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生物多様性セミナー 2004年4月

外来種シグナルザリガニの生態的影響:
絶滅危惧ザリガニ駆逐のメカニズムならびに在来底生動物群集への直接効果と間接効果

西川 潮 (多様性機能研究チーム)


 北海道では、北米原産の外来種シグナルザリガニ(ウチダザリガニ;Pacifastacus leniusculus)が絶滅危惧種であるニホンザリガニ(Cambaroides japonicus) を置き換えてきているが、種の置き換わりのメカニズムや、 シグナルザリガニが在来生態系の食物網構造に与える影響はこれまでほとんど調べられて いない。ヨーロッパでは、シグナルザリガニが甲殻類特有の伝染病(水カビの一種: Aphanomycis astaci)を媒介した結果、土着のザリガニ個体群を壊滅状態に追いやっ た背景があり、国内においてもこの伝染病の保菌状態が懸念されている。 これらの背景を踏まえて、 シグナルザリガニが水カビの保菌者であるかどうかを生化学的手法(PCR法) を用いて調査した。その結果、調査を行った屈斜路湖、阿寒湖、摩周湖、 および置戸湖すべてにおいて水カビのキャリア個体が確認された(調査個体の4〜50% が保菌)。水カビ媒介以外のメカニズムとしては、 隠れ家を巡る競争(捕食者から身を守るために重要) においてシグナルザリガニがニホンザリガニよりも圧倒的に優位であることや、 外来ザリガニによる在来ザリガニの捕食などが挙げられ、 これらも種の置き換わりに寄与していると考えられる。  

異なる齢クラスのシグナルザリガニが在来底生動物群集に与える影響を評価する目的で、 人口水路を用いて野外実験を行った。その結果、 シグナルザリガニは著しくトビケラ幼虫や巻貝の仲間を捕食し、 底生動物群集の密度や分類群構成に影響を与えたが、 その影響力の大きさは一齢個体であっても三齢個体と同様に強力であった。さらに、 底生動物分類群によってはシグナルザリガニから受ける直接・ 間接効果の符号や影響力が異なったことから、 一齢個体と三齢個体では機能的役割が異なることが示唆された。 最後に、今年度釧路湿原の湖沼で計画しているプロジェクト研究「外来(シグナル) ザリガニが沈水植物に及ぼす直接的・間接的影響の評価:隔離水界実験」 の実験計画を発表する。