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重点特別研究プロジェクト(平成13年度〜平成17年度) 生物多様性

研究概要(パンフレットから)

18世紀以来、急速に拡大した人間活動によって野生動植物は生息地を奪われ、生物多様性は減少を続けています。さらに、近年の経済グローバル化によって、生物多様性は新たな危機を迎えています。侵入生物や遺伝子組換え生物による生態系撹乱が新たな問題として浮かび上がってきたのです。これらの問題に対応するために、国立環境研究所ではさまざまな空間スケールにおける生物多様性の変動を把握する方法を開発するとともに、侵入生物や遺伝子組換え生物による生態系撹乱についての研究を行っています。

野生生物の生息地を大きな空間スケールで評価する

野生生物は、生息地の破壊や分断化などの人間活動によって個々の生息地が小さくなり、絶滅の可能性が増大しているといわれています。しかし、これを時々刻々と客観的に示すことは大変難しいことです。そのおもな理由は、人間活動の影響が至る所に広がっているうえに野生生物の分布や数が急速に変化するので、その情報の収集にたくさんの時間と労力を要することにあります。この困難を回避するひとつの手段として、生物がどんな資源を必要としているか(食物・隠れ家・巣場所など)の生態情報と、その資源がどこに存在するか(植生や地形など)の地理情報を使って好適な生息地をわりだし、生息している可能性の高い地域(潜在生息地)を推定することが考えられます。私たちは生態情報と地理情報をもとに、野生生物にとっての好適な生息地を地図上に表現する手法の開発を行っています。例として、霞ヶ浦付近のオオヨシキリの分布と生息地となるヨシ原の分布を示しています(図:1)。

(図:1)霞ヶ浦周辺のオオヨシキリ繁殖に適したヨシ原と適さないヨシ原の図
(図:1)霞ヶ浦周辺では、オオヨシキリの繁殖に適したヨシ原(青丸)と適さないヨシ原(赤丸)があります。丸の大きさはヨシ原の相対的な面積。

また、生物の分布は種を単位として認識するだけでは充分ではありません。同じ種でも地域によって遺伝的な違いがあることが多いからです。遺伝的多様性を維持するには、それぞれの地域個体群の特徴を把握し、各地域個体群の空間的ひろがりを認識して保全策を立てる必要があります。そこで、全国的に生息している生物種を対象として遺伝マーカーの開発・活用によって地域固体群の分布状況を調査しています。

流域ランドスケープのモザイク構造の役割を探る

自然河川はかつて自由に蛇行を繰り返すことで瀬と淵を交互につくり、そこに多くの川魚や貝などの生き物を育んできました(写真:1)。そして河原が安定してくると河畔林と呼ばれる水辺の林が成立し、それがまた様々な機能を通して河川とその周辺の生物相を豊かにします。湖沼の入り組んだ湖岸やそこに生育する水生植物帯などでも、同じようなことが言えます。このような集水域全体(ランドスケープ)を構成する要素(地形や植生)は、複雑に、しかしある種の規則性をもって自然界に分布し、水棲動植物の多様性を高めていると考えられます。本プロジェクトでは、流域におけるランドスケープ構成要素の質と量及びその配置に関しての規則性を明らかにし、それが水棲動植物の多様性維持に果たす役割を解明します。この研究の成果をもとに、地形や植生などの情報から生物の多様性や生息状況を予測し、流域管理に役立てることをめざしています。

(写真:1)自然林の中を蛇行して流れる猿払川
(写真:1)自然林の中を蛇行して流れる猿払川(北海道宗谷)。自然河川の多くはかつてこのように大きく蛇行していました。

生き物の相互作用をモデルを使って探る

生物群集の多様性の維持メカニズムや絶滅のプロセスを理解しようとするとき、野外で実験できることはどうしても限られてしまいます。実験が絶滅を助長してしまったり、生息地を壊してしまっては元も子もありませんし、広い面積や長い時間が必要な実験も困難がともないます。 そこで、野外での研究を補うものとして、モデルを使った仮想実験を行っています。

たとえば、森に多くの種類の木が共存しているしくみの解明はひとつの中心テーマです。植物はみな水と光をもとめて競争しているので、やがて一番競争に強い種類だけになってしまいそうなのに、実際の森や草むらには多くの種類が共存しています。 どのぐらい競争力がちがっても共存できるのか、年によって作られる種子の量や発芽の成功のしやすさが変動することが共存のしやすさにどう影響するか、気候の長期的な変動に応じて種の分布と多様性がどのように反応するかなどをシミュレーション実験によって調べています。

現在の地球上で見られる生物の多様性が何十億年もの時間をかけてどのように進化してきたのか、どういった条件のもとで生物は多様化するのかなど、生物の多様性を理解するうえで基礎となる理論的な研究も行っています。エサの好みにうるさい生物となんでも食べる生物とではどちらが絶滅しやすいのか、環境が変動する場合に生物の多様性はどのように反応するのか、なども研究のテーマです(図:2)。

(図:2)食物網モデルの概念図
(図:2)
食物網モデルの概念図
このモデルの中では、一次生産を行ういろいろな種類の植物、それらを捕食する植物食の動物、それらを捕食する肉食動物、雑食動物やさらに強力な肉食動物など、食う−食われるの関係で結ばれた 100種以上の生物が共存しています。 コンピュータの中では、特定の生物を除去してその影響を調べたり、一次生産量を減少させたり、外部から生物を侵入させたりするなど、実際の世界ではとてもできないような実験が自由に行えます。


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