環境汚染の現状の把握と評価    
 
       
   ・霞ヶ浦における内分泌かく乱物質及びその影響
   ・東京湾における環境ホルモン汚染と生物への影響調査 
   ・地球的規模のダイオキシンの分布



  
 霞ヶ浦における環境ホルモン汚染の現状 
  
   
  霞ヶ浦の環境と湖水のエストロゲン様活性

霞ヶ浦の水質は、1966年以降悪化しており、それ以前では汚染の指標であるCOD (化学的酸素要求量)濃度で4-5 mg/Lであったが、1972-1977年では、6.2-7.3 mg/L、 1978-1979年には10 mg/L以上に上昇した。1991年には、6.8 mg/Lにまで回復したが、1992年は 7.4 mg/L、1993年は8.2 mg/Lと再び悪化の傾向を示している。
 このような富栄養化がすすんだ湖水環境において、我々は、2001年と2002年の4-10月に月毎に霞ヶ浦(西浦)13ヶ所において、近年よく用いられる汚染指標の一つである全有機炭素量(TOC)の測定と水中エストロゲン様活性物質の有無について酵母Two-Hybrid アッセイ法をもちいて測定を行った。調査の結果、TOCは夏季に5mg/L以上と水質基準を上回る地点が多かったものの、エストロゲン様活性については調査期間を通じ、大部分の場所で、17β-エストラジオール(E2)量に換算して検出下限の0.1 ng/L 以下であり、最高値で0.89 ng/Lであった。メダカなどの魚類において影響があると考えられている濃度(E2曝露で8 ng/L)と比べるとこの値は低く、霞ヶ浦においてはエストロゲン様物質による生態系への影響は低いと考えられる。


  霞ヶ浦(西浦)おける野生生物への影響  - ヒメタニシを例に -

ヒメタニシ Sinotaia quadrata histrica は中富栄養性水域を主な成育場とする淡水産卵胎生腹足類の一種であり、霞ヶ浦においては腹足類の中では最も優先的に出現する。2001年、2002年に霞ヶ浦湖岸において調査を行った結果、性比はややメスに偏ること(年間で53-60%)、特に初夏から夏季にメスが多く出現することが明らかになった。ヒメタニシについては、生活史に関する情報が少ないため、本種の繁殖生態に注目してさらに調査を行ったところ、メスのほうがオスよりも大型であること、生殖腺指数(GSI)は初夏(5-6月)に高く、夏季(7-8月)に減少すること、精巣の色彩変異(黒斑、黒化)はGSIの減少期と同調していることなどが明らかになった。これらの結果から、夏季にメスが多く出現する理由として、繁殖時の産貝場として、沿岸部を利用しているために、メスの出現が多く見られることが予想される。加えて、メスのほうが大型であることから、雌雄間での寿命の違いがあることも予想されるため、調査を継続して行っている。

 



   東京湾における環境ホルモン汚染と生物への影響調査

東京湾は、広さ980km2、平均水深15m、平均滞留時間1.6ヶ月の内湾閉鎖性水域であり、流域人口が3,000万人を超え、世界的に見ても最も人間活動の影響を受けた水域の一つとして知られている。本研究プロジェクトでは、(1)内分泌かく乱の疑いのある化学物質について、東京湾における分布・挙動、季節的および経年的な変動を明らかにすること、(2)湾内に棲息する生物に対するこれらの内分泌撹乱物質の影響を明らかにすること、を目的として調査を始めました。現在、東京湾内湾のほぼ全域を網羅する20定点において、2002年12月より季節毎に年4回の調査を行い、魚介類を採取するとともに表層水、底層水、底泥を採取している。

採集した生物のうち一部の魚類については船上で採血と解剖を行い、体長・体重・年齢・胃内容物の記録に加え、生殖巣などの臓器・組織の病理標本の観察、血中ビテロゲニンおよび17-βエストラジオール(E2)などの濃度を測定している。海水中の総エストロゲン活性についてはエストロゲン受容体導入酵母アッセイ法により、17-βエストラジオール(E2)およびエストロン(E1)についてはELISA法によりそれぞれモニタリングしている。また、魚類に対する内分泌撹乱作用が指摘されているノニルフェノール(NP)およびオクチルフェノール(OP)に加え、プラスチックや種々の樹脂由来の汚染物質として知られているビスフェノールA(BPA)や水環境中でノニルフェノール(NP)の親化合物と考えられているノニルフェノールエトキシレート(NPEO)についても、海水および底質中の濃度をGC-ion trap-MS/MSおよびLC-MS/MSを用いた機器分析により測定している。

ヒトエストロゲン受容体導入酵母アッセイによる海水中の総エストロゲン活性は、湾奥北西岸で高い傾向があり、2003年5月の表層水試料では19地点から検出された(最大E2換算1.4ng/L (st-3))。しかしながら他の採水月においては、多くの地点で検出下限未満(E2換算0.1ng/L未満)であり、海水中のエストロゲン活性が地理的・季節的要因によって大きく変動することが確認された。また、酵母アッセイによるエストロゲン活性値はE2濃度と高い相関を示し、東京湾海水中のエストロゲン活性に対してE2関連物質の寄与が大きいことが分かった。一方、化学物質濃度についても湾奥北西岸で最も高く、湾口に近づくにつれ低くなる傾向が認められた。図には、2003年5月調査における東京湾表層水中のノニルフェノール濃度の分布を示している。また、ほとんどの地点において表層水の濃度の方が底層水の濃度よりも高い傾向が認められた。

     

    
東京湾表層水中のノニルフェノールの分布(2003年5月採水)   



  地球的規模のダイオキシンの分布

イカ肝臓中に蓄積されたダイオキシン類を測定することで、北太平洋のダイオキシン分布の概要を明らかにするための研究を推進した。アカイカ科のイカは北太平洋を含む世界中の外洋域に広く分布しており、食物連鎖の比較的上位に位置し特に肝臓への各種汚染物質の蓄積が進んでおり、生態学的情報の蓄積も進み、寿命が1年で毎年の汚染状況のモニタリングに適当なことなど環境モニタリングのための指標生物に適した多くの特質を有している。その中に蓄積されたダイオキシン類、フラン類(コプラナーPCB類を除く)を測定した。

 ・北半球のイカの方が南半球より高いダイオキシンレベルにある。
 ・北太平洋の亜寒帯フロント(北緯40度前後)の東西で比較すると、日本周辺が相対的に高く、東に離れるにしたがって急速に
  濃度が低下する。
 ・日本近辺の東経142度付近で南北に比較した結果ではあまり明瞭な鎖は認められなかった。
 ・北太平洋アカイカのダイオキシン類の異性体パターンは、焼却起源のものに類似する結果となった。

     先頭へ