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生物多様性セミナー 2006年1月

オオヨシキリの生息予測モデルから繁殖鳥類の生息モデルへ

永田尚志(生物個体群研究チーム)


 オオヨシキリは、放棄水田や湖岸に好適なヨシ原が出現すると、すぐに定着し繁殖を開始するため、分散能力が比較的高く不連続なヨシ原でも連続した個体群を形成できると考えられる。霞ヶ浦周辺のヨシ原パッチの分布ととオオヨシキリの生息モデルを構築した。霞ヶ浦周辺におけるヨシ原の面積は約30km2であり、総面積の1.4-1.3%にすぎない。この20年間で、この地域のヨシ原の総面積は7%程度減少しているが、ほとんど変化がないが、霞ヶ浦湖岸のヨシ原が減少し、利根川流域の水田地域でヨシ原の増加が認められた。また、ヨシ原の平均面積は、20年前には14.2±1.9 ha(平均±SE、N=783)であったものが、現在は3.1±0.32 ha(N=857)へと減少し、断片化が進んでいることを示していた。さらに、オオヨシキリの平均縄張りサイズ(約500m2)から、縄張り雄の総数を計算した結果、最近20年間に約25万羽から約6万羽ヘと激減していることが推定された。ロジスティック回帰モデルを用いた解析から、オオヨシキリの生息確率はヨシ原の標高が低いほど高くなるが、面積が0.5ヘクタール以上ある大きいヨシ原から距離が離れるにつれて低くなることがわかりました。このモデルを、荒川流域への適用した。荒川流域のヨシ原は標高50m以下の河川沿いに線上に分布していた。荒川の流域面積2940km2においてヨシ原は0.32%の9.4km2しかなかった。霞ケ浦周辺のヨシ原面積率1.2%に比べてもかなり少ない。荒川流域のヨシ原は、標高が低く、ヨシ原間距離が短いので、利根川のモデルからは、すべてのヨシ原にオオヨシキリが生息に適していると推定されたが、実際にはヨシ原の形状指数が小さい質の悪いヨシ原にはオオヨシキリが分布していなかった。

 広域の生息予測を行うために、自然環境保全基礎調査(通称、緑の国勢調査)のデータを用いて繁殖鳥類の生息分布を予測した。鳥類生息分布調査は、関東全域の3次メッシュの約3%強をカバーしているにすぎない。関東地区の3次メッシュの16箇所で観察された繁殖鳥類77種を解析し、ロジスティック回帰モデルによって生息分布を予測した。第5回調査のデータに第6回調査のデータを加えると、精度の向上がみられ、決定係数R2はハシブトガラスの0.05からルリビタキの0.73までばらついた。精度の悪いモデルの向上が認められ、AUC>0.8のモデルの種数が29種から58種へと倍増し、生息をうまく説明できないモデル(AUC<0.7)は14種から5種へと激減した。生息環境別に各鳥種のモデルの精度をみてみると森林性鳥類ではモデルの精度が比較的高いが、農耕地の鳥種ではモデルの精度が低く、体重が大きくなるにつれて3次メッシュ単位で得られた生息予測モデルの精度が悪くなっていく傾向が見られた。地形と植生だけで繁殖鳥類の分布の15〜75%は説明可能であった。