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生物多様性セミナー 2003年11月

遺伝子組換え植物の挙動調査用マーカー及び新たな組換え体解析手法の開発

玉置雅紀(分子生態影響評価チーム)


生物多様性プロジェクトのサブテーマとして、 「(1)遺伝子組換え植物の挙動調査用マーカーの開発とこれを用いた導入遺伝子の拡散評価」、 「(2)マイクロアレイを用いた新たな組換え体解析手法の開発」 について行った研究成果を紹介する。

(1)遺伝子組換え植物の挙動調査用マーカーの開発とこれを用いた導入遺伝子の拡散評価

(研究の背景) 遺伝子組換え作物は、農水省が作成したガイドラインに則った安全性評価手法、管理手法で 開放系における栽培が認可されている。しかしながら、このガイドラインの下では遺伝子 組換え植物の環境に与える影響評価、特に導入遺伝子の他の植物への伝搬確率の解析は、 繁雑な手順を必要とする方法で行われているため必ずしも十分な検 体数に対して 行われていない。今後、この技術の野外への適用(例;ファイトレメデ ィエーション) が予測されるため、これまでのガイドラインの枠内での環境影響評価手法は不十分になる ことが考えられる。 そこで、組換え遺伝子の拡散を簡便に見るための新しいマーカー 遺伝子の開発を行った。

(結果) 組換え遺伝子の拡散を簡便に見るための新しいマーカー遺伝子として、「(1)葉の 形態異常を引き起こす遺伝子」、「(2)体色変化を引き起こす遺伝子」、を候補に 挙げ、それらの植物への導入と導入による生育特性の変化を調べた。 

(1) 葉の形態異常を引き起こす遺伝子

タバコより単離したホメオボックス遺伝子 (NTH15) の導入により、葉の形態異常を示す シロイヌナズナの組換え系統がいくつか得られた(図)。これらの生育特性を調べた ところ、野生型に対して組換え体で栄養成長や種子の発芽率、種子の生重量の減少が みられた。一方、開花期に違いは見られなかった。以上の結果から、この組換え体は 挙動調査用のマーカーとして使うにはふさわしくない事が示唆された。

(2)体色変化を引き起こす遺伝子

次に、体色を変化させる遺伝子を導入した組換え体の作成を行った。具体的にはクラゲ より単離された、GFP(Green Fluorescent Protein)遺伝子及びトウモロコシより単離 されたR geneをシロイヌナズナで過剰発現した。その結果、どちらの遺伝子の導入 によっても遺伝子組換え体と野生型とを可視的に区別することができることができた(図)。 これらの植物のうちGFP導入シロイヌナズナの生育特性を調べた結果、今回調べたすべての 特性に違いは見られなかった。

以上の結果から、組換え遺伝子の拡散を簡便に見るための新しいマーカー遺伝子としては GFPが優れていることが明らかになった。そこでこの組換え体を用いてシロイヌナズナ 野生型とGFP導入遺伝子組換え体との共存栽培による導入遺伝子の交雑による拡散調査を 行った。その結果、導入遺伝子は0.45%の頻度で野生型に移行することが確認できた。

(2) マイクロアレイを用いた新たな組換え体解析手法の開発

(研究の背景) OECDで合意されている遺伝子組換え生物の安全性評価のための最も基本的な考え方として、 「実質的同等性」が挙げられる。これは、導入する遺伝子が産生するタンパク質の安全性を 確認し、また組換え農作物とその元の農作物とを比較して成分・形態・生態的特質等に おいて変化がなければ、食品としての安全性については元の農作物と同等であると判断する というものである。この考え方は、世界保健機構、国連食糧農業機関の報告書においても 用いられているものであり、先進国を中心に広く採用されている。本研究ではこの概念が 分子レベル(遺伝子レベル)でも適用可能かどうかの検証を組換え体を用いたマイクロ アレイ解析により解析した。

(結果) サブテーマ(1)で作製した遺伝子組換えシロイヌナズナ(35S::NTH及び35S::GFPを導入) を用いて、約4000種類の遺伝子を載せたマイクロアレイにより遺伝子組換え体における 遺伝子発現プロファイルを野生型と比較した。その結果、いずれの組換え体においても 野生型に比べ遺伝子発現が大きく変化していることが確認できた。このことから 「実質的同等性」は分子レベルでは成立しない可能性が示唆された。また、2倍以上 発現変化する遺伝子の染色体上での分布を調べた結果、特にこれらの遺伝子の染色体の 特定領域への偏在は確認されなかった。しかしながら、2つの組換え体において発現が 減少する遺伝子に共通性が高く、またそれらの遺伝子のプロモーター領域には遺伝子導入に よく使われるCaMV35Sプロモーターと相同性の高い領域が存在することがが明らかになった。 このことから、遺伝子組換え体では導入遺伝子のプロモーターとこのプロモーターと共通の モチーフを持つ遺伝子のプロモーター間でtrans因子の取り合いが生じ、結果的にこれらの 遺伝子の発現量が減少する可能性が考えられた。