ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方

ナノ材料による神経系発達障害の評価系の開発に関する研究(平成 26年度)
Evaluation for neurodevelopmental deficit by nanomaterials

予算区分
CD 文科-科研費
研究課題コード
1214CD021
開始/終了年度
2012~2014年
キーワード(日本語)
ナノ材料,行動毒性,神経発生毒性
キーワード(英語)
nanomaterials, behavioral toxicity, neurodevelopmental toxicity

研究概要

  ナノテクノロジーは、これまでの科学技術基本計画や新産業創造戦略において、推進すべき重要な政策として位置づけられており、産業発展のために必須の科学技術である。したがって、我が国が産業立国として21世紀の新たな産業技術をリードしていくためにもその基盤となるナノ材料の健康への影響、特に次世代への健康影響を明確にして、十分な対策を構築することが極めて重要な課題である。
  しかしながら、ナノ材料の有害性に関しての研究報告は混沌とした状況にある。それはナノ材料の特異的な物性にあるといわれている。ナノ材料では結晶のサイズが小さくなることにより、電子状態が変化し、通常の大きな物質にはないような性質が現れる。化学反応は、基本的に物質の表面で起こるが、物質がナノサイズになることにより単位質量当たりの表面積が大きくなる。この比表面積の増大が化学的反応性を高める。その他、小さくなることにより多くの物理化学的な変化が知られてきているが、身体の中での生物学的な作用は必ずしも明らかになっていない。このように、ナノ材料は評価困難物質とされ、その有害性評価は全く不明である。
  こうした健康リスク評価の困難な物質を敢えて本研究において取り上げた理由は以下のような研究経緯があるためである。今日のヒトの精神神経疾患の中で環境化学物質との因果関係が明白に特定された疾患はこれまで明らかにされてきていない。米国五大湖近辺の汚染魚類を大量に摂取した妊婦の子供の認知能の遅延や行動発達異常の報告はかなり因果関係に迫っているが、今日の曝露様式に見られる低濃度での慢性影響を実証することは困難になってきている。
しかしながら、内分泌攪乱化学物質のような低濃度で慢性曝露が懸念されている環境化学物質による発達期中枢神経系への影響の報告が動物実験で近年相次いでいる。たとえば、青班核の形態異常、大脳皮質の層構造異常、探索行動異常、恐怖・痛みへの反応異常、空間学習の異常や多動性障害などである。これらの報告は、微量な環境化学物質でも生体防御系の未熟な発達期の(長期)曝露は、個体レベルでの大きな影響として現れうることを如実に示している。
  こうした中で、私たちは内分泌攪乱化学物質が神経系の発達障害をもたらし、ラット多動性障害をきたすことを実証してきた。多動性障害は、注意欠陥多動性障害や自閉症などにみられることからそのインパクトは実に大きなものであった。
    以上のような経緯により、独自に開発してきた環境因子の神経系発生・発達毒性の評価系を今日健康リスク評価困難物質とされているナノ材料に応用。



研究の性格

  • 主たるもの:基礎科学研究
  • 従たるもの:

全体計画

ディーゼル排気粒子に含まれているナノ粒子が、マウスの自発運動量に影響を及ぼし、モノアミン系の代謝産物量が変化するという報告がなされてきている[文献Particle and Fibre Toxicology(2010)7:7]。 そこで、第一に、本研究では銀ナノ粒子の影響をラットの自発運動量を指標とした行動試験で検出するための試験系の開発を行う。また、病理組織像の異常を検査するために、カテコールアミン合成酵素をはじめとするドーパミン情報伝達機構を構成するコンポーネント変動の有無を調べる。更に、こうした異常が、銀ナノ粒子による神経系の発達障害であるかどうかを調べる。
  第2に、行動試験で示される結果を更に神経系発生毒性学的に分子レベルで明らかにするために神経幹細胞を用いたIn Vitro系において調べる。これは神経系ネットワークの形成に必要な神経幹細胞の移動や増殖あるいは銀ナノ粒子による神経系細胞の死を指標とした極めて定量的な試験法であり、毒性評価において情報量に富む。

今年度の研究概要

行動異常が観察された銀ナノ粒子曝露ラットの脳を8〜11週齢で摘出して、免疫組織染色用の試料を作成する。最初に、運動を司るドーパミン神経系の異常を調べるためにカテコールアミン合成酵素に対する抗体で染色する。その対照としてGABA合成酵素に対する抗体染色を実施する。
 次に、銀ナノ粒子が有する細胞毒性作用は、神経細胞の変性ないし細胞死によるものと作業仮説を立て、特にアポトーシス誘導の有無を調べる。アポトーシス誘導活性はDNAフラグメント化の原理に基づくTUNEL法を用いると共に、クロマチン凝縮で調べる。まず、ラット脳を10%中性ホルマリンで固定し、界面活性剤Triton X-100(0.1%)で透過する。環境化学物質の投与でアポトーシスが誘導され、DNAが切断された末端を標識酵素(TdT)存在下蛍光色素結合dUTPで標識する。蛍光顕微鏡下陽性シグナルを検出する。また、クロマチン凝縮は、上記の如く内分泌撹乱物質で曝露したラット脳を固定、透過後ヘキスト蛍光染色(5 M)を用い、蛍光顕微鏡下観察し判定する。

課題代表者

石堂 正美

  • 環境リスク・健康領域
  • シニア研究員
  • 理学博士
  • 理学
portrait