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生物多様性セミナー 2003年5月

極小の生物を追跡する − 定量的PCR法による地下水中からの特定微生物の検出法の開発

岩崎一弘(分子生態影響評価研究チーム)


組換え微生物の開放系利用における安全性に関する研究では、導入する微生物の生態系 影響評価のみならず、環境中での生残性・増殖性、および遺伝子の伝播・拡散等を モニタリングすることが重要である。環境中での菌体の検出方法には、一般に直接検出法、 培養法、DNAプローブ法やPCRを応用したDNAレベルでの検出法の3つが挙げられる。 直接検出法は菌体の直接検鏡による計数で、培地が特定できない等培養が困難な菌体も 検出が可能である。しかしながら、土壌等の環境試料中では菌体の判別が困難であり、 特異性および感度が低い。培養法は操作が簡便で大量のサンプルを処理できるため、 広く用いられてきた方法であるが、培養が必須である点が欠点である。 また培養が可能な場合でも、同属の微生物との判別は比較的困難である。 DNAプローブ法やPCR法を応用したDNAレベルでの検出法は特異性が高く、対象微生物の 遺伝学的な情報がわかっていれば、非常に近縁な微生物間でも区別して検出できる。 しかし環境中のすべてのDNAを回収できるわけではないこと、たとえDNAを検出できたとしても、 そのDNAの由来が生きている微生物のものか死んでいる微生物のものかわからない等 の問題点がある。環境中から菌体を検出し、モニタリングするには、このように 各手法の長所・短所を踏まえ、その菌体の特性に応じた手法を用いることが重要である。 本セミナーでは、これまでその検出に1ヶ月以上の日数を要していた トリクロロエチレン分解菌 Methylocystis sp. M株をモデル微生物として、 そのDNAを標的とした迅速で特異的な検出に関して紹介した。

できるだけ計数作業を簡便にするため、またDNA抽出のバイアスの影響を少なくするため M株細胞を試料とした直接PCR法による検出法の開発を行った。M株の有する メタンモノオキシゲナーゼは、膜結合型(pMMO)および可溶性(sMMO)の2種類が存在する。 このうちsMMOは、基質特異性が低くトリクロロエチレン(TCE)の分解に大きく関与している。 これまで知られている各種メタン酸化細菌のsMMOの塩基配列を比較し、 M株のみを検出できるようなPCR用各種プライマーを設計した。定量的PCR法としては、 競合的PCR法、MPN-PCR法などの反応後のPCR産物を評価する方法、 またPCR反応の定量域で解析する方法などが考案されている。 本研究ではより簡便に正確な定量を行うために ABI PRISM 7700TM Sequence Detection Systemを用いたPCR反応の酵素化学的動態解析によって 検出・定量を行った。各種PCR条件の最適化を行い、非常に高感度に (検出限界はPCR反応あたり1-5cells)に計数可能な手法が開発できた。 今後は、さらに特定mRNA量の定量法を検討し、遺伝子の存在だけではなく、 その発現についても評価する手法を開発したいと考えている。