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生物多様性セミナー 2003年7月

ダムによる流域分断と淡水魚類の多様性

福島 路生 (多様性機能研究チーム)


ダムによる流域の分断が淡水魚類の多様性に与えてきた影響を、定量的かつ広域的に評価した。 調査対象としたのは北海道全域である。

北海道で過去に行われた魚類相調査からGISによるデータベースを作成し、全道7,000以上の 地点における魚類相を明らかにした。さらに全道のダムの建設状況を、同じくデータベース化 することで、すべての魚類調査について、その地点のダムによる分断の有無も調べた。 地点ごとに採集された淡水魚の種数を“種多様度”と定義し、それが各地点の (1)標高、 (2)調査年代、(3)ダムによる流域分断の有無という3つの要因とともに、どのように 変化するかを同時に表した(下図)。全部で6つのパネルが描かれてあるが、縦軸はすべて 地点ごとの種多様度であり、横軸は標高である。また左から右にかけて1970年代以前、 1980年代、そして1990年代以降のデータを示す。そして上段3つのパネルがダムに 分断されていない流域のデータで、下段が分断流域でのデータを示す。

図: 種数 vs 標高

どのパネルからも淡水魚の種多様度が標高とともに急激に低下する傾向が見られる。 さらに時代間で比較すると、90年代になってから同じ標高帯で著しく種多様度が 増加していることが分かる。それは、90年代に入って外来魚などが道内に蔓延して きたことと、淡水魚類の調査方法に採集効率が極めて高い、電気ショッカーが 採用されるようになったこと、で説明できる。

問題はダムの影響である。6つのパネルを今度は上下に比べてみる。ダム分断流域での 調査地点(下段3つのグラフ)は、1基以上のダムの上流に位置する地点のことであり、 当然ながら本来魚類相が豊かな下流域には調査地点が多くない。それを考慮しても、 これらの地点に種多様度が10を越える地点がわずか2地点しかないのは少なすぎる。 90年代の2つのグラフを上下に比べてみると、標高ゼロの河口地点で回帰モデルによって 推定された多様度の期待値は、上のグラフでは5以上あるのに対し、下のグラフでは 4しかない。

さらに詳細な解析結果から、ダムができて減少する魚たちは、サクラマス、アメマス、 スナヤツメ、ジュズカケハゼ、トミヨ、ウグイ、カワヤツメ、イトヨ、モツゴ、 ヌマチチブの10種であることが分かった。これらは海と川を行き来する、いわゆる “通し回遊魚”である。回遊という生活史上とらなくてはならない行動を阻害するダムが、 これら回遊魚の存続を脅かしていることが明らかとなった。