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嫌気性排水処理(メタン発酵)技術の研究動向

研究をめぐって

 低濃度有機性排水を対象にした無加温メタン発酵処理技術を開発。曝気による排水処理と余剰汚泥の処理に要していたエネルギー消費を大幅に削減するとともに、最終生成物としてメタンガス(エネルギー)を回収する「省」「創」エネルギー型の資源循環型排水処理技術の実用化を進めています。

世界では

 メタン発酵(Methane Fermentation)とは、酸素の無い嫌気条件下で複数種の嫌気性細菌の代謝作用により有機性排水・廃棄物等に含まれる有機物をメタン(CH4)と炭酸ガス(CO2)にまで分解する反応の総称です。メタンは天然ガスの主成分であるため,エネルギーとしての利用が可能であり、有機性廃棄物の資源化技術としても着目されています。また、水中に酸素を送り込むための曝気動力が不要で、余剰汚泥(排水処理に伴い発生する増殖菌体)の発生量も少ないため省エネルギー型の処理法として知られています。特に、畜産廃棄物や生ごみ、余剰汚泥等の有機性廃棄物の処理において同様な原理を用いた処理技術は嫌気性消化(Anaerobic Digestion)として知られ、すでに100年以上の応用の歴史があります。

 メタン発酵の排水処理への適用については、1980年代、オランダを中心とする国家的な技術開発プロジェクト等の推進により、現在、産業排水処理で広く用いられている上昇流嫌気性汚泥床法(Upflow Anaerobic Sludge Blanket:UASB法)の基礎が確立されました。その後、1980年代後半~1990年代には、食品系の産業排水を中心として世界的に技術の普及が図られました。またブラジル、メキシコ、インドなど熱帯地域の開発途上国では、維持管理の簡便さやコストの安さから、嫌気性処理(UASB法)が都市下水処理に適用されています。

国内では

 近年、地球温暖化防止、循環型社会の形成、バイオマス利用等の様々な観点から、メタン発酵技術の重要性・有用性が認識され、技術開発が国内においても進んでいます。特に廃棄物処理では、1990年代後半から、「汚泥再生処理センター事業(し尿、浄化槽汚泥等の処理):旧厚生省」「食品リサイクル法(食品系廃棄物処理):農林水産省、環境省、経済産業省(3R政策)」など国策としての事業推進がなされています。2002年12月に閣議決定された「バイオマス・ニッポン総合戦略」には下水汚泥を含む廃棄物系バイオマスのエネルギーまたは製品としての利用推進と技術開発・実用化推進等が盛り込まれています。

 有機性排水処理へのメタン発酵技術の適用は、省エネルギー、汚泥削減の要求が高い産業排水に対して1990年代より積極的になされてきました。当初は、欧州からの技術導入が主でしたが、近年では日本独自のメタン発酵処理技術の開発と適用がなされてきています。現在、中・高濃度の産業排水(食品の製造や加工に関わる排水等)の処理に嫌気性処理UASB法が広く用いられており、日本においても200基以上が稼働しています。

国立環境研究所では

 量的に多く、低有機物かつ常温(10~25℃)で排出される生活排水や食品加工等の産業排水に対しては、嫌気排水処理の鍵となるメタン生成細菌などが不活性化してしまうため省エネルギー処理であるメタン発酵技術の適用が困難でした。

 私たちは、メタン発酵処理技術の適用がなされていない、これらの低濃度排水の無加温処理に対応可能な、排水処理技術(グラニュール汚泥床法)やその制御方法などの開発に、海外の研究機関や民間企業と連携して取り組んでいます。

 開発を行っているメタン発酵処理法は、特に国内の産業排水処理分野や省エネルギー(低コスト)が要求される開発途上国での排水処理分野での技術導入の要望が高く、現在実用化を見据えた研究に移行しています。技術の実用化がなされれば、現状の好気性排水処理に対して70%以上もの消費エネルギーの削減が可能になり、水環境保全だけでなく、地球温暖化防止にも大きく寄与できます。

写真:微生物燃料電池の基礎研究も開始

 この間、特許出願4件(特許公開2008-36529、メタン発酵による排水処理方法及び装置他)、論文発表15件、学会での口頭・ポスター発表58件など、多くの研究成果を発表してきました。嫌気性排水・廃棄物処理に関する国際会議(Anaerobic Digestion 2007)において高い評価も得ています。また、第41回環境工学研究フォーラム自由投稿セッション賞(2005年)を受賞。NEDO産業技術研究助成事業(2003~2008年)、国立環境研究所特別研究(2006~2008年)、環境省環境技術開発等推進費(2008~2010年)等の競争的資金を得て研究開発を推進してきました。

 また、次世代の省・創エネルギー型排水処理技術としての期待が持たれる微生物燃料電池(MFC=Microbial Fuel Cell)に関する基礎研究も開始しました。微生物が有機性排水を分解して自らのエネルギーを獲得する際の代謝能力に注目して、有機物の化学エネルギーを電気エネルギーに変換させるのが微生物燃料電池です。処理にかかる消費エネルギーも少なく、効率的な発電が可能などの優れた特長を有しており、今後の研究成果が期待されます。

アジア地域における排水処理の支援

 アジア地域の経済発展はめざましく、それに伴い1次・2次産業由来の有機性排水(製糖排水、染色排水、ゴム製造排水、パームオイル製造排水等)の排出量も増大しています。特に、東南アジア地域では需要拡大にともないバイオエタノールなどの生産量が急増しているだけに、有機性排水処理をいかに効率よく行うかが大きな課題となっています。

 バイオエタノールの生産原料としては、主に廃糖蜜(サトウキビより砂糖を生産する際に排出される廃液)とキャッサバ(イモ類)が用いられており、例えば廃糖蜜を原料とするエタノール生産では、生産エタノール量の約10倍もの高有機物濃度廃液が排出されます。

 これらの廃液は、嫌気池(安定化池)などで処理される場合がほとんどですが、処理時間が長く温室効果ガスであるメタンを大気中に放散する要因となっています。現在、国立環境研究所の特別研究として糖蜜系廃液の適切処理技術の開発を進めています。海外研究機関と連携して、水環境汚染の防止や嫌気池からの強温室効果ガスの発生を抑制する、開発途上国にも普及可能な循環型の廃液処理システムの開発を目指しています。

写真
生活排水への嫌気性処理技術(UASB法)の適用例(インド)。処理水質が不十分なため、水質維持のための適切な運転方法や後段処理技術の導入が求められている。