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ラジコンヘリコプターを用いた空中撮影による湿原草本種の同定

Summary

 湿原内には絶滅危惧種をはじめとした多くの希少な植物が生息しています。しかし、湿原は踏査性が極めて悪く、地上調査は非常に困難です。低層湿原では自分の背よりも草丈が高いヨシやオギなどが優占し、進行方向すら見失います。一方で、ミズゴケを主体とした高層湿原は極めて脆弱であり、調査そのものが攪乱要因になります。そこで上空から湿原を観測する方法、リモートセンシングを湿原調査に導入し、絶滅危惧種の把握を試みました。

航空機リモートセンシングによる草本植生の草丈の推定

 人工衛星や飛行機などを使った観測方法をリモートセンシングと呼びます。人工衛星による観測は、衛星の観測周期や通過時の天候条件が合わず、植物の季節変化の追跡など、必要とするタイミングに対して観測が出来ないことが多々あります。更に商用の高解像度衛星画像でも数十cm程度の解像度であり、詳細な湿原植生の把握には不十分であることから、私たちの研究では航空機によるリモートセンシングを湿原調査に取り入れました。航空機搭載型のカメラは、旧来のフィルムタイプのカメラから急速にデジタル化が進んでいます。地上10cm程度の高い解像度の撮影ができるだけでなく、立体処理により地上物の形状や高さが得られるようになり、建物や森林の調査などに適用されつつあります。そこで59種類もの絶滅危惧種・準絶滅危惧種が生息する渡良瀬遊水地を調査対象とし、航空機搭載型デジタルカメラによる観測を行いました。取得画像の立体解析により草本群落の草丈を面的に求め、これを検証するために最大5mにもなるヨシ・オギ群落など計17ヵ所における草丈を測定しました。比較の結果、リモートセンシングから得られる草丈の推定値は草本の最も高い部分(草丈先端高)ではなく、葉が密になっている一番高い部分、即ち航空機カメラの解像度でも撮影できる部分の高さが得られていることがわかりました。更に、湿地内の草丈分布は非常に不均一であることも判明しました(P.9)。この草丈分布と撮影画像の色情報などを複合利用した統計解析に基づいて、ヨシやオギといった大型の優占植生に隠れ、上空からは確認することが困難である絶滅危惧種の分布予測を行っています(図3)。

図3 航空写真の色や草丈などに基づいて推定した絶滅危惧植物トネハナヤスリの分布図。実際に生息が確認された黄色の点と、推定存在確率が高い白っぽい場所が一致していれば予測がよく合っていることを示す。

ラジコンヘリコプターを用いた空撮による草本個体種の同定

 一方、デジタル空撮の画像からは樹木や草本植生の分布までは識別できるものの、10~20cmの解像度では草本植生そのものが何であるかを画像から直接判断することは不可能です。そこでラジコンヘリコプターによる空中撮影を行い、草本個体種の同定を試みました(図4)。飛行コース・対地高度、撮影点を予めプログラムできるラジコンヘリコプターを用い、約300m×300の範囲を対地高度20~30mの低空撮影を行った結果、1cmよりも細かい解像度での撮影画像を取得しました。これはヨシとオギなど似た葉の形態を持つ植生も十分に判別できる分解能です。ヘリコプターに搭載されているGPSデータの解析により付与された撮影画像上の地理情報(緯度・経度・標高)に基づいて、同一個体を継続的に撮影し、その変動を追跡する調査への適用も可能です。今回は市販のデジタルカメラを搭載した可視画像の撮影でしたが、観測対象に応じて近赤外や熱赤外のカメラに換えることも容易であることも特徴の1つです。調査圧に対して脆弱な生態系や、直接踏査が困難な生態系に対し、地上調査を補完する新しい調査手法としての活用が期待されます。

図4 渡良瀬遊水地での撮影事例
ほぼ同じ季節に同一場所を撮影したデジタル航空写真(右)とラジコンヘリ(左)の解像度の比較。デジタル航空写真の20cmの解像度では不可能な草本個体の確認が、ラジコンヘリ撮影では十分可能であることがわかる。