野生生物等における内分泌撹乱の実態の解明
長寿命生物における内分泌撹乱の実態の解明

北海道大学大学院水産科学研究科 資源生産生態学講座 小城春雄

【要 約】

 海洋表層に浮遊するプラスチック微小廃棄物は、環境ホルモンを含有する海洋汚染物質として位置づけられる。しかしながら、微小プラスチックの海洋における採集方法やソーティング方法については未だ方法が確立していない。そこでプラスチック採集用のネットを開発すると共にソーティング方法を確立した。
 ハイイロミズナギドリおよびハシボソミズナギドリの2種によるプラスチック粒子取り込みを調査したところ、1990年代になると取り込む粒子の種類が、種間で類似する傾向が明らかとなった。すなわち、両種共にプラスチック製品破片が増加していた。
 我が国沿岸海洋生態系の鍵種としてウミネコに注目し環境ホルモン濃度を測定してきたが、ウミネコそのものの基礎的生活史情報が欠如しているため、繁殖生態の解明に努めた。さらに、分析者の要望に応えるため適切な標本の確保に努めた。繁殖期の食性は魚食性であり人間の出すゴミには依存していなかった、本格的な抱卵開始時は2卵目(b卵)産卵直後からであった。卵中の卵黄、卵白、卵殻の組成や脂質含有量は、半早熟成海鳥類の範疇にあった。

【目 的】

1)世界のプラスチック生産量は1960年以来急激に増加し、1990年には1億トンを凌駕するに至った。この急激な増加とともに、海洋に浮遊する微小プラスチック廃棄物も急激に増加する様相を見せ、1994年には1平方キロメートル当り一千万個を越す地点まで見出された。そこで、海洋表層に分布するプラスチック粒子の採集方法や得られたプラスチック廃棄物のソーティング方法についての方法論を確立を目的とした。
2)上記のプラスチックのソーティング法でハイイロミズナギドリとハシボソミズナギドリが取り込んでいたプラスチック粒子の数量を調査し,プラスチック粒子の年代別取り込み特性を明らかにすることを目的とした。
3)利尻島で繁殖するウミネコの繁殖生態を調査し、食性、抱卵開始時期、および卵特性等を明らかにすることを目的とした。

【研究方法】

1)海洋表層域に浮遊するプラスチック微小粒子を定量的に採集できるように設計し、水槽実験を経てさらに改良し、実際の現場で他のネットと比較した。さらにゼリー状生物による網目の目ズマリを避けるため、正確な曳網時間を現場で測定した。 海岸漂着や海洋で得られた得られたプラスチック粒子の過去8年間のソーティング経験を基にして定性的および定量的な処理に対応できる一次データの取りまとめ方を整理した。
2)ハイイロミズナギドリおよびハシボソミズナギドリ2種の取り込んでいたプラスチック粒子類を先に述べたソ‐ティング法により分類し2種間の取り込み特性を年代別に比較検討した。
3)利尻島のウミネコ繁殖地において調査区を設定して、繁殖生態を調査した、調査期間は産卵から孵化までの過程を追跡しこの間の情報を収集した。

【研究成果】

1)プラスチック採集用ニューストンネット(OBIネット)の試作とプラスチック汚染物質のソーティング方法
海洋表層に浮遊するプラスチック粒子の分布実態を知る目的から、曳網時にネットの開口部が常に海面を捉えていること,風力4程度の海況でも曳網が可能なこと,得られた標本処理に時間を要しないこと,船上での取り扱いが簡単であること,2ノット程度の曳網速度で最大濾過効率が上げられること、そして代表的なプラスチック粒子であるレジンペレットを確実に採集できること等を念頭に置き設計した。試作したOBIネットの仕様は、開口面である網口は中空のステンレス管(外径13mm)製で内寸はヨコ50cm×タテ20cm、上面に木製の水面キャッチ板を二枚取り付けられるようにステンレス管を工夫した。網口よりコッドエンドの末端までは2.5m、網口より1.5mまでは網目幅1.8mmの網地、それ以後のコッドエンドまでの網の長さは1mで網目幅は0.33mm(GG54)の網地を使用した。実際の曳網時には、網口の左右に漁業用のフロートを装着し網口の水没を防止した。実験水槽での試験から2ノットで濾水効率は1.20となった。この効果は恐らく、ネットの網目を海水が通過することによる流線の安定化のため、濾水計のプロペラに作用する力が一定化して回転効率が良くなると言う一種の吸引効果が生じたためであろう。また、実際のフィールドでの曳網実験では、プラスチック粒子の採集時間は2ノット、10分間で十分であることが判明した。
プラスチック微小粒子のソーティング法は以下の過程を経て行った。試料の前処理(塩抜き、薬品およびぬめりの除去)、湿重量の秤量、ソーティングの準備、出現プラスチック項目のコード化、サイズ区分、ソーティングの実施、乾燥、秤量、個数計数、測定台帳への記入、パソコン用データシートへの作成法等である。
2)1986〜1998年にミズナギドリ類により取り込まれたプラスチック粒子の年代間比較
採集年ごとの出現頻度、平均粒子数、平均粒子重量および小石などの非餌生物のうちプラスチックが占めた割合を表1に示した。ハイイロミズナギドリでは採集月による影響と考えられるばらつきがみられた。一方ハシボソミズナギドリにおいてはプラスチック粒子数および重量は増加し、小石などの自然物が相対的に減少していることが分かった。
次に表2では1980年代、1990年代の2期にまとめた結果と、同海域で行われた1970年代、1980年代の研究データを比較した。ここ30年でプラスチック出現頻度は、ハイイロミズナギドリにおいて2倍、ハシボソミズナギドリにおいて1.2倍となった。さらに平均粒子数は、ハイイロミズナギドリにおいては15倍、ハシボソミズナギドリ5倍となり、ここ30年で取り込まれたプラスチックは急激に増加したことが明らかとなった(図1)。

表3では主要な取り込みプラスチックであるレジンペレットおよび製品破片の粒子数組成を、1970〜1990年代で比較した。ここ30年でレジンペレットは減少し、製品破片は増加する傾向がみられた。ハイイロミズナギドリにおいて1970年代にレジンペレット : 製品破片=7 : 3とレジンペレットの取り込みが多かったが、1980年代には3 : 5まで減少、1990年代はその傾向がさらに強くなってレジンペレット : 製品破片=5 : 9となり、製品破片の取り込みの方が多くなった。ハシボソミズナギドリにおいては、1970年代はレジンペレット : 製品破片=3 : 1であり、1980年代までレジンペレットを多く取り込む傾向があったが、1980年代後期にその比は7 : 3と逆転し、1990年代にはレジンペレット : 製品破片=1 : 4と変化して製品破片の取り込みの方が多くなった。
1990年代には、レジンペレット以外の種類のプラスチックが増加し、ハイイロミズナギドリにおいて粒子数の42%をもえかすが占めた。また、ハシボソミズナギドリではシート状プラスチック片が17〜28%出現した。

3)利尻島におけるウミネコの繁殖生態
餌生物種:胃内容物からは5科3種、吐き戻し物からは5科4種、合計8科6種が同定できた(表2)。魚類はカタクチイワシ (Engraulis japonicus)、シロザケ幼魚(Oncorhynchus keta)、イカナゴ (Ammodytidae sp.)、フサカサゴ科魚類 (Scorpanidae sp.)、ホッケ (Pleurogrammus azonus)、およびフグ科魚類(Takihugu sp.)が出現した。無脊椎動物はヤリイカ (Loligo bleekeri)、オキアミ類2種(Thysanoessa inermis, Thysanoessa longipes)、貝類、陸棲昆虫類およびカニ類が出現した。その他ではシワイカナゴ (Hypoptychus dybowskii)卵、小石、輪ゴム、ゴム製ルアー、釣り針、プラスチック(テグス等の化学繊維)、およびスナック菓子が出現した。
餌生物の出現頻度:今回捕獲したウミネコ雄84個体、雌41個体中、雄は空胃個体が午前14個体、午後7個体で空胃率は午前33.3%、午後16.7%、雌は空胃個体が午前11個体、午後3個体で空胃率は午前44.0%、午後18.8%であり、雌雄共に午前の方が空胃率が高い傾向が見られた (Spearmanの順位相関,P<0.05)。
餌生物の出現頻度は、雄雌共に、イカナゴ、陸棲昆虫類、カタクチイワシの順で出現し、その後雄は、シワイカナゴ卵、貝類、フサカサゴ科魚類の順で出現した。雄雌共にイカナゴがもっとも多く、次いで陸棲昆虫類、カタクチイワシの順に出現した (表4)。また、時間帯別で比較をすると、雄雌共に午前に捕獲した個体よりも午後に捕獲した個体の方が出現頻度が総じて高い傾向が見られた。
抱卵開始時期の特定: a卵の放置期間の長さを確かめ本格的な抱卵開始時期を特定するために、産卵日の違う卵を巣間で交換する卵交換実験を行った。a卵同士では孵化までの日数に長短が見られ、交換によって産卵日の遅い巣で抱卵された卵は孵化までの日数が長く、産卵日の早い巣で抱卵された卵は孵化までの日数が短かった(図2‐T)。一方、b卵同士ではどの交換においても孵化までの日数はほぼ一定であった(図2− U)。このことから、a卵を産卵しても直ちには抱卵せず、b卵産卵時から抱卵を開始することが明らかとなった。
本格的な抱卵開始時期の特定:3‐2‐2においてa卵同士の交換でのみ孵化までの日数に長短が見られたことから(図2)、a卵は交換によって放置期間が延長または短縮したと考えられ、b卵は常に抱卵状態にあったため孵化までの日数が変化しなかったと考えられた( 図3 )。すなわち、a卵は少なくとも1日間の放置期間を経験し、b卵産卵時にはすでに抱卵が始まっていることが明らかになった。
卵黄、卵白、卵殻の水分含有量と水分含有率の差異: 乾重量を計測出来た卵黄、卵白36個と卵殻64個の卵について、水分含有量を求めた。
 
産卵順序別にみると(表5)、卵黄水分含有量では、a卵で最大値を示し、a卵とb卵で有意差が認められた(ANOVA、P<0.05)。卵白水分含有量では、産卵順序が後になるにつれて減少する傾向がみられた。しかし、有意差は認められなかった。卵殻水分含有量では、b卵が最大値を示し、a卵とb卵、b卵とc卵で有意差が認められた(ANOVA、P<0.01)。
一腹卵数別にみると(表6)、一腹2卵では、卵黄と卵白の水分含有量では減少する傾向がみられ、卵殻水分含有量では増加する傾向がみられたが、有意差は認められなかった。また、一腹3卵では、卵黄水分含有量では、b卵が最小値を示し、卵白、卵殻水分含有量では、b卵が最大値を示した。卵殻水分含有量では、a卵とb卵、b卵とc卵で有意差が認められた(ANOVA、P<0.01)。
得られた水分含有量から、水分含有率を求め、産卵順序別による比較を行った。産卵順序別にみると(表7)、卵黄水分含有率では、c卵が最大値を示し、b卵とc卵で有意差が認められた(ANOVA、P<0.05)。卵白水分含有率と卵殻水分含有率では、b卵が最大値を示した。また。卵白水分含有率でa卵とb卵で有意差が認められ(ANOVA、P<0.05)、卵殻水分含有率ではa卵とb卵そしてb卵とc卵で有意差が認められた(ANOVA、P<0.01)。
一腹卵数別にみると(表8)、一腹2卵では、卵黄水分含有率で減少する傾向がみられ、卵白水分含有率と卵殻水分含有率で、増加する傾向がみられた。卵殻水分含有率は有意差が認められた( t-test P<0.01)。一腹3卵では、卵黄水分含有率では、c卵が最大値を示し、b卵とc卵では、有意差が認められた(ANOVA、P<0.05)。卵白水分含有率と卵殻水分含有率では、b卵が最大値を示した。また、卵殻水分含有率ではa卵とb卵、b卵とc卵で有意差が認められた(ANOVA、P<0.05)。
これらのことから、b卵の卵殻水分含有量と卵殻水分含有率は他の卵よりも有意に大きいことが明かとなった。
利尻島におけるウミネコ卵の特性については[8]でまとめ論議した。また、オオセグロカモメの水田における農業被害については[9]でまとめ論議した。

【考 察】

1)OBIニューストンネットは、漁船等の実業船においては扱いにくいものの調査船等の調査研究船では使用に耐えることが判明した。詳細は[1]で論議した。 プラスチック微小粒子のソーティング方法については、[2]に詳述した。これまでプラスチック粒子の分類方法については方法論が確立されていなかったので、今回の研究により、客観的なデータの構築が可能になり、汚染実態の経年変化を追跡できることを可能にしたと考えられる。
2)ハイイロミズナギドリは魚類、イカ類を主餌生物とし、表層索餌および潜水を行う魚食性である[3][4]。一方、ハシボソミズナギドリはオキアミや端脚類、魚類およびイカ類の幼稚仔を主餌生物とする表層索餌および潜水を行うプランクトン食性である[5]。ハイイロミズナギドリの方がハシボソミズナギドリよりも大型の餌生物を捕食しているが、取り込まれたプラスチックは両種共に2〜5ミリ平方枠内の粒子サイズが主に取り込まれており、差はみられなかった。このことから、プラスチックは餌生物以外のものと認識され、パイカ現象によって取り込まれている可能性が考えられた。しかしながら、海鳥による粒子取り込みには食性が反映されるといわれており[6]、魚食性のハイイロミズナギドリは製品破片が多く、プランクトン食性のハシボソミズナギドリではレジンペレットが多いことが報告されてきた[7]。本研究でのレジンペレットおよび製品破片の組成比は種間差があまり見られず、ここ30年間でレジンペレットに対する製品破片比は両種において増大した。この変化は、海洋表層のレジンペレットの相対比が減少し、選択性が発揮されなくなったものと考えられた。レジンペレットの減少は、プラスチック生産過程でレジンペレットが管理されるようになったために漏出が減少した、あるいは海洋表層における製品破片の分布密度が著しく増加したためであろう。この2項目以外では、ハイイロミズナギドリにおけるもえかすの取り込み、およびハシボソミズナギドリにおける透明シート状プラスチックに対する選択性が顕著だった。ハシボソミズナギドリではプランクトン食性を反映して、餌に似た形状に対する選択性が働いたためと考えられた。一方ハイイロミズナギドリにおいて、もえかすのとりこみにどのような選択性が働くかについては推測できなかった。

【引用文献】

[1] 小城春雄・馬場徳寿・石原昭治・柴田康行:「二種類のニューストンネットによるプラスチック粒子採集と海洋のプラスチック汚染」、北大水産彙報、50、77‐91(1999)
[2] 小城春雄・福本由利:「海洋表層浮遊、および砂浜海岸漂着廃棄プラスチック微小粒子のソーティング方法」、北大水産彙報、51(2)、71‐95(2000)
[3] Brown,R.G.B., S.P.Barker, D.E.Gaskin and M.R.Sandeman: The foods of Great and Sooty Shearwaters Puffinus gravis and P. griseus. Ibis, 123, 19-30 (1981)
[4] Jackson,S.:Diets of the White-chinned Petrel and Sooty Shearwater in the southern Benguela region, South Africa. Ibis 90,20-28 (1988)
[5] Ogi,H.,T.Kubodera and K.Nakamura: The pelagic feeding ecology of the Short-tailed Shearwater Puffinus tenuirostris in the subarctic Pacific region. J. Yamashina Inst. Ornithol., 12, 19-44 (1980)
[6] Day,R.H.:The occurrence and characteristics of plastic pollution. MS Thesis, University of Alaska, Fairbanks, Alaska (1980).
[7] Ogi, H.: Ingestion of plastic particles by Sooty and Short-tailed Shearwater in the north Pacific.U.S.Dept. Commer.,NOAA Tech. Memo. NMFS.,154, 635-652 (1990).
[8] 小城春雄・高橋延昭・中田聖子・伊藤 真・松下由紀子・柴田康行:「北海道、利尻島におけるウミネコ(Larus crassirostris)の卵形について」、北大水産彙報、50、1−10 (1999)
[9] 小城春雄・高橋奈々江・関川東明:「オオセグロカモメの水田におけるオタマジャクシ捕食について」、北大水産彙報、51、127‐134(2000)

【成果の発表】

1) 原著論文による発表
国内誌(国内英文誌を含む)
・小城春雄・高橋延昭・中田聖子・伊藤 真・松下由紀子・柴田康行:「北海道、利 尻島におけるウミネコ(Larus crassirostris)の卵形について」、北大水産彙報、50、1−10 (1999)
・小城春雄・馬場徳寿・石原昭治・柴田康行:「二種類のニューストンネットによるプラスチック粒子採集と海洋のプラスチック汚染」、北大水産彙報、50、77‐91(1999)
・小城春雄・福本由利:「海洋表層浮遊、および砂浜海岸漂着廃棄プラスチック微小粒子のソーティング方法」、北大水産彙報、51、71‐95(2000)
・小城春雄・高橋奈々江・関川東明:「オオセグロカモメの水田におけるオタマジャクシ捕食について」、北大水産彙報、51、127‐134(2000)

2) 原著論文以外による発表(レビュー等)
なし
3) 口頭発表
なし
4) 特許等出願等
なし