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生物多様性セミナー 2005年6月

自然環境保全基礎調査のデータを用いた生息適地の推定:トンボを例に

椿 宜高 (プロジェクトリーダー)


 野生生物の保全には、何がどこに、どれだけ棲んでいるかをまず知る必要がある. い場所で種や個体数を推定するには、ワナをつかったり、写真を撮ったり、標識放 逐するなど、さまざまな調査法が考案されている。しかし、このような方法で日本中 をくまなく調査するのは実際上不可能であるので、大きな空間での生物分布を知るに は、過去の採集(観察)記録の集積を用いて推定するしかない。このような観察記録 が集められている最大のデータベースは自然環境保全基礎調査にある。ボランティア の協力による国家的なレベルでの調査は、イギリス、アメリカなどでも行われてお り、国全体をカバーする貴重なデータを提供しているが、そのデータの質につぎのよ うな共通の問題をかかえている。(1)調査が系統だったものではないので、調査そ のものに地理的なバイアスがある。(2)生息の記録はえられるが、非生息の記録は ない(原理的に非生息は証明できない)。(3)記録の濃淡が種によって異なる.た とえば、記録員は希少種を記録するのは熱心だが、普通種には関心が薄いこともある ようである。(4)個体数の記録がない。データの質の問題の一部(特に2)を解消す る方法(信頼性の高いデータだけを選ぶ方法)を考え、それにもとづく地理分布要因 の解析をトンボについて行った.データのスクリーニングを行った結果、種の分布と ランドカバー比率との相関がかなり高くなり、ランドカバーから生息適地の推定が可 能になった種が大幅に増えた.用いたグリッドサイズは約10kmなので、昆虫にとって は大きすぎる単位であると思えるが、それでも統計的に有意な結果が多くの種につい て得られたことは興味深い。