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2019年12月24日

アメリカ滞在記:冬は山小屋にこもって

松崎 慎一郎

 国立環境研究所には、若手研究員が海外に滞在し研究を行う長期派遣研修制度があります。この制度に応募し、2018年8月から1年間、アメリカ中西部にあるウィスコンシン大学マディソン校の陸水学センター(University of Wisconsin-Madison, Center for Limnology)で研究を行う機会を得ました。15,000もの湖が点在するウィスコンシン州は、1870年代から湖沼観測が始まった陸水学発祥の地です。数多くの研究者を輩出してきた陸水学センターは、湖を研究する者にとってまさに憧れの聖地です。陸水学センターは、メンドータ湖のすぐほとりにあり、毎日湖を眺めながらという贅沢な環境で研究に没頭することができました。今回は紙面も限られることから、日本には馴染みのない冬の恒例行事について紹介したいと思います。

 受け入れ教員のEmily Stanley教授(以下、エミリー)が、年末の研究室ゼミで、「そろそろライティング・リトリートの日程を決めようか」とつぶやき、「イチロー(アメリカでの私の呼び名)も行くよね?」と突然言われ、何のイベントかわからないまま「イ、イ、イエス!」と勢いで返事をしてしまいました。ゼミ後に、学生に尋ねて、ようやく何をするイベントかわかりました。ライティング・リトリート(writing retreat)は、「日常生活から離れ、どこかにこもって執筆に集中すること」を意味し、私たち研究者にとっては「論文執筆に集中する合宿」を指します。

 ウィスコンシンの冬は、とても寒いです。-20、30度にもなり、湖も完全に結氷します。冬季はフィールド調査も少なくなることから、エミリーの研究室では、山小屋に1週間こもって論文執筆合宿を行うことが恒例行事となっていました。陸水学センターは、マディソンから北に400kmいったところに、Trout Lake Stationと呼ばれる宿泊可能な実験所をもっており、森と湖に囲まれたTrout Lake Stationはまさに山小屋です。

論文執筆合宿の写真
写真1 論文執筆合宿の様子
(A)Trout Lake Station の山小屋、(B)論文執筆の様子(外は-20度、室内はぽかぽか)、(C)当番制の夕食作り、(D)エミリー研究室のみんな(前列最右が著者、エミリーは前列中央)。

 論文執筆合宿には、いくつかのルールがありました。一つ目は、執筆作業の目標を自分で決め、合宿初日に全員の前で宣言します。甘い目標にするか、高いハードルを立てるかは本人しだいです。同僚の一人は、作業効率をあげるため、大型モニターまで持ってきていました。二つ目は、パソコンやスマートフォンのインターネットを遮断します。エミリーの差し入れの深煎りコーヒーを飲みながら、執筆に集中します。三つ目は、思いっきり合宿を楽しむことです。朝食と昼食は各自ですが、夕食は当番制で調理し、全員で食べます。私の班は、メキシカン料理のエンチラーダを作りました。食後は、ボードゲームやカードゲームで盛り上がったり、テレビでスポーツ観戦したり、天然リンクでアイスホッケーを楽しむ夜もありました。なんともアメリカらしいですが、日中も、スキーやスノーシューをしたり、ポップコーンをつくったり、最終日までに目標を達成できれば執筆途中に何をしても自由です。

 思っていた以上に、論文執筆合宿では筆が進みました。メールやウェブ検索の遮断、お互いに目標に向き合う環境、適度な息抜きが功を奏したのだと思います。論文執筆に加えて、私にとっては研究室のメンバーと交流を深める絶好の機会となりました。本当に楽しい時間を過ごすことができました。アメリカでは、この論文執筆合宿を行っている研究室は珍しくないようですが、日本ではほとんど馴染みがありません。国環研の同僚とも論文執筆合宿をやってみたいと思っています。


(まつざき しんいちろう、生物・生態系環境研究センター
生物多様性資源保全研究推進室 主任研究員)

執筆者プロフィール

筆者の松崎慎一郎の写真

苦手な英語には本当に苦労しましたが、誰とでも気さくに挨拶する習慣は大好きでした。友達に「やぁー」はHi there !、「お疲れ様」はGood night !。レジでの支払いやカフェの注文の後は、Have a good one !(店員さんが先に言った時は、Thanks, you too !)。どれも簡単な単語ですが、中学校の英語の教科書には載っていないフレーズなのではないでしょうか。