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生物多様性セミナー 2002年9月

微生物生態学の視点から
モニタリング研究と模擬汚染土壌研究から見えてきたことと今後

冨岡典子(分子生態影響評価研究チーム)


環境中の細菌群集については、生物としてのバイオマスとしては地球上で最も多いと言われながら、これまではブラックボックスとして取り扱われてきた。その原因としては、細菌が非常に小さく、また形態的特徴に乏しいため、これまでの研究では検鏡による細菌数の計数若しくは、特定の培地に増殖した菌種についての検討以外に研究の手法がなかった事が挙げられる。近年発達してきた分子生物学的手法を利用することにより、これまで明らかにすることができなかった細菌群集についての研究が可能となった。今回は、富栄養湖と放射線汚染土壌という環境における細菌群集の挙動についてモニタリングと模擬汚染土壌という手法で行った研究についてまとめて報告した。

1)霞ヶ浦の細菌群集構造の季節変動と地理的遷移についてPCR-DGGE 法およびクローンライブラリー法を用いて2年間毎月微生物群集解析を行った。

その結果、湖水の細菌群集の地理的変動は比較的小さく、季節変化が大きい事が明らかとなった。DGGEのバンドの塩基配列を決定した結果、季節変動にSynechococcusに近縁の藍藻と湖沼に分布していると考えられる未分離のActinobacteria に近縁の種が大きな影響を与えていることが明らかとなった。また、季節変動は2年間繰り返す傾向が認められ、特に、Actinobacteria に属する細菌のバンド占有率の変化は温度と高い相関を示した。地理的変動の検討に追加して、河川流入部と湖水の細菌群集の比較を行ったところ、後背地の異なる2本の河川の細菌群集は類似しており、流入湾域の細菌群集構造とは大きく異なることが明らかとなった。

2)放射能汚染が土壌細菌群集構造に及ぼす影響評価

放射能の土壌生態系に対する影響の知見はほとんどないので、培養法、生物活性測定、PCR-DGGE法に基づく細菌群集構造解析を組み合わせて、その影響を解析した。その結果、生菌数と変異原性物質に対する耐性および土壌の酵素活性については137-Csの影響は認められなかった。細菌群集構造については、100Bq/g以下の濃度では影響は認められなかったが、1kBq及び10kBq/g添加においてはその群集構造の変化が137-Cs無添加と異なっていた。今後これらの現象の確認及び長期暴露の影響についてさらに検討していく必要がある。

<主な質問について>

(質)河川と湖沼の微生物群集の違いについてこれまでに知見はあるか。

(答)長江において湖沼部において微生物群集が異なるとの報告がある。

(質)霞ヶ浦における微生物群集研究の目的は。

(答)これまでブラックボックスであった細菌群集の変動についての研究は必要であると考える。また、霞ヶ浦は富栄養湖であり、藍藻のブルームが問題となっている。このブルームの消長と細菌群集の関連についても検討を行い、藍藻のブルームの予測と制御につなげることも目的としたが、月ごとの頻度では、藍藻のブルームと細菌群集についての関連は認められなかった。