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生物多様性セミナー 2006年3月

遺伝子組換え植物の挙動調査マーカーの開発と組換え遺伝子の導入によ る 遺伝子発現撹乱

玉置雅紀(分子生態影響評価研究チーム)


 生物多様性プロジェクトにおいて行った5年間の研究によって得られた結果につい て発表を行う。

私は研究期間中に以下の2つのサブテーマの研究を行った。
1, 遺伝子組換え植物の挙動調査用マーカーの開発とこれを用いた導入遺伝子の 拡散評価
2, マイクロアレイを用いた組換え体における遺伝子発現評価

1, 遺伝子組換え植物の挙動調査用マーカーの開発とこれを用いた導入遺伝子の拡 散評価

 遺伝子組換え植物の挙動を可視的に調べるための遺伝子マーカーを導入した植物 (タバコ及びシロイヌナズナ)を開発した。 これまでに、(1)ホメオボックス遺伝子 の導入により葉の形が変わった植物 (35S::NTH) (Plant Biotec. (2003) 20, 225-227)、(2)アントシアニン類の合成経路を活性化する遺伝子を導入した葉が赤色 にな る植物(35S::R)、(3)改変GFP遺伝子を導入した暗所で発光する植物 (35S::GFP) を作製した。

 これらの遺伝子の導入による宿主植物への生育の影響を調べたところ、GFP遺 伝子 を導入しても宿主植物の生育に影響がないことが確かめられた。このことからこの遺 伝子を用いて遺伝子組換え植物の挙動調査を行うことができることが示 された。

 そこで、この組換え植物を用いて屋内における自然交雑率を測定したところ、 35S::GFPと野生型植物の交雑は0.24%の確率で起きることが明らかになった。さ ら にこの組換え体を用いて交雑率に対する距離の影響を調べたところ、屋内における自 然交雑率は植物間の距離に反比例して減少することが確認された。 また、この組換 え体を用いることによりシロイヌナズナの近縁野生種ハタザオ(Arabidopsis lyrata)との交雑も検証できることが明らかになった(Z. Naturforsch. (2006) In press)。

2,マイクロアレイを用いた組換え体における遺伝子発現評価

 約4,000種類の遺伝子を載せたマイクロアレイを用いてシロイヌナズナの生態型間 及び、非遺伝子組換え体と組換え体との間での遺伝子発現パターンについて解析を 行った。

 マイクロアレイによりシロイヌナズナの標準的な生態型であるCol-0を基準として 生態型間の遺伝子発現パターンの相関を検証したところ、Col-0同士では相関係数 r=0.98、Col-0とWs-2 ではr=0.95、Col-0とCvi-0ではr=0.93という比較的高い相関が 見られた。一方、 Col-0と上述したプロジェクトの1で開発を行った遺伝子組換え体 35S::NTH及び 35S::GFPとの遺伝子発現の相関係数はそれぞれr=0.92、r=0.87であっ た。組換え 植物において生態型間でみられる遺伝子発現パターンの相関係数が低く なっていたことから、植物への遺伝子導入により内生の遺伝子発現が撹乱されている 可能性が示唆された。このことを更に検証するために突然変異によりビタミンC合成 能が低下した植物 (vtc1)及び、上記の突然変異の原因となる遺伝子を用いて遺 伝子 組換えにより同様にビタミンC合成能が低下した植物(AsGMP)を作製し、これらの植 物における内生の遺伝子発現パターンについてマイクロアレイを用いて 検証を行っ た。その結果、Col-0に対する遺伝子発現パターンの相関はvtc1で r=0.95であったの に対して、AsGMPではr=0.85であった。このことから同じ遺伝子の働きを抑えたる際 に、遺伝子組換えを用いる方法は従来の突然変異を用いる方法よりも内生の遺伝子発 現を撹乱することが示唆された。

 さらに何故遺伝子導入により内生遺伝子の撹乱が起きるのかを検証するために、ゲ ノムDNAのメチル化の程度及びCACTA1と呼ばれるレトロレトロトランスポゾンの活 性・コピー数を調べた。その結果、遺伝子組換え体ではレトロトランスポゾンのコ ピー数が増加、CACTA1遺伝子(レトロトランスポゾンの増殖に関与)の発現上昇及び ゲノムのメチル化の減少が見られた。このことから外来の遺伝子の導入により何らか の原因でゲノムDNAの脱メチル化が促進し、その結果としてレトロトランスポゾンの 増加が引き起こされていることが考えられた。おそらくこの一連の現象が内生遺伝子 の発現の攪乱に関与していることが示唆された。