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第2セッション「中国における大気汚染による健康影響−日本の経験をどう活かすか−」

講演者(田村憲治)による回答

Q.
 西日本の酸性雨被害から考えますと、中国側の測定値はどの程度信頼できるのでしょうか?

A.
 近年中国では、国としても、また地方政府としても大気汚染問題の克服には正面から取り組もうという姿勢が感じられます。測定方法などについても、日本や米国などの協力もあり徐々に正確にしようと努力されていると思います。今回の研究では、既存の測定値を参考にしながらも、できるだけ自分で測ったデータを用いたいと思っております。
 なお、中国では測定値そのものは公表されておりませんが、最近では主要47都市について、主要な大気汚染大気汚染指数(API)をインターネットでも公表するまでになっております。二酸化窒素、二酸化硫黄、吸入性粉じん(PM10に相当)の日平均濃度、一酸化炭素、オゾン濃度の短時間平均濃度について独自の換算式を用いてAPIを求め、これが最も大きい(つまり汚染がひどい)汚染物質の種類とそのAPI、および評価(Tの優からXの重汚染まで)を毎日発表しています。この情報から1日ごとに1種類の汚染質濃度は逆算できますが、複合的な状況は分かりません。また、測定値の正確さについては判断しかねますが、瀋陽の吸入性粉じん濃度を私たちの測定値と比較した範囲では大きな差はありませんでした。


Q.
 石炭の燃焼が多量の水銀ガスの放出に寄与しているといいますが、中国の人々の健康には影響しているのでしょうか? また、黄砂のような東方への流出が漁業・魚類に影響を与えることはないのでしょうか? 食物連鎖による大型動物(くじら)への蓄積はどうでしょうか?

A.
 石炭燃焼により放出される大気中の無機水銀ガスとしては健康に影響するということはないと思いますが、総量としては莫大なものです。この水銀が自然界で有機化し、生物によって濃縮され、それが人にも摂取されるわけです。米国環境保護局などでは、微量ではあっても慢性的な有機水銀の曝露を受けた場合の健康影響について危惧し、多くの研究者が関心を持って調査を始めています。2001年10月に水俣市で開催された「第6回地球環境汚染物質としての水銀に関する国際会議」では、中国の研究者から石炭燃焼による水銀汚染の現状報告がありましたが、健康影響については不明で、今後の研究課題とのことでした。
 鯨や大型魚類の鮪などは、食物連鎖の頂点として、有機水銀やダイオキシン類など様々な有害物質濃度も高いことが知られております。鯨を食糧としている北大西洋のデンマーク領フェロー諸島では、デンマークの研究チームが住民の健康調査を継続しており、低濃度の有機水銀の影響などの研究が進められております。今のところ母親の毛髪水銀濃度が10ppm程度のレベルでも、胎児期の曝露はある面の精神発達を遅らせるという報告がされています。一方、インド洋のセーシェル諸島の魚を多食する住民を調査しているアメリカの研究チームは、この程度の有機水銀濃度では異常は出ないという見解です。日本でもやっとこうした研究に対応するために鯨や鮪を食べる機会の多い漁村などを対象に調査研究が始められたところです。中国で燃焼された石炭中の水銀がどの程度日本海や日本列島の水銀汚染に関与しているのか、大変興味深いテーマではありますが、こうした研究も始まったばかりだと思います。


Q.
 発表の中で、現地調査をする際に、市民の方がとても積極的であったということを聞きました。実際に一般市民の方々の環境意識はどのくらいのものなのでしょうか? NGO等の活動など(大気汚染に関する)は、行われているのでしょうか? 都市と農村の違いなども含めて、教えてください。

A.
 今回の調査で市民の協力を得て行った内容は、小学校における肺機能検査、保護者対象の質問紙調査と、住民の自宅にサンプラーを持ち込んで行う個人曝露調査です。小学校では、子供に大気汚染の影響が出てはいないか調査をするということで、校長はじめ保護者の理解も得られました。子供の健康問題となると、親の関心は非常に高く、食べ物などに関しても、安全な野菜を求める姿勢は日本と変わりません。
 NGOなどの活動について、中国全体のことはわかりませんが、瀋陽市では、まだ大気汚染などの環境問題に限らずNGOの活動そのものがほとんど目に付きませんでした。次回の現地調査時に尋ねてみたいと思います。
 中国の農村の状況については、数年前の調査でごく限られた範囲しか見ておりませんが、盆地以外は各家庭で石炭を使った排煙で戸外の大気汚染が問題になることはないようです。


Q.
 エコフェローシップ等は、活用していますでしょうか? また資金の獲得方法について教えて下さい。

A.
 この研究課題は、平成12年度から国立環境研究所の所内特別研究の一課題として予算化され、独法化後も環境省からの交付金によって実施しております。中国での現地調査研究では、中国側スタッフとの共同研究体制をうまくつくることが不可欠でので、中国人のフェローに加わっていただければ双方に有意義であることはまちがいありませが、エコ・フロンティア・フェローシップ制度等は活用しておりません。さいわい日本で長年学び、大気汚染をテーマにしている中国人大学院生に共同研究者になっていただき、重要な調査時期には現地に同行してもらって調査実施や資料収集とともに、詳細な打ち合わせや意見交換の仲立ちをしていただいております。

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