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研究者に聞く!!

Interview

小林隆弘の写真
小林隆弘
環境健康研究領域 上級主席研究員

 ディーゼル排ガスがもたらす健康影響は20年以上前から報告され、発がん性、変異原性などたくさんの研究があります。一方、ディーゼル排ガス中の微小粒子とアレルギーとの関わりも指摘されていたものの、実際にその症状を指標に影響を検討した研究はほとんどありませんでした。今回はディーゼル排気粒子(DEP:Diesel Exhaust Particle)とアレルギーとの関係や循環機能への影響を中心に研究されている小林さんに、最新の研究の成果などについてお聞きしました。

健康影響に陰を及ぼす微小粒子—DEP

1: 研究までの道程−場違いな部門からの出発

—光反応と合成研究からの出発

  • Q: まず、研究者になったきっかけからお願いします。
    小林: ちょうど学生時代に光化学スモッグという公害が起きました。校庭で運動をしていた児童たちがバタバタと倒れるという報道から、環境と健康ということに関心を抱きました。研究という面では当時、私が専攻していたのは光反応による合成でした。博士課程を終えた1976年頃、国立環境研究所の前身である国立公害研究所へ「行ってみないか」という話があり、大気環境部(現在の大気圏環境研究領域)を訪ねたのですが「空きがありません」と断られてしまいました。その隣には環境生理部(現環境健康研究領域)があり、毒性学の研究をしていました。そこの久保田部長にお会いしたところ「分野は違うけれどもきてみますか」といわれ入所したわけです。まったく専門の違う若者を入所させたわけですから、今考えると非常におおらかな時代でした。

—実験動物の持ち方がわからない。健康影響研究のはじまり

  • Q: 光反応から毒性、分野が全然違いますよね。専門の切り替えはいかがでしたか
    小林: 最初はたいへんでした。環境生理部は、健康影響を研究する部署ですから、動物実験が欠かせません。ところが、私はこれまで実験動物に触ったこともありません。どう掴めばよいのかから始めました。おそるおそるでしたから、苦労しました。

     最初の研究は大気汚染物質の中の二酸化窒素の毒性でした。長期間曝露して、肺胞などの構成成分の反応がどのように変化するかを調べました。その後、研究対象はオゾンや硫酸ミスト(硫酸を含む水滴の微粒子:酸性雨の原因の一つ)へと移っていきました。ただ、これらの物質は単一の物質です。排ガスひとつをとっても混合物といいますか、ものすごくたくさんの物質が含まれています。ですから、健康影響を見る場合、一つひとつの物質の影響研究も大事ですが、全体の影響を見るには排ガスそのものの曝露の影響を研究した方が近道と考えました。当時、自動車排ガス問題は窒素酸化物(NOx)と浮遊粒子状物質(SPM)対策が進められ、みなさんもご存じのようにガソリン車からのNOxについては世界でももっとも厳しい規制が行われていましたが、ディーゼル車からの排ガス対策は遅れてしまい、都市域で大気環境の改善は進んでいませんでした。またディーゼル車から排出されるDEPと呼ばれる排気粒子は発がん性物質を含むといわれ、さらにアレルギーにも影響を及ぼしているという研究結果もありました。これらのことを踏まえ、ディーゼル排気(DE)に関する健康影響の研究が始まりました。
  • Q: その研究が国立環境研究所のディーゼル排気と健康影響に関する一連の研究プロジェクトの中で進められていったのですね
    小林: ディーゼル排気の健康に及ぼす影響について、ぜん息や花粉症などアレルギー・免疫機能に及ぼす影響や循環機能に及ぼす影響を中心に、生殖機能におよぼす影響などについても検討されてきました。その中で私たちはアレルギーなど健康への影響研究を行っています。

2: 研究の実際−花粉症

—既存の大気汚染物質が減る中、増加する花粉症

  • Q: アレルギーの分野の一つとして花粉症に及ぼすDEPの影響研究を行っていらっしゃいますね。こうした研究は世界でもあまり例がないと聞きますが。
    小林: 花粉症の増加については二つの傾向がみられます。一つは、年を追って増加していること、もう一つは自動車の多い沿道近くの居住者の有症率が高いことです。これらの傾向の解釈についてですが、年ごとの増加傾向については、近年、都市などの大気環境は改善されつつあり、大気汚染との関係より衣食住など生活様式や衛生状態の変化に着目する必要があると思います。一方、沿道近くの居住者の花粉症患者の増加は、多分大気汚染が関係あるだろうと思われましたが1992年当時、実際に動物を使った実験や検証はほとんどありませんでした。

—目をこすりくしゃみするモルモット

  • Q: そこで、花粉症とDEPの関係に関する研究を始められたわけですね。
    小林: はい。きっかけは日光の杉並木の話でした。1984年に「自動車交通量の多い日光杉並木沿いでは、同じくらい花粉は飛んでいるものの交通量が少ない地域に比べ花粉症の人が多い」という報告があったのです。そこで排気ガスに曝露される環境で、花粉症の原因になるような花粉を吸入すると花粉症が出やすくなったり、症状が悪化するようなことが起きるのかを、実験的に確かめてみようと考えました。花粉症はアレルギー関連疾患の一つです。そこで最初の研究では、抗原として卵白アルブミン(OVA)を使用しました。OVAは卵白にあるタンパク質のアルブミンを純粋に抽出したもので、ダニやカビなどアレルギーを引き起こす抗原の代わりに、実験ではよく使われる物質です。
  • Q: アレルギー反応を見るのであれば、抗原は代替できるのですね。さて、いよいよ実験です。
    小林: 雄のモルモットを使い、一方は清浄空気中で、もう一方はDEを含んだ空気中で行いました。両方のモルモットに抗原であるOVAを点鼻や点眼して、くしゃみ、鼻水、鼻づまりなどの鼻アレルギー症状(図1)と、目が充血したりかゆくなるなどのアレルギー性結膜炎症状がどのように現れるかを観察しました。なお、鼻アレルギーとアレルギー性結膜炎の研究は別々に行っています。
図1 くしゃみ測定装置
  • Q: 結果はいかがでしたか
    小林: 期間は5週間で、1週間ごとに点鼻したのですが、DEPが0.3mg/m3の環境では、3回目程度でくしゃみ、鼻水が出てきます。1mg/m3ではさらに顕著となり、濃度に依存して増えることが分かりました(図2)。また清浄空気中のモルモットがくしゃみ2,3回なのに比べ、DEP曝露下では12−13回に増えます(図3)。DEPがアレルギー症状を悪化させていました。次に、結膜炎の方ですが、これも0.3mg/m3から1mg/m3で目の充血が起きていました。なお、その後、検証として実際にスギ花粉を使用して実験を行いましたが、同様な傾向が現れました。
図2 抗原の投与回数と鼻水分泌量の関係
図3 抗原投与回数とくしゃみ反応の関係

—複雑なアレルギーメカニズム

  • Q: お話はわかりますが、どうしてそのようなことが起きるのかがわかりにくいですね。アレルギーのメカニズムはどうなっているのでしょうか?
    小林: アレルギー反応は花粉のような抗原と体の中にできた免疫グロブリン(IgEやIgG1抗体)とが結合して、ヒスタミンなどの物質が放出されることにより起きます。鼻の粘膜などが過敏な状態になっていると、症状が出やすくなったり悪化します。そこでDE曝露で抗体が増えているか、白血球の仲間である好酸球が増えて炎症が起き過敏な状態になっているかなど、花粉症を悪化させるメカニズムの検証を行いました。その結果、DEは抗体を増やし、炎症を引き起こしていることを実証しました。

3: DEP-PM2.5問題の浮上

—検証された健康弱者の循環器系への影響

  • Q: DEPは心臓や肺などの循環器系にも影響があると聞きましたが。
    小林: 1993年にハーバード大学のドッケリー博士のグループが、「6都市の研究」という疫学調査を発表しています。それは「大気中のPM2.5濃度と死亡率との間に高い相関が見られる」というものです。PM2.5は2.5μm以下の粒子のことで、DEPの大半はPM2.5です。

     最初にこの報告を聞いたときは、半信半疑でした。発表されたアメリカの研究者の間でも同じような感触だったようです。そこで、アメリカがん学会では50万人規模の再調査を行いました。またメキシコ、ギリシャ、チリなどさまざまな国々で同様の疫学調査をが行われました。その結果は、どれも一貫してドッケリーの報告を支持するものでした。調査によると、PM2.5の影響をとくに受けやすいのは、心臓や血管などの循環器に障害を持つ人たち、老人、新生児、慢性呼吸器疾患や肺炎を患っている人たちです。PM2.5の濃度が上がるとそういう人たちの病院へ行く頻度が高まり、さらに死亡率も上がるというのです。
  • Q: PM2.5には、毒性があるということですか。
    小林: こうした報告が出るにつれて、疑いを抱くようになりました。ただ、実験的に確かめられていないこともあり、充分な科学的根拠を得るための研究がアメリカをはじめ各国で始まりました。日本においても大気環境中のPM2.5とディーゼル排気粒子の影響を明らかにする研究が始まりました。疫学調査で示唆された、影響を受けやすい循環器に障害を持つ人、老人、肺炎を患っている人のモデル動物を用いました。また、影響を鋭敏に感知する可能性から遺伝子発現を指標とした研究を行いました。
  • Q: いかがでした。
    小林: 大学を含め多くの方々の協力を得てプロジェクトが進み明らかになってきたことですが、不整脈が出やすくなったり、血圧上昇や心疾患に関連する遺伝子の発現が増加したりといった循環器に影響を及ぼす可能性や、肺炎を悪化させる可能性も明らかにされてきました。

—個体差による影響の違い

  • Q: 影響は個体によって異なるのですか
    小林: 個体の健康状態や遺伝的な状態など多くの要因によって影響が異なってくると思われます。先ほどお話しした花粉症の実験では、データには現れていませんが、大気環境基準の0.1mg/m3でも症状が出るモルモットがいます。実験用モルモットはマウスやラットほど遺伝的に均一ではなく、個体間で大きな差があります。もしかするとそれはものすごく弱い、つまり花粉症に対して敏感なモルモットだったのかもしれません。人間でも花粉症になる人とならない人がいます。環境省の花粉症マニュアルによると、花粉症患者は推定で全人口の約16%です。問題はその16%で、こうした花粉症に対して感受性の高い人たち、また今後の高齢化社会における健康弱者への影響は大きなリスクになりますから、さらに研究を続けることが大事だと考えています。そのためには、感受性の高い動物を使って実験を続けていく必要があります。もちろん、循環器系に関しても同じです。
ディーゼル排ガス中のナノ粒子の凝集を防ぐ大口径希釈トンネルの写真
ディーゼル排ガス中のナノ粒子の凝集を防ぐ大口径希釈トンネル(ナノ粒子健康影響実験棟から)

4: 研究の今後

—微小粒子−PM2.5の先に見えてきたナノ粒子問題

  • Q: 昨年、国立環境研究所でもナノ粒子健康影響実験棟が完成しました。小林さんの研究と密接な関係がありそうですね。
    小林: ナノ粒子とは100nm以下の粒子のことで、PM2.5(2500nm)の最大値の1/25以下ということになります。ちなみにインフルエンザウイルスが100nm程度の大きさですからそれ以下の大きさということになります。

     DEPは60から100nm程度の粒子が一番多く、アイドリングや減速時には20nm程度の粒子が排出され、定常運転や急加速時には60から80nm程度の粒子がたくさん排出されます。新しい実験棟では、運転条件を変えることにより粒径や性状の違うナノ粒子を発生させることや、発生直後に希釈してできるだけ凝集による粒径の増加を抑え、粒径が安定したナノ粒子を作り出すことができます。ですから、これまで以上に精緻な実験が可能になると期待しています。

—技術開発とともに重要性を増すリスク管理

  • Q: 環境問題は、技術進歩、新製品開発の負の側面として表面化することが多いですね。ディーゼル排ガスの関係でみますと温暖化対策などでバイオ燃料が脚光を浴びています。また微小粒子という観点からは、ナノ粒子を活用するナノテクノロジーが注目されています。
    小林: 植物から作るバイオディーゼル燃料は、原油枯渇や地球温暖化などの問題を解決する手段として生まれた技術の成果で、すばらしいことだと考えています。しかし、よい方向性を持つ技術だけに、その排ガスの健康影響を充分検討し評価しておくことが必要だと感じます。

     一方排気ガス以外のナノ粒子についても心配です。この問題のきっかけはNASAの模擬スペースシャトルで調理中のフライパンからフッ素樹脂のナノ粒子が生成し、それが肺に炎症を起こしやすいということが明らかになったためでした。ナノ粒子は非常に小さいため、重量の割に表面積が非常に大きくなること(微小粒子の毒性の発現と表面積が非常に関係の深いことがわかっています)や体内に入ると血流中に混入し全身に行く可能性が指摘されています。DEPはもちろん一見有害とは思えないものでも、何らかの形で生成するナノ粒子の影響はまだ分からないことが多いのです。ですから健康影響の研究や評価は急務だと思います。日々新たな技術が開発されていますが、そのリスク評価や管理はぜひ早急に行うことが必要だと考えています。

—SPM、PM2.5そしてナノへ。DEP研究の今後

  • Q: 今後の研究の方向性をお願いします。
    小林: DEPは、高濃度であれば健康に影響があるのは分かっています。それが、どのくらいの低濃度で影響があるかを検討することが必要だと考えています。同時に先ほど述べた花粉症や老齢、高血圧など感受性の高い、弱い人たちを念頭に行う研究も必要です。また、DEPやナノ粒子が脳神経や生殖機能にどのような影響を及ぼすのか、さらに研究を進めることが重要と考えています。そのためにナノ粒子健康影響実験棟は、力強い存在になると考えてます。
曝露チャンバーのある実験室の写真 (クリックすると拡大画像がポップアップします)
すべての部屋の入室に静脈認証が必要なナノ粒子研究棟の中でも、さらに厳しく管理され、滅菌済みの靴、白衣、帽子をつけないと入室できない曝露チャンバーのある実験室。

コラム

  • 粒子から超微小粒子まで
    大気中を漂う粒子はPM(Particulate Matter)と呼ばれ、大きさ、構成要素、発生源の異なるさまざまな粒子の混合物です。大気汚染の分野では、粒径が10μm以下の粒子(PM10)が浮遊粒子状物質(SPM:Suspended Particulate Matter)(欄外左(1))と呼ばれ、環境基準の対象物質となっています。環境中のSPMは粒径が2.5μm〜10μmの粗大粒子と、粒径が2.5μm以下の微小粒子に大別されます。粗大粒子は、土壌由来の物質や海塩粒子など天然起源のものが多く、ヒトの健康に有害な物質は少ないといわれています。  一方、微小粒子は、自動車などの人為由来からくる物質、たとえばDEPや硫酸塩、硝酸塩などが多く、肺がん、アレルギー性ぜん息、鼻炎などを引き起こすことで、その有害性が問題となっています。このため、SPMとは別個の名称であるPM2.5(欄外左(2))と呼ばれています。最近では、さらに小さな超微小粒子(Ultra Fine Particle)、いわゆるナノ粒子(欄外左(3))が注目されています。ナノ粒子は粒径が100nm(ナノメートル:0.1μm)以下の粒子(PM0.1)で、一度呼吸などで体内に入ると、肺胞に沈着する割合が高く、なかなか排出されないことや、肺から血流中に入り全身に行くことから健康影響が懸念されていますが、詳しいところは分かっていないのが現状です。
PM粒子の粒径別濃度のグラフ
PM粒子の粒径別濃度
日本の大都市部におけるSPMの2峰性分布。道路沿道の場合には、健康に悪影響を及ぼすといわれるDEPなど微小粒子が多い。粗大粒子は土壌由来など天然起源の物質が多い。
捕集したDEPの電子顕微鏡写真
ディーゼル排気中粒子の重量・粒子数-粒径分布のグラフ
ディーゼル排気中粒子の重量・粒子数-粒径分布
  • DEPとは
     DEPは、燃料の不完全燃焼に由来する粒子を核とし、その周りにエンジンオイル、未燃の燃料や生体に刺激を与えるようなホルムアルデヒドなどの酸化物やニトロ化物などの有機成分や硫酸塩や硝酸塩などが付着したものです。走査電子顕微鏡で見ると、粒子にそれらの物質を含めさまざまな物質が付着した形態が観察されます。排出され浮遊した状態では、多くの場合は粒子が凝集してブドウの房状になっています(上図)。  DEPの粒子数-粒径分布(下図)を見ると、大部分が粒径100nm以下のナノ粒子として存在していることが分かります。重量-粒径分布を見るとナノ粒子は大気中では重量としてはわずかです。重量として多いのは200nm程度の粒子です。  また、ディーゼル車の走行モードによりDEPの組成や粒径が変化することが研究で分かってきました。粒子数-粒径分布でみるとアイドリング時や減速時は未燃の燃料やエンジンオイル由来のものが多く、粒径は20〜30nmが中心です。一方、加速時や定速定常運転では炭素を核としてさまざまな物質が付着した粒子が多く、粒径は大きくなって60〜80nm辺りが中心となります。
  • 粒子の表面積と毒性
     同じ重さの粒子群は、粒径が小さいほど個数は多くなり、また全体の表面積は極めて大きくなります。たとえば粒径が1μm(1000nm)の粒子と、10nmの粒子の集合体を比較すると、10nmの粒子の方が個数が多い分、表面積で約100倍も大きくなります。粒子表面そのものに毒性がある場合や、表面に毒性を持つ化学物質が吸着している場合などは、表面積が大きくなると毒性が強くなる可能性があります。
粒子表面の物理・化学的性状と毒性の図
粒子表面の物理・化学的性状と毒性
  • ディーゼル排気曝露のアレルギー反応悪化の機構
     ディーゼル排気の曝露が花粉症を悪化させる作用として、(1)鼻や結膜を傷つけ、刺激に対して過敏な状態にすること、(2)アレルギー反応の元となる抗体を多くつくること、(3)好酸球により炎症反応が悪化することなどがあげられます。  その機構を見てみましょう。スギ花粉などの抗原やDEPなどの大気汚染物質が吸入されると、まずDEPなどにより直接粘膜が傷つけられます。一方白血球の一つマクロファージが異物である抗原やDEPを貪食し、抗原の情報を別の白血球の一つT細胞に伝えます。その後T細胞はⅡ型ヘルパーT細胞などに分化し、指令物質を産生し別のリンパ球B細胞に伝えます。B細胞は指令に基づきIgEといわれる抗体を作ります。IgEは肥満細胞と結合して、抗原に曝露されるたびに徐々に強く抗原抗体反応を起こし、肥満細胞からくしゃみなどの生体反応を引き起こすヒスタミンや、異物の攻撃にあたる好酸球を呼び寄せる物質などを放出させます。ヒスタミンは鼻粘膜を刺激し、くしゃみなどのアレルギー反応を起こします。DEP存在下ではマクロファージとT細胞の情報伝達が亢進し、その結果平常時に比べ高濃度のヒスタミン産生が起こり、アレルギー反応の悪化を招きます。一方、好酸球は、毒性の強い物質を放出して、鼻粘膜上皮の損傷を引き起こします。こうして、アレルギー反応はさらに悪化していきます。
抗原の吸入からアレルギー反応までの図
抗原の吸入からアレルギー反応まで
  • 吸入されたDEPは?
     1μm以上の粒子は鼻腔や咽頭、喉頭などの上部気道に沈着します。1μm以下から100nm以上の粒子は、徐々に気管支や肺などの下部気道に沈着するようになりますが、約60%程度はどこにも沈着せず、呼気といっしょに吐き出されてしまいます。100nm以下のナノ粒子は小さくなるにしたがい肺への沈着が増し20nmをピークとして肺胞への沈着は約50%に達します。さらに小さくなると気管支や気管から上部気道に沈着する割合が再び増加します。小さくなるに従い沈着する割合も増加し90%以上に達するようになります。また、1μm以上の粒子は食道に飲み込まれたり、痰として体外に排出されたりします。1μm以下の粒子は肺胞に沈着し、貪食され長く肺内にとどまったり、リンパ節に移動します。20nm以下のナノ粒子は大きい粒子に比べ血流中に入りやすいことや、毒性と関係の深い表面積が多いことなどから、炎症、血栓を生じやすくさせたり、心臓や肝臓などの臓器に影響を及ぼすと考えられています。
吸入されたナノ粒子の体内挙動の図
吸入されたナノ粒子の体内挙動
吸い込まれた粒子が沈着する場所の図
吸い込まれた粒子が沈着する場所
DEに6カ月曝露させたラットの肺と肺切片の図
DEに6カ月曝露させたラットの肺と肺切片
数値はDE曝露容器内の粒子濃度。大気環境基準(0.1mg/m3)の3倍の濃度でも肺組織内にDEPが取り込まれ、沈着している。実際の環境中ではDEP濃度はこの実験条件より低く、さらにラットに比べ人間は排出能力が高いので、短期間に同様の症状になることはない。