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生物多様性セミナー 2005年11月

炭素・窒素安定同位体比による達古武沼生態系の評価

高村典子 (多様性機能研究チーム)


 釧路湿原東部に位置する達古武沼では、ここ10年足らずの間に急激に富栄養化が進 み、沈水植物群落の後退が起きている。本研究では、釧路湿原達古武沼に生息する大 型水生動物種の炭素・窒素安定同位体比を測定することで、現在の達古武沼生態系の 食物網の特徴について考察した。  達古武沼では、夏季に沼北でシアノバクテリア(Anabaena smithii)によるアオコ が大発生する。一方、沼南では沈水植物やヒシとネムロコウホネ群落がある。こうし た植生の違いに対応するようにpH、溶存無機炭素、クロロフィルa量などに南北の勾 配がある。夏の懸濁態有機物質(POM)のδ13Cとδ15Nの沼全域の分布も、この勾配 に対応するようにδ13C値は北で高く南で低く、δ15N値はこの逆であった。主にPOM を濾過摂食するドブガイのδ13Cとδ15Nの関係は夏のPOMと同様の傾向を示した。ド ブガイの他に、外来種ウチダザリガニ、スジエビ、イバラトミヨおよびジュズカケハ ゼのδ13C値は、沼北で採集した個体の平均値が沼南のそれより有意に高かった。そ のため、これらの種はPOMを起点とした食物連鎖上に位置し、比較的定着性が強いと 考えることができた。イシカリワカサギは沼北と沼南の間でδ13Cとδ15Nともに有意 差はなかった。これは、本種が高い遊泳性をもつことと整合する。反対に、エゾウグ イとヤチウグイ(絶滅危惧種)では、有意差はないものの沼南で採集した個体のδ 13C値が沼北のそれより高かった。しかし、δ15N値は沼南で採集した個体が沼北のそ れより有意に高かった。そのため、両種はPOMを起点とする食物連鎖上に位置しない と推察された。イトヨ太平洋型のδ13C値は他の生物種から離れて高い値を示し、遡 河回遊型の特性がδ13C値に現れていた。ドブガイを第一次消費者(trophic position =2)と仮定してPOMに依存している生物種のTPを求めた。ウチダザリガニ (沼北2.3;沼南2.1)、スジエビ(沼北2.7;沼南2.6)、イバラトミヨ(沼北2.7;沼 南3.0)、ジュズカケハゼ(沼北2.8;沼南3.0)、ワカサギ(3.1)、イシカリワカサギ (3.2)、イトヨ稚魚(2.4)であった。