ここからページ本文です

重点特別研究プロジェクト(平成13年度〜平成17年度) 流域圏の環境管理

長江・黄河流域の持続的発展に向けて

長江流域には中国全人口の40%をが住み、中国GDPの約40-50%を担っています。近年の異常気象による洪水頻発や干ばつは経済活動に大きな影響を与えています。一方黄河流域は、慢性的な水不足により農農業生産減少及び陸域生態系・土壌劣化が問題となっています。これら水問題は中国の経済発展にとって鍵となる重要な要因で、このため三峡ダム建設による洪水調節・電力開発を行うと共に、南水北調政策により長江の水を黄河流域・北京に運ぶための運河建設が行われています。また森林回復、草地再生、湿地回復など生態系回復政策も推進されるなど、個別的な対応がとられています。しかし流域圏に存在する生態系機能は互いに関係しており、数理モデルによる対策効果の再現は総合的に最適な方策を検討する上で必須です(グラフ:1)。

(グラフ:1)流域土砂モデルの応用
(グラフ:1)流域土砂モデルの応用

例えば、三峡ダムの築造によってできたダム湖での洪水土砂の堆積は、ダム湖の貯留量を減少させることで洪水防御機能を低下させ、同時に多量の栄養塩も沈降・堆積させることで富栄養化等の原因となる等、流入土砂量についての検討は必須です。このため、長江上流での主な土砂生産源である嘉陵江流域(16万km2)では、土砂浸食抑止のためにある角度以上の斜面の耕作地を森林に戻すという(退耕環林)政策を開始しています。こうした政策の効果と耕作放棄による損失を考える上で、土砂生産量の逓減を定量的に評価しておくことが必要であり、降雨水により浸食された土砂が山地から河道を通じて下流に輸送されるモデルを開発し、ある角度以上の棚田・段々畑を森林に戻すことによる効果を定量的に評価ができるようになりました。

また、黄河流域を含む中国華北平原では地下水利用型灌漑網の整備によって穀物生産量を増大させてきましたが、過剰な吸い上げによる地下水水位の急速な低下は灌漑型農業の持続性に対して非常に大きな問題となっています。そのため、地下水資源の持続的利用の検討のために冬小麦の農業生産モデルを開発しました。灌漑時期と回数を管理する数値実験の結果では、初期土壌水分量、気象条件、生育段階に応じて灌漑用水量を管理することで収穫量を確保しつつ、地下水水位低下をある程度防止できることがわかってきました。

東シナ海の海洋環境の理解に向けて

東シナ海は生物生産および生物種多様性が高い海域ですが、長江流域を中心とする大陸の開発により、河川を通じて東シナ海へ流入する流砂、栄養塩類および有害化学物質などの環境負荷の量・質が大きく変化し、東シナ海の海洋生態系、生物生産性、生物多様性に多大な影響を与えることが危惧されています。実際、東シナ海における赤潮発生頻度は、1980年代から1990年代にかけて4倍ほど増加し、また赤潮形成種が珪藻から渦鞭毛藻に遷移しています。その原因の一つは、河口域の栄養塩環境が相対的に珪酸の不足した環境へと遷移しつつあることによると推測されています。三峡ダムにより、現在の河口域への珪酸供給量が大きく減少すると、河口域において、一次生産を担う植物プランクトンが珪藻から渦鞭毛藻などの非珪酸質の種を中心としたものに益々偏っていくことが推定されます。一般に、珪藻類は渦鞭毛藻と比較して、動物プランクトンを介して魚類のエネルギー源として重要な位置を占めており、植物プランクトン優占種の遷移は、さらに長江河口域の生態系を通じた生物生産性にも大きな影響を及ぼすことが懸念されます。こうした観点から2001年より、長江河口域から東シナ海の海洋環境調査を実施しています(図:3)。

(図:3)東シナ海の海洋環境調査
(図:3)東シナ海の海洋環境調査

サブナビゲーション



フッターユーティリティメニュー