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2013年8月30日

地域での資源循環システム・デザイン:5つの方向性

特集 環境都市研究の先端と未来
【シリーズ重点研究プログラムの紹介:「循環型社会研究プログラム」から】

田崎 智宏

 平成23年度から5年間の計画で、「地域特性を活かした資源循環システムの構築」と題した研究プロジェクトを実施しています。資源の有効利用を図った循環型社会を築きあげるためには、国際的なレベルで資源利用についての社会変革が求められる一方で、私達の足下であるローカルなレベルでも取組を進め、地域での資源循環システムを構築することが必要となるためです。

地域資源循環システムの方向性

 しかしながら、地域の資源循環システムを構築するということは容易いことではありません。いくつかの理由があると思いますが、例えば、グローバル化がもたらす負の問題を懸念し、その反動として、短絡的に地域に着目しがちなためです。グローバル化の良し悪しはさておき、グローバル化が優位になる理由を意識せずに地域の取組を検討したのでは、これだけグローバル化した社会経済のなかで、地域のシステムを存続させることには至らないでしょう。また、「地域活性化」といった耳に聞こえのよい言葉が一人歩きしやすいことも一因になっていると思われます。そこで、我々のプロジェクトでは、このような目指すべき地域のコンセプトや方向性を精査し、きちんと整理することから研究をスタートさせました。その結果を表1にまとめます。 (1)は合理的思考に基づいて、既存のシステムや産業・技術を駆使し、地域における資源利用効率を高めていこうというものです。生ごみや使用済み携帯電話など、個別の循環資源をどのようにリサイクルしていくかという論点も含まれますが、それぞれに回収・リサイクルシステムを構築しては非効率になりがちなので、性状が類似しているものは一括して処理しようという研究も含まれます。ただし、これは経済成長を志向してきた効率性重視の考え方を転換したものではありません。効率性に加えて、持続可能性の視点が必要です。これが(2)の方向性です。また、人の考えとは不思議なもので、必ずしも客観的・合理的とはいえません。ある人にとって合理的なことが、他の人にとっては非合理的なことすらありえます。そのような世の中に資源循環システムというものを組み込んでいくためには、システム学的な視点だけでなく、人々に着目したアプローチを加えなければなりません。平たく言えば、人々を活かす、人と人とのつながり・連携を活かすという(3)の視点です。さらに、日本では人口が高齢化・減少していくという課題にも着目しています。そのような社会において、いかに資源循環のシステムを運営して、必要な変化を遂げていくかという(4)の視点も大切です。また、モノには資源という側面と有害性という側面の両方をもつものがあり、そのようなモノの扱いにも注意が必要で(5)の方向性も重要と考えられます。以下では、これらのうち、(1)と(4)の研究を紹介します。

表1 今後の地域資源循環システムの方向性

地域特性の把握と解析

 地域における資源利用効率の最大化を図るためには、地域のニーズや特性に合致した形で地域循環システムを構築する研究が求められます。そのために本研究プロジェクトでは、金属資源、バイオマス資源に着目し、それらの地域特性は「地域特性プロファイル」としてデータの整備を進めています(図1上)。人口や産業構成といった一般地域プロファイルや、循環資源の排出量、処理量といった物質フロープロファイル、リサイクル品の需要プロファイル、資源化施設の立地などといった技術プロファイルなどから構成されるデータセットであり、これらのデータをシステム設計に使いやすいように指標化したうえで、循環資源の需給バランスがとれない地域や、どのような広域連携で需給バランスの改善が図られるかの検討をしています(図1下)。

図1 地域特性の差異とシステム設計に向けた指標化・見える化・需給解析(クリックすると拡大表示されます)

人口減少に対応した地域循環システムの設計・転換

 また、人口減少下におけるリサイクル・廃棄物処理システムの設計・転換の問題もとりあげています。約10年前と比較すると、ごみ焼却施設の稼働率はすでに10%程度低下しています。今後の人口減少により、ごみ量の減少が予想されるため、それに合わせて廃棄物処理施設の容量を適切に減少させることが求められるようになるでしょう。一方、さらなるリサイクルが進展することによっても、処理しなければならないごみ量の減少ももたらされます。そうすると、地域での資源循環を進めつつも、同時並行してごみ処理施設の調整も図らなければなりません。そこで、ごみ焼却処理施設を統合・共同利用したり、さらにプラスチックリサイクル等を進展させる場合に、どれだけコストや温室効果ガスの排出が削減できるのか、そして、リサイクルに費やしてもよい費用は最大どの程度なのかを明らかにする研究を行いました。図2はそのCO2排出削減効果を示したもので、施設統合だけではCO2排出はほとんど削減できないものの費用削減効果があり、さらにプラスチックのリサイクルを進展させたり高効率発電を導入することで、CO2排出削減効果が得られるようになること、プラスチックリサイクルを進展させる場合にはそのコストパフォーマンスを6.2万円/t以下にすべきことなどを明らかにすることができました。

図2
図2 人口減少下におけるごみ焼却施設の統合(20万人と10万人の地方都市で共同処理する場合)

今後の展望

 本研究プロジェクトでは、地域における人的資源・社会関係資本の最大活用も目指しており、地域におけるソーシャルキャピタルの計測・解析を行う研究なども実施しているところです。これまでの資源循環研究はモノに主眼をあてることが多かったのですが、モノを扱うヒトにも着目した研究アプローチが展開されるようになると考えています。特に、地域循環の研究においては、そのような研究展開が期待されていると感じます。

(たさきともひろ、資源循環・廃棄物研究センター循環型社会システム研究室長)

執筆者プロフィール

筆者の田崎智宏の顔写真

思慮なき行動はつまらない結果をもたらす一方で、行動なき考察は社会から目をそむけてしまっています。環境研究は、ますます行動・実践が求められているように感じます。