はじめに


研究代表者

環境研究所・環境健康部

遠山千春

  

世界保健機関(WHO)は、98年5月に「ダイオキシン類の耐容1日摂取量に関する見直し」のための諮問委員会を開催しました。この見直し作業に参加し感じたことは、第1にリスクアセスメントに使用することができる科学的知見の一層の蓄積が必要であるということです。第2には、これだけ我が国においてダイオキシンの健康リスクが問題になっているにも関わらず、研究面での日本からの発信が極めて不十分であったということです。5年後には改めて見直しの会議が予定されていますが、それまでには日本からリスク評価に適用することができる学術的価値も高い研究成果の発信を集中的に行う必然的かつ緊急性があると思われます。また、国際的には97年にG7サミットにおいて環境有害因子の子どもの健康に及ぼす影響に関する研究の必要性が合意されました。感受性が高いと予想される胎児から小児のための健康リスク評価が求められているのです。

それでは、比較的低濃度のダイオキシン類への曝露によって、いかなる健康影響が起こりうるのでしょうか。これまでの文献によれば、精子形成能の低下、子宮内膜症の発生、性比の異常、内分泌・免疫系(甲状腺ホルモン・リンパ球サブセットなど)の揺らぎ、脳機能・行動への影響など、内分泌撹乱作用を示唆する報告が蓄積しつつあります。しかし、ダイオキシンの内分泌撹乱作用の実体とそのメカニズムについては、ほとんど解明が進んでいません。そこで我々は、今回の研究を単に学術的関心のみの基礎研究ではなく、学術的水準の高いアウトプットを出すとともに、現実に求められているリスク評価へつながる研究として位置づけました。

本研究により、感受性が高い妊娠から出生までの時期におけるダイオキシンの作用メカニズムの解明とそのリスクアセスメントへの適用が大きく進展するとともに、日本からの学術的寄与も期待できると確信しています。