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熱帯林生態系の構造解析

プロジェクト研究の紹介

古川 昭雄

 熱帯林が地球の陸地に占める割合は7%に過ぎないが、熱帯林に生息する生物は、地球上に生存している生物の50〜80%になるといわれている。世界の熱帯林の面積は、過去には陸地面積の16%を占めていたが、1975年頃までにはその42%が伐採され、現在は全陸地面積の7%を占めるに過ぎなくなってしまった。このような熱帯林の消失がそこに生息する多くの野生生物の消滅につながることが危惧されている。すなわち、熱帯林の消失によって動植物種が滅びたり、種の維持が困難なほどに生息地が狭められている。一度滅びた種は、二度と地球上に戻ることはなく、生物資源の保存、確保といった面からも緊急に解決しなければならない問題である。さらに悪いことには、熱帯林にどのような生物種が生存しているのかさえも分かっていない。

 一概に熱帯林といっても地域によってその様相は著しく異なる。それは主として降雨の季節変化による。赤道直下のボルネオ島のバリクパパンにおける年間降雨量は2,200mmを超し、年間を通して雨の降らない乾期がなく、熱帯多雨林と呼ばれている。熱帯多雨林を構成している樹には、温度や降雨に季節変化がないため年輪が見られない。北緯10度付近になると、年間降雨量は熱帯多雨林地域よりも多いものの、乾期があって林相も一変し常緑季節林と称されている。さらに北上してタイのチェンマイあたり(北緯20度)では乾期が長くなり、落葉季節林と呼ばれる熱帯林になる。

 現在のところ、熱帯林伐採跡地への植林が試みられているが熱帯林更生にはほど遠く、自然条件における熱帯林生態系の基本的な知識、特にその構造に関しての知識が研究の基盤として必要である。

 このような熱帯林の消失を防ぎ、回復させるための科学的知見を集積するために、平成2年度から環境庁の地球環境研究総合推進費によって熱帯林の研究が開始された。この研究では、種の多様性が高いマレーシアの熱帯多雨林を対象に熱帯林生態系の自然環境及び構造の解析、熱帯林生態系における野生生物種の多様性、熱帯林内外の微気象要因の解明について研究を推進する予定である。さらに、本年度より熱帯林の修復に主眼をおいた研究も開始する予定である。

 この研究には、国立環境研究所のほかに、農林水産省から森林総合研究所、農業生物資源研究所、熱帯農業研究センター、文部省から京都大学、九州大学、愛媛大学、大阪市立大学と日本野生生物研究センターが参画している。本年度から開始する熱帯多雨林の修復機構に関する研究には、東京大学と名古屋大学が新たに参画して共同研究を行う予定である。また、マレーシアの熱帯多雨林を対象としているため、マレーシア森林研究所とマレーシア農科大学が現地の研究機関として参画している。

 本年3月には国立環境研究所と森林総合研究所から各々6名、農業生物資源研究所と熱帯農業研究センター、京都大学、九州大学、愛媛大学、日本野生生物研究センターから各1名の総勢20名がマレーシア森林研究所と農科大学を訪問し、調査地の選定ならびに予備的調査を行った。調査はマレーシア国の半島部とし、1960年代にIBP(国際生物学事業)によって生物生存量の調査が行われたパソーを主たる調査地とした。パソーは低地熱帯多雨林で、熱帯多雨林地帯の中では比較的降雨量が少なく乾燥した場所である。近年、低地熱帯多雨林は、開発が進んだために、ほとんど残っておらず、貴重な調査場所と考えられる。

 マレーシア半島部の面積は131,598㎞2で、熱帯林は1980年時点で69,780㎞2残っている。1989年時点でのマレーシア全体の人口は 1,740万人、人口増加率は2.2%/年で、1984年にマレーシア政府は人口を7,000万人にまで増加させる政策を打ち出している。マレーシアにおいても熱帯林の伐採が進み、平地の熱帯林はほとんど伐採されてゴムとオイルパームが栽培されている。マレーシア半島部を回った感触では、半島部での焼畑は山岳民族によって行われている程度で、熱帯林の伐採は材木の切り出しと農耕地の拡大によっているようである。一方、熱帯林保護の重要性も認識されており、自然保護区も各地に設けられている。その中でも首都のクアラルンプールから北東に約150㎞の地点にあるタマンネガラは規模も大きく動植物種も豊富に残っている。また、半島部の南にあるエンドーロンピンを新しい保護区にする計画がある。近年、マレーシアの経済発展は目覚ましいものがあり、発展途上国から脱皮しつつある。それに伴って自然の保護に関心が向けられ、自然保護区の設定や熱帯林を観光資源として売り出そうとしている。このようなマレーシア側の状況の変化は、熱帯林プロジェクトの目的とマレーシア側の研究者の興味とが合致し、マレーシアの2研究機関の積極的なプロジェクトへの参画という形となった。

 今回のマレーシアの予備的調査の成果を踏まえて、具体的な研究計画を設定し、マレーシアの2機関を含め、多くの機関の共同研究によって熱帯林の保全に役立つ知見を集積していきたいと考えている。

(ふるかわ あきお、地球環境研究グループ森林減少・砂漠化研究チーム総合研究官)