考慮する必要がある。本研究で使用した育苗用土壌における種子の発芽率は,シャーレを用いた実験結果とほぼ同様の80%以上が得られた。したがって,1個の育苗用土壌に対して,数粒の種子を蒔くことにより,ほとんどすべての育苗用土壌についてヨシ苗を得ることができる。しかも,生育したヨシ苗は,そのまま浚渫ヘドロ表面に投入することができるので,軟弱地盤での作業が容易になると予想される。

 また,1年後にヨシ植栽用タンクからヨシを取り出して見たところ,ヨシ植栽用タンクの底部のすみずみまでヨシの根茎が発達しており,とぐろを巻いている状態であった。これは自生のヨシ原の根圏と大差がない。浚渫ヘドロは採取したときには黒灰色であったものが赤茶色になっており,中空構造となっているヨシの地下茎を通じて,浚渫ヘドロの中に酸素が供給され酸化されたものと考えられる。このことから,ウェットランドの基盤土壌として,また浚渫ヘドロの処理処分,ヘドロの改善効果を合わせて有効に活用できると考えられる。

 浚渫ヘドロを利用した「ウェットランドシステム」の確立のため,浚渫ヘドロへのヨシの植栽に必要な大量のヨシを供給する技術として,ヨシを種子から発芽させて育苗する技術が実験的に示せた。また,創出したヨシ湿地を用いて汚濁水域水質浄化実験(写真)からそのメカニズムも解明しつつある。今後は,実際の沿岸域・湖沼等の閉鎖性水域において,浚渫ヘドロを利用した人工湿地創出の実証試験が必要であると考えている。

浚渫ヘドロ上にヨシ苗を栽培したシステムによる水質浄化実験の概要
写真:水質浄化実験の写真

(じょ かいきん(XU ,Kai- qin ),水土壌圏環境部水環境質研究室主任研究員)

執筆者プロフィール:

中国福建省尤渓県生まれ,84年来日87年東北大学大学院工学研究科土木工学科修士課程修了,90年同博士課程修了, 92年東北大学工学部助手,96年同助教授,97年より現職。

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