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日本から─アジア地域の観測サイトにみる炭素収支

Summary

 亜寒帯から熱帯に至るまで多様な気候領域を持つアジアには、巨大な炭素蓄積を持つ北方カラマツ林や種多様性を持つ熱帯多雨林など、世界的に見ても重要な生態系が各種存在します。ここでは、アジアの各観測サイトと天塩、富士北麓サイトでの炭素収支研究の最新の結果を紹介します。

各種生態系で観測された炭素収支の季節変化に関するサイト間比較

 アジア観測サイトのデータを収集して年間、月別に炭素換算で生態系純生産量(NEP)の季節変化を表しました。NEPは植生の違い、気温と降水量の季節変化の差異を反映してサイトごとに特色あるパターンとなっています(図4)。

図4
図4 森林8サイト、草原、水田のNEPの季節変化

 ロシア・中央シベリアから北海道にかけてのカラマツ林生態系(A)~(D)を比較すると、年平均気温が高くなるにつれて生育期間(NEP>0の期間)が長くなり、またNEPの最大値が高くなる結果が明らかに示されました。また、落葉樹林(A)~(E)と常緑樹林(F)~(H)との違いを比較すると、落葉樹林には明瞭な季節変化がありNEP>0となる生育期間とNEP<0となる非生育期間とで区別が見られました。一方で、常緑樹林でのNEPの季節変化の振幅は小さく、生育期間・非生育期間の区別は不明瞭であることがわかりました。

 水田(J)においては夏季の耕作期間に大きなNEPのピークがあり、耕作植物の特性を示しています。本研究では、データの集約のみでなく、観測面での技術的連携を行い、データの解析手法についても整合性を高めた結果として、アジアにおける各気候帯、各種生態系のNEPの季節変化パターンを精度良く評価できるようになり、それぞれの特徴について高度な解析が可能となりました。(環境省地球環境研究総合推進費—2002~2006年度、「21世紀の炭素管理に向けたアジア陸域生態系の総合的炭素収支研究」から)

森林の成長過程を通した炭素収支の長期観測

 天塩サイトでは、2001年夏から森林の炭素収支を観測し、その後育林過程から炭素収支がどのように変動するかを観測しています。このため2003年1~3月に森林を皆伐し、10~11月にかけて2年生のカラマツ苗(約50cm)を1ha当たり2400本、計3万3000本植樹しました。

 図5はその継続観測結果です。伐採前の針広混合林では、炭素収支も樹木や林床のササによるCO2の吸収(GPP)と土壌や樹木・ササの呼吸(RE)は、ほぼ拮抗しており、その差分(NEP)は若干の吸収となりました(緑の部分は+側が放出、-側が吸収となります)。植林前の伐採跡地では、繁茂状態となったササによる光合成でCO2の吸収は行われましたが、値は約1/3に減少しました。しかし、REは樹木がないにもかかわらず値は2/3の減少に留まっています。これは、太陽光が地表にまで届くようになって地温が上昇し、土壌呼吸が増加したものと考えられます。その結果、生態系として大きくCO2を放出することになりました。

図5
図5 北海道・手塩サイトのCO2移動量の推移(図中の数値は、それぞれの年間総量(gC/m2))

 植林でササは皆伐したのですが、植樹の2年後にはさらに繁茂状態となり、針広混合林当時のCO2吸収値の2/3程度まで回復しました。また、REは伐採跡地の値とあまり変わらず、結果として生態系からのCO2の放出は減少しつつあります。

 植樹の3年目になると、カラマツ苗は樹高も約1.5mに成長しましたが、バイオマス量は繁茂するササに比べ極めて少なく、カラマツ幼樹がCO2の吸収に貢献しているとはまだい言い難い面があります。しかし、カラマツはその特徴から今後急速に成長することが予想され、本観測林が再植林によるCO2の良好な吸収源として観測されるのもそう遠い先ではないと考えられます。

富士北麓林での炭素収支観測

(1)2006年1~12月の観測結果から

 富士北麓サイトは、富士山の山梨県側の標高1100m前後、150ha規模で広がるカラマツの人工林にあります。このサイトは地形的に単調で植生としても均一な上、森林管理の履歴が十分に把握されているため、群落スケールでの森林CO2収支観測についての技術的な評価を目的とした研究を実施する上で好適地です。サイトの中央部4haを対象とした毎木調査では、全樹種の個体密度は435個体/haでカラマツは全体の90%弱を占めていました。苫小牧サイトと比較すると、個体密度は約1/2と低いのですが、その分1本あたりの大きさが大きいという構造的な違いがあります。

 このサイトで渦相関法により2006年1月から12月までのCO2フラックスを観測しました。1月から4月上旬までは、カラマツの落葉期にあたり、森林からのCO2の放出が見られますが、4月上旬の展葉期からCO2収支は大きく吸収側に傾き、6月をピークに、落葉期となる10月までCO2の吸収期間が続きます。このような季節パターンは落葉針葉樹であるカラマツ林の典型的な特徴と言えます。現時点ではデータの蓄積期間が短くデータの検証途上にあるため精細な比較はできませんが、苫小牧での結果と違いを比較解析していくことで、カラマツ林のCO2収支を支配している要因について多くの情報が抽出できるものと期待しています。

(2)カラマツ林とアカマツ林の炭素収支の比較

 富士北麓サイトのカラマツ林近隣のアカマツ林では、森林総研がCO2フラックスの観測を行っています。この2つのサイトの結果を比較することにより、同じ気候条件のもとで、異なるタイプの森林でのCO2フラックスの環境因子の変動に対する応答特性の違いを評価することが可能になると考えられます(図6)。このような観測は世界的にも貴重なものであり、生態系の数値モデルの高度化に非常に重要な情報を提供できることになります。現時点では、観測データの検証が完了していないため、精細な定量的比較はまだ行われていませんが、概算値では両サイトの年間のCO2収支には大きな差がないものの、吸収・放出の季節性には著しい違いがあることが明らかとなっています。

図6
図6 CO2フラックスの樹種による違い