<大気中微小粒子状物質(PM2.5)・ディーゼル排気粒子(DEP)等の大気中粒子状物質の動態解明と影響評価プロジェクト

疫学・曝露評価研究チーム


疫学・曝露評価研究チームでは交通公害防止研究チームと共同して、都市大気汚染の低減のための交通・物流システムに係る対策の効果を地域に居住する人口集団全体の大気汚染への曝露量を指標として評価する手法を検討している。このモデルは、自動車交通量からのディーゼル排気粒子(DEP)排出量推計を介して環境濃度分布を推計し、さらに人の行動を加味した曝露評価モデルを用いることによって、対策による交通量や排出係数の変化が曝露量に与える影響を推計するシステムの開発を目指している。このシステムは交通モデルと曝露モデルに分けられ、交通モデルの開発は主として交通公害防止研究チームが行っている。
 また、環境省が実施している疫学研究と連携しながら、PM2.5の健康影響や幹線道路沿道での調査研究を計画・実施している。
曝露評価とは:

曝露評価という用語はさまざまな分野、場面で使われている。大気汚染の分野においても、疫学研究やリスク評価・管理の重要な要素となっている。
 最も一般的な「曝露(exposure)」の定義は、人がある環境因子と接触することである。通常、大気汚染物質の場合は呼吸器で人体と接触するので、呼吸領域の空気中に存在する大気汚染物質の濃度を曝露濃度とみなしている。したがって、最も狭義には大気汚染研究における曝露評価とは、人の呼吸領域の大気汚染物質濃度を測定・分析することである。一方、呼吸領域の大気汚染物質濃度を規定するものには大気汚染物質の発生から環境動態、曝露経路など多く要因がある。発生源から見た場合には曝露濃度が人−環境系の境界条件を示すことになる。広い意味での曝露評価は大気汚染物質の発生から標的臓器にまで至る過程に関わるすべての要因とその相互関係を含むことになる。

 大気汚染研究分野で曝露評価が重要な役割を持っているのは疫学研究とリスク評価・管理の二つの分野である。両者における曝露評価には手法上の共通点もあるが、相違点も多い。

 リスク評価・管理分野における曝露評価では曝露の特性(程度、時間、経路など)と曝露される人口集団のサイズ、特徴・属性を記述することが必要である。曝露評価は汚染物質の可能な抑制方法を明らかにし、抑制方法の効果を予測するために行われる。例えば,環境基準を超える地域に居住する人口数はどれぐらいか,またその年齢分布はどのようなものかなどへの回答を与える必要がある。リスク評価・管理における曝露評価の対象は人口集団の曝露(population exposure)にある。大気汚染物質に関する集団曝露推計モデルはいくつか提案されている。代表的なものは生活行動時間分布と微小空間濃度推計モデルを組み合わせた時間荷重モデルである。生活行動時間とはどれぐらいの割合の人口が,どれぐらいの時間,どのような空間で生活しているかという情報である。微小空間濃度推計モデルはそれぞれの空間での濃度を推計するモデルである。一般的には地域(屋外)の空間濃度推計,屋外-屋内関連性モデル,屋内発生源モデルを組み合わせたモデルとなっている。

疫学研究とは:

疫学研究にはコホート研究(cohort study)や症例・対照研究(case-control study)などのいくつかのタイプがある。疫学研究における曝露評価は研究対象者の個人個人の曝露量(individual exposure)を評価することが基本である。疫学研究では人間集団における曝露−影響の関連性を検討することが目標となるが、環境疫学の分野ではしばしば曝露ないし影響に関する評価指標について対象集団の集約値(代表値)のみが与えられることがある。これを生態学的研究 (ecological study)と呼んでいる。曝露と影響のうちの一方が集約値である場合をsemi-ecological studyと呼ぶこともある。近年、大気中粒子状物質の健康影響について、日単位での曝露と影響(死亡や疾病)との関連性に関する解析が進展し、多くの知見が得られている。

 大気汚染は基本的に地域的な現象であるので,その健康影響に関する疫学研究は大気汚染度の異なる複数の地域における健康影響指標を比較することが通例である。したがって、それぞれの地域の大気汚染度の違いを示すことが、大気汚染の疫学研究における曝露評価の第1段階として求められる。従来、大気汚染に関わる多くの疫学研究ではある地域の大気汚染測定局の測定値をその地域の大気汚染度の指標として用いてきた。さらに、この測定局での濃度を地域住民の曝露量の代替指標として用いてきた。このような曝露評価方法については地域代表性の問題としてその妥当性に関して多くの批判がされてきた。大気汚染疫学における曝露評価研究はこのような批判に答える形で進展してきたともいえる。大気汚染の健康影響に関する疫学研究の対象者数は数千から数万人程度になることは稀ではなく、研究対象期間も数年に亘ることがふつうである。実際問題としてこのような数の対象者全員のindividual exposureのプロファイルを知るためには膨大な費用が必要であり、曝露評価の質とトレードオフの関係にある。また、研究対象者全員の長期的な曝露量をそれぞれの地域の常時監視局の年平均値で評価した場合の誤分類と一部の研究対象者について個人モニターによって短時間の直接測定を行った場合の誤分類とのどちらが大きいかは一概には判断できない。前者には一つないしごく少数の測定局における屋外測定データが周辺地域住民の曝露を代表しているかという問題があり、一方、後者には時間変動と対象者の標本抽出の誤差等が含まれるからである。大気汚染の疫学研究の場合には対象者全員の個人単位の過去ないし将来の曝露量を測定することは事実上不可能であり、いずれの研究においても,疫学研究における曝露評価の第一の目標は,曝露の程度によって分類された研究対象集団の曝露の偏りのない代表値を推定し、曝露の誤分類を最小にすることである。


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