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研究者に聞く

研究者の写真

森口  祐一
社会環境システム研究領域  資源管理研究室長
(併任)循環型社会形成推進・廃棄物研究センター 循環型社会形成システム研究室長

世界や日本において、資源の流れから物資の消費を探る「マテリアルフロー分析」の研究に取り組む森口祐一さんにお話しを伺いました。

●研究の動機について

Q:高度成長時代の大量生産・大量消費そして大量廃棄などの反省から,今廃棄物問題が注目されています。 その中で,森口さんの研究は,私たちを取り巻くモノの流れの全体像をとらえています。 資源を投入してモノを生産する「経済活動の入口」から,消費者の手に渡り最終的に廃棄物として処理・処分される「出口」までのプロセスをたどることにより,廃棄物問題の本質を探るという,実にダイナミックな研究と感じます。 その内容をお聞きしたいと思いますが,最初に研究のきっかけからお願いします。

森口:私は大学生の頃から環境に関する仕事をしたいと思い,1982年に当時の国立公害研究所に入りました。 そこで環境問題を広く総合的にとらえる環境情報システム・環境指標といった,行政と研究の掛け渡し的な分野を研究していました。 その後,1986年に経済協力開発機構(OECD)事務局に留学したのですが,ちょうどその頃,OECDでは当時あまり知られていなかった環境勘定*(環境会計)のプロジェクトが始まっていました。 このプロジェクトは担当外だったのですが,その時の関係が基でOECDの専門家会議などに参画するようになりました。それは今でも続いています。

私にとっての環境勘定研究の出発点は,熱帯林問題でした。日本に流通する商品価値のある木材のために,現地ではその数倍の木々が伐採されたり,影響を受けたりするという情報がありました。 これは端的な例ですが,モノの流れの全体像は日本の中だけを見ていては分からないことを学びました。1990年前後からは温室効果ガスの排出インベントリー(排出目録)に取組みました。 これは,工場や発電所などの生産活動からのCO2をはじめとする温室効果ガスの排出量を調べることですが,地球にとっては悪影響を与える一種の廃棄物排出量の研究といえます。 このように対象は異なりますが,モノの流れやそこから生み出される廃棄物(排出物)に注目した研究を手がけてきました。

Q:なるほど,常にモノの流れに関連した研究を続けてこられたのですね。

マテリアルフロー

人間活動に伴う「モノの動き,流れ」のことで,物資の調達や流通を指す場合もありますが,ここでは対象とするある「まとまり」(たとえば一つの国)に入口から投入された物質量(インプットフロー),出口から排出された物質量(アウトプットフロー),循環利用された物質量(循環)などモノの流れ全体を指します。 なお,循環型社会白書や循環基本計画では「物質フロー」と表現しています。

環境勘定(Environmental Accounting)

「勘定」とはもともとは金銭の出入りを漏れなく記入する帳簿を意味します。 環境勘定ではさらに,従来の勘定では漏れていた環境の汚染や劣化などの問題を経済的な損失としてとらえたり,自然環境と経済活動との間のモノの行き来を物量で表わしたりします。 企業に適用する場合には「環境会計」と呼ばれることが多く,環境汚染の防止や回復のためにかけたコストを明記する目的にも使われています。

●本格的な研究について

森口:モノの流れの全体像を把握する研究を本格的に始めるきっかけは,1995年にドイツのヴッパタール研究所で開かれた国際ワークショップに参加したことです。 「持続可能な発展の達成度をどのように測るか」というのがテーマで,各国の研究者の間で議論が交わされました。

そして,そこで国際共同研究を始めようということになったのです。日本,アメリカ,ドイツ,オランダの4カ国が参加し,1997年に第1回の成果を発表しました。 この研究では,自然環境から経済活動への資源のインプット(投入)フローの把握に重点を置きました。 その大きな特徴は,従来とらえてきた資源のフローだけではなく,それまで表に現われてこなかった「隠れたフロー」を推定し,初めてその国際比較を行ったことです。

たとえば鉱物資源を輸入した場合,統計資料では実際に輸入された物の量のみが計上されます。

ところが原産国ではその鉱物資源を生み出すために多くのモノが動いています。まず,採掘時や鉱物を選り分けるときに不要物が出ます。 実際に輸出される鉱物(精鉱)は,その種類によって大きく違いますが,たとえば銅では資源のインプットフローとして把握されるのは数%程度で,残りはごみになります。 さらに遡れば,鉱山を開発するために作った道路やそのために伐採した森林,穴を掘った残土などもあります。

つまり,そうしたモノも含め採取された全資源量は,実際に経済活動に回された投入量をはるかに上回るのが普通で,その差を「隠れたフロー」と名づけています。 鉱物資源一つとっても,その元を丹念にたどらない限りは,輸入国にとっては目に触れないものがたくさんあります(図1)。 共同研究における推計では,日本へ輸入される金属鉱と石炭(約3億トン)に付随する隠れたフローは20億トン以上にも上りました。

さて,共同研究に戻りますが,2000年にはオーストリアも加わった2回目の成果を報告書として出しました。 こちらは,前回が入口に焦点を当てたのに対して出口が中心で,経済活動から自然環境へのアウトプット(排出)フローの把握に重点を置きました(図2)。 ここで把握されている排出物には,廃棄物の総量だけではなく二酸化炭素や大気汚染物質などの大気への排出も含まれています。

図1  国民一人当たりの資源需要量の国際比較(1991年)
図1  国民一人当たりの資源需要量の国際比較(1991年)



図2  国内総排出量に対する各部門の割合(1996年)
図2  国内総排出量に対する各部門の割合(1996年) 石炭の採掘に伴う排出量が多いため、石炭産出量の少ない日本は総排出量も低い。ただし、建設分野の占める割合が高い。



●研究の流れ

Q:隠れたフローが存在する「経済活動の入口」から,最終的には廃棄物となり環境へ放出される「出口」までの研究をどのように進めていったのですか。

森口:モノの流れをどのようにつかむかが大切です。大筋でいえば,環境中から採取された資源が,経済活動の中で製品化され,消費者の手に渡り最終的には廃棄物となります。もちろん途中で循環もあります。   これらがモノの大きな流れです。

産業全体を見ると,企業間では商取引に伴って複数のモノの流れが生じます。パソコンを生産するためには,プラスチック,半導体,電気コードなど多くの部品が必要です。各企業,あるいは産業同士で複数の網の目のような取引が行われています。このような経済取引を一覧表にして相互の関係を示した「産業連関表」というものがあります。 ロシアの出身で,米国のハーバード大学などで研究を進めたレオンチェフという人が考え出したもので,構造は簡単ですが,産業全体の関係・構造を定量的にかつ網羅的にとらえるところが画期的であり,ノーベル経済学賞が授与されています。

日本では世界的に見ても詳細で質の高い産業連関表が作成されており,そこに盛り込まれた情報を利用しながら,欠けている情報を新たに追加して,モノの大きな流れがつかめる形式にまとめていきます。 こうして全貌をとらえた一つの例が日本経済をめぐるマテリアルフローです。

図3を見ると,日本国内の資源直接投入量は約20億トンで,内訳は国内の自然環境から採取された資源が約12.5億トン,輸入が約7.5億トンです。 これに再生利用の約2億トンを加えた約22億トンが,経済活動に投入されたことになります。一方,出口側でのごみの量をみると一般廃棄物*が約0.5億トン,産業廃棄物*が約4億トンです。 もちろんこれがそのまま環境へ放出されるわけではなく,再生利用,脱水,焼却などにより最終的には1億トン以下まで減量化されます。なお,社会に蓄積される分は約12億トンですが,その多くが将来の廃棄物の予備軍という側面を持っています。

また,経済活動から環境へ放出されるフローのうち最大のものは二酸化炭素で約13億トンにも及びます。このうち2/3強は,燃焼の際取り込まれる酸素であることを割り引いても群を抜いています。 CO2は温室効果ガスとして注目されており,まさに人間活動の最大の「廃棄物」ということがわかります。

●研究の方向性

Q:なるほど,研究の全体像が見えてきました。それが,今後はどのような展開となるのですか。

森口:産業連関表はあくまで金銭ベースのやりとりをまとめたものです。お金での取引の情報をモノの行き来に置き換えているのです。 産業の上流といわれるところは鉱業や伐採業です。統計はそうした産業が採取したモノを次の産業へ売ったところから始まります。 ですからこの手法では輸入統計と同様に「隠れたフロー」が出てきません。

隠れたフローはそのほかにもたくさんあります。たとえば農家における農産物統計でも市場へ出たモノしか見えません。 過剰生産や天候不良で廃棄した農産物などは,マスコミのニュースに流れることはあっても,統計には入りません。

Q:統計だけでは当てにならないということですか。

森口:そうではなく,産業統計や経済統計というのはあくまで経済の視点から見たものであり,それには金額での表現が一番当てはまる訳です。ただ,「社会や環境の全体像を見る」といった視点から見ると不十分な点が多いのです。 ですから,経済部門の間での金銭のやり取りではなく,モノがどのようにやり取りされているかの流れを見通せる物量産業連関表を作ることに最近一番力を入れています。

具体的に鉄鋼業を考えてみましょう。鉄鉱石や石炭をどこからどのくらい買って鉄鋼製品を作り,どこにどのくらい売ったのか。まずそれらの流れをきちんと把握します。

一方,鉄鋼業では,鉄以外にも鉄鋼スラグという副産物が発生します。これは鉄を1トン生産するときに約300kgも生成されるもので,セメントの原料などとして再利用されています。 ところがこれまでの産業連関表では,産業と生産物は1対1対応,つまり「鉄鋼業から出る生産物は鉄だけ」という考え方を基本にしていますから副産物の鉄鋼スラグの流れはうまく描けないのです。 一方,使用後の製品や建物から鉄くずが回収され,原料として使われる様子も思うようには記述できないのです。

産業連関表は5年に一度見直しが行われ,2000年の産業連関表では,リサイクル産業の記述が従来よりも改善されましたが,まだ充分ではありません。 実際に作成されている産業連関表は,金銭取引を通じての流れを表わすものですから,どうしても限界があるのです。 こうした点を補い,視点をモノの量としての流れに置いたのが物量産業連関表です。「原料として入ってきたモノが最終的にはどう分配されていったか」までとらえるもので,これは現代のすう勢である循環型社会*の分析に関しても適した手法です。 この研究は今も進行中です。

図3  日本のマテリアルバランス(1995年)

図3  日本のマテリアルバランス(1995年)


一般廃棄物と産業廃棄物

ごみやし尿など日常生活に伴って排出されるものが一般廃棄物です。これは,家庭から出される廃棄物(家庭系一般廃棄物)とオフィスやお店などから出される廃棄物(事業系一般廃棄物)の2つに分けられます。

一方産業廃棄物は製造業や農業などの事業活動に伴って排出される廃棄物のうち,燃えがら,汚泥,廃油,廃酸,廃プラスチック類などを指します。

(出典:エコプロダクツ2003パンフレットをもとに作成)



●マテリアルフローで見えること

Q:さて,マテリアルフロー分析でモノの流れが解明されます。それが社会にとって具体的にどのような活用法があるのでしょう。

森口:たくさんあります。たとえば,マテリアルフロー分析から(環境と経済のかかわりを示す)指標を作ることができます。しかもそれがきちんと達成されているかどうかの事後評価も可能です。 こうした政策のためのツールやバックアップとなるための情報システムという点が一つあります。

ただ,それだけのためであれば産業連関表まで動員する必要はありません。産業連関表を使う理由は,産業とモノとの関わりの構造が過去からどのように変わってきたかを分析できるからです。 そこから「政策として次に何を準備しなければならないか」などの提言ができます。身近な例ですと,家電や自動車などの耐久消費財は,購入後何年かすると劣化して使えなくなります。 そこで将来廃棄物となるであろうモノが,いつ頃どのくらい廃棄されるかなどはマテリアルフロー分析から推測できます。そうした傾向を予見することにより,将来の施設計画や政策のあり方を提言することができます。

Q:これまで捨てられたモノを把握することはできても,捨てられる時期の予測はもちろん,検討もされてきませんでしたから,マテリアルフロー分析への期待がさらに高まりますね。

森口:そうですね。ところで私たちは,産業連関表に廃棄物のデータを組み合わせた分析も行いました。 普通の生活に伴ってどのような産業廃棄物が出ているかを調べたのです。

一般廃棄物であれば,市町村のごみ処理で「燃えるごみ」「燃えないごみ」「資源ごみ」などの回収でご存じでしょうし,容器包装リサイクル法*や家電リサイクル法*が施行され対応が進んでいます。 ところが一般の人は自らが産業廃棄物に直接関わっているとはあまり考えないですね。

サマリーに解説しますのでここではあまり詳しく述べませんが,毎年約4億トン出る産業廃棄物のうち1億トン以上が家庭で使うモノを作るために発生していることがわかったのです。 一般廃棄物は約3400万トンといわれますから,その約3倍が産業廃棄物として出ているのです。ごみ減らしのため,家庭で減量化することはもちろん大事ですが,実は生産過程で出ている廃棄物の量の方が多いのです。

Q:意外な話が出ました。こうしたことを含めて,マテリアルフローを家庭でもっと身近に感じてもらうことが必要ですね。

森口:「環境家計簿」に生かす方法はあります。現在は,使用した電気やガソリンの量からCO2の排出量計算などに使われていますが,たとえば「あなたの1カ月の暮らしで,世界中でこれだけの木が切られましたよ」「これだけの鉱物が掘り出されて,廃棄物が山のように増加していますよ」といった切り口の計算はできると思います。

Q:隠れたフローを見せるようにするのですね。

森口:私たちは「ほんの少しだから」と何気なくごみを捨てることがあります。でも,実際はほんの少しどころか多くのモノを捨てていることになります。 ドイツの研究者はエコロジカル・リュックサックと呼んでいますが,つまり「製品や廃棄物は,目には見えない多くのモノ(原料を採取するときに捨てられたモノ,生産段階で捨てられたモノなど)を背負っている」という意味づけで隠れたフローのことを表現しています(上図参照)。 マテリアルフロー分析の結果を紹介することで,人の行動と地球環境との結びつきを身近に感じてもらうことが必要だと思います。

●研究の今後

Q:研究の今後についてお聞かせください。

森口:これまで見てきたように,隠れたフローをきちんととらえないと本当のマテリアルフローは見えてきません。一方で,経済の入口から出口までのモノの流れも,さらなる精緻化が求められています。

そのためにはトップダウンとボトムアップの組み合わせが必要です。モノの流れの総量を国全体の経済統計をもとにとらえ,次に地域へと下して詳細なレベルで調べていく。 一方モノを生産する産業もエネルギー,鉄鋼,化学など主要な部門に細分化し生産量を調べます。このように大きなデータから始まって次第に細分化したデータへと移って調べていくことをトップダウンといいます。 逆に家庭や企業間などのモノのやりとりから始まって,次第に大きなデータに積み上げていくことをボトムアップといいます。それらをどう組み合わせてまとめるかです。今,欧米でも最先端の研究となっています。

日本の研究はトップクラスです。それを維持するために木材など特定の資源に着目した研究や,家電や自動車など製品系の事例研究を行っているスタッフもがんばっています。 マテリアルフローの研究は,ある意味では際限がなく,優先度をよく考えて手をつけないとデータの山に埋もれることになってしまいます。 しかし,新たな成果も多く,それが楽しみといえます。

Q:今後の研究が楽しみです。ありがとうございました。

容器包装リサイクル法

家庭ごみなどの一般廃棄物における容器,包装ごみの占める割合は容積比で6割,重量比でも2〜3割に達しているという背景から,1997年4月に施行された法律です。 びん,缶,飲料用紙パック,ペットボトルから着手され,2000年4月の「完全施行」後は,容器包装に使われるその他の紙やプラスチックにも範囲が広がっています。 なお,容器包装を利用したメーカー,容器包装を生産・販売したメーカーなどの事業者に,集められた容器包装廃棄物を再資源化するための費用の負担が課せられていますが,収集は主に従来どおり自治体によって他のごみと分別して行われています。

家電リサイクル法

使用済みとなった家電製品のリサイクルを行うことを定めた法律で,自治体でその処理が困難になっていたことから,資源の有効利用と廃棄物の適正処理を確保することを目的として,2001年4月に本格施行されました。 対象品目は当初はエアコン,テレビ,冷蔵庫,洗濯機の4品目でしたが,2004年4月からは冷凍庫が追加されました。 使用済み家電の排出者(一般使用者=利用者のこと)がリサイクル料金と運搬費用を支払い,小売店が引取・運搬・引渡を,家電メーカー等が再資源化を行うしくみになっています。


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