WHO等の研究動向
.気候変動の健康影響への国際的対応は、国連の「気候変動枠組み条約(UNFCCC,1992),「持続可能な開発(リオ宣言)」などを踏まえ、WMO やUNEPと協力して1990年代後半から欧州を中心に具体的に開始されています。とくにWHOのヨ−ロッパ支局は cCASHh (Climate Change and Adaptation Strategies for Human Health in Europe)と言うプロジェクトを実施中です。なお、WHOは自らが行うべき作業として、
  (1) 対応能の強化(Capacity Building)
  (2) 研究の推進 (Research Promotion)
  (3) 情報交換  (Information Exchange)
を3本柱として挙げています。
.日常的には、地球温暖化と気候変動はほぼ同義語として用いられていますが、気候変動も健康から見れば生活環境の一部の変化であり、オゾン層の破壊と紫外線増加を初めとするその他の地球規模の環境変化や身近な地域環境を包括するものではありません。環境と健康全般を対象としているWHOでは、「気候変動と健康」の関係を、「地球規模の環境変動と健康(Global Environmental Change and Health)」の枠組み中に位置づけています。後者には、オゾン層破壊と紫外線増加のほか、森林破壊と土壌崩壊、生物多様性の減少、新鮮な水の減少なども含まれることになります。それらの関係を下図にまとめています。
.WHOは、気候変動による健康リスク評価の枠組みや手法の具体的な内容について、以下に掲げるような出版物をとりまとめています。そのうち「気候変 動と健康―脆弱性と適応の評価法(下記リストの資料3)」と題するドキュメントでは、各国がそれぞれこの種の評価を進めることを前提として、そのための方法と手段として以下の11のセクションに分けた説明を行っています。つまり、
  (1) 定量的健康インパクト評価
  (2) 温度に関連したインパクト
  (3) 屋外大気汚染
  (4) 自然災害(洪水、暴風雨など)
  (5) 動物媒介伝染病
  (6) 飲料水性および食物性の疾患・下痢
  (7) 成層圏オゾン層破壊
  (8) 食品安全性
  (9) 脆弱人口
  (10) コスト(医療サ−ビス経済セクタ−へのインパクト)
 これらの項目のうち下痢性疾患群や動物媒介性伝染病のうちマラリアやデング熱等については、すでに具体的なインパクト(リスク)評価を試み、モデル的に公表しています。
下痢性疾患のリスク評価例
マラリアとデング熱のリスク評価例
.WHOでは国際的な視野から以上のような包括的な枠組みを提案していますが、我が国の現状からみて、こうしたインパクト(リスク)評価の対象は気候変動の直接的な影響が主体となると考えられます。動物媒介性伝染病については現状では流行は見られていません。また、森林破壊と土地の崩壊、生物多様性の減少や生態系機能の変化などを介する間接的な影響も重要ですが、それらはとくに途上国において顕著です。なお、地球温暖化による生活全般や生態系への影響予測については本調査研究全体のホ−ムペ−ジをご覧ください。