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景観の空間構造と環境異質性がトンボ群集の遺伝的な多様性および連結性に与える影響(平成 27年度)
Effects of landscape structure and environmental heterogeneity on genetic diversity and connectivity of dragonfly and damselfly community

予算区分
CD 文科-科研費
研究課題コード
1416CD028
開始/終了年度
2014~2016年
キーワード(日本語)
景観遺伝学,生物多様性,トンボ群集,マイクロサテライトマーカー
キーワード(英語)
landscape genetics, biodiversity, dragonfly/damselfly community, microsatellite marker

研究概要

生物多様性を保全する環境として「農地」の重要性が高まる中、環境に配慮した栽培や管理方法の導入が全国的に行われている。農地を対象にした自然再生事業では、総出現種数を指標とした種多様性の評価に加え、近年では、景観環境要因と各生物種(群)の生息状況から分布を予測する景観生態学的な手法も生物多様性の評価に用いられるようになった。一方で、景観構造と種内の遺伝的多様性に基づいて保全対象地域の抽出を試みた研究はほとんどない。里地の生物多様性を理解する上では、メタ個体群の遺伝構造や遺伝的多様性の評価が不可欠である。そこで本研究では、環境保全型農法が広く導入されている新潟県佐渡島において、トンボ群集(アキアカネ、シオヤトンボ、ハラビロトンボ、キイトトンボ)を指標として景観生態学・景観遺伝学的な評価に基づいて、メタ個体群の遺伝的多様性と景観の異質性との関係から、メタ個体群間の遺伝的なネットワーク構造と遺伝的交流の障壁となる環境要因を明らかにする。これにより、遺伝的多様性が高く個体数の多い「ソース」として機能しうるメタ個体群集団と、遺伝的多様性も個体数も少ない「シンク」となっている集団間の連結性を修復することで、対象種の個体数の増加のみならず遺伝的多様性の回復にも繋がる自然再生事業の提案を目指す。

研究の性格

  • 主たるもの:応用科学研究
  • 従たるもの:

全体計画

(1)水田のトンボ群集を対象に、生息個体数の定量評価(現地調査)と水田内の局所環境(環境保全型農法の有無を含む)および周辺の景観環境情報(GIS)に基づいた分布予測モデル構築(マッピング)を行う。
(2)水田のトンボ群集を対象に、遺伝解析によるメタ個体群構造の解明と地理情報(GIS)を統合した遺伝的多様性マップを作成する。
(3)(1)と(2)から環境保全型農法が水田生態系における種多様性に与える影響を評価する。
(4)(1)と(2)で得られた2つのマップを統合した里地の保全と再生の候補地マップを作成する。その上で、遺伝的多様性の地理的な連続性の制約となる環境要因を特定することで、メタ個体群間の遺伝子交流の障壁となっている要因の解消に関する指針を得て、水田を中心とした里地の自然再生事業への提言を行う。

今年度の研究概要

(1)野外調査と局所環境要因の計測[分担者:武山・関島]
佐渡島内の調査地は、佐渡島中部の国仲平野と、水田と里山林がモザイク状に入り組んだ平野周
辺の丘陵地において、稲作水田(通常農法)、稲作水田(環境保全型農法)、通年湛水休耕田の3
タイプを対象にする。調査水田の選定に当たっては、GIS 上でグリッド(500m 四方)を設定し、
森林面積が5-50%含まれるグリッドを30、水田のみのグリッドを20 抽出する。グリッドのサイ
ズと景観要因の割合は、申請者らの先行研究に基づく。1つのグリッドを調査区とし、調査区内
に直線状のトランセクト(50m×5)を設け、トランセクトを歩きながら捕虫網でトンボを採集(あ
るいは目視)し、種ごとの個体数を記録する。各調査区内に水田内の局所環境要因の計測地点を
10 水田設け、水深、稲と草本の草丈、植物被度(5 カ所)を測定し、稲作水田については農薬や
化学肥料の使用状況の情報を収集する。申請者らの先行研究により、水田に出現するトンボ成虫
の生物量と種数は6 から7 月にかけて最も多くなることが判明しているため、この時期とアキア
カネが出現する10 月に調査を行う。
(2)遺伝子解析用のサンプル採集[分担者:武山・関島]
上述(1)の野外調査と同時に、遺伝子解析用のサンプルを採取する。対象調査区は合計10 カ所とし、採集したサンプルはエタノールで固定または冷凍保存する。佐渡に生息するトンボのうち、水田・休耕田への依存度が比較的高く、申請者らの先行研究における出現個体数、移動性(飛翔力)や分布域の種間差、国内外での遺伝子マーカー(マイクロサテライト)情報の蓄積状況を考慮し、本研究では次の4 種を対象とする。標本数は各調査区につき各種最大50 個体である。
・イトトンボ科1 種(キイトトンボ)、トンボ科1 種(ハラビロトンボ):局所分布・低い移動性
・トンボ科2 種(シオヤトンボ・アキアカネ):広域分布・高い移動性(アキアカネは生活史の中で里山と水田地帯の両環境を利用)
(3)マイクロサテライトマーカーの開発[分担者:武山・石庭]
マイクロサテライトマーカーが無い3種(シオヤトンボ・ハラビロトンボ・キイトトンボ)について、次世代シーケンサーを用いてゲノムの配列データを取得後、2〜4塩基のリピートを有する配列を抽出し、マーカーとしての多型性やハーディワインベルグ平衡からの逸脱などを確認し、遺伝的多様性マップの作成に必要なマイクロサテライトマーカーの整備を行う。

外部との連携

研究代表者:武山智博(岡山理科大学・准教授)

研究分担者:宮下直(東京大学・教授)

研究分担者:関島恒夫(新潟大学・准教授)

関連する研究課題
  • 0 : 生物・生態系環境研究分野における研究課題

課題代表者

石庭 寛子