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生物多様性セミナー 2003年1月

「鬼の居ぬ間」メカニズムは森の木々の共存を促進するか?

竹中明夫(群集動態研究チーム)


サンゴのように,生存場所をめぐって競争している固着性の生物の群集では, 繁殖の時間変動が多種の共存を促進することが理論的に示されている. よってたくさん卵を作るとき,作らないときがあり,そのバラツキが種内では 同調しているけれども違う種のあいだではバラバラであるような変動があると, 少数者が絶滅しにくくなる. ある時点で個体数が多い種が,たまたま卵を作らなかったときに, 個体数が少ない希少種が卵を作って広くばらまけば,その時点に空き地になっている 場所を希少種の子供が占有して,個体数を挽回できるからである. この挽回の仕組みを「鬼の居ぬ間」メカニズムと呼ぼう.

このメカニズムは森林でも働くだろうか.たしかに森林の構成種では種子の生産に 時間変動がある例は多い. しかし,種子の大部分は親木の近くに散布されるし,希少種は森林のすべての 林冠ギャップ(成木が死んでできた明るい場所)を埋めるほど多くの種子は作れない. また,林冠ギャップを埋めるのはギャップ形成後に散布された種子ではなく, もともと林床に存在していた稚樹であることが多いなど,森林では上の仮説の 前提とあわない部分がいくつもある.それでもこのメカニズムは有効に 働き得るのかを,森林の個体ベースモデルを使って検討した.個体ベースモデルとは, 一個体一個体を明示的に区別して取り扱うモデルで,個体ごとの個性, 個体間の局所的な相互作用,個体数の有限性などが重要な意味を持つようなシステムを 表現するのに適している.

モデルを使ったシミュレーション実験の結果,

などが明らかとなった.