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生物多様性セミナー 2002年5月

外国産マス類に脅かされる在来渓流魚:種間交雑現象を多面的に捉える

北野 聡(長野県自然保護研究所)


種間交雑は侵入生物が在来種の存続を脅かすプロセスのうち目につきやすい現象 のひとつであり,交雑個体の遺伝的背景に関する研究は数多い。しかし,交配→ 発生→生存を経て目につくようになる中間型個体の遺伝子解析だけでは交雑現象 の全体像を捉えることはできない。

このセミナーでは,外国産サケ科魚類と在来魚(イワナ)との間で頻繁に起きて いる交雑現象の行動学的側面を紹介する。調査地となった長野県上高地の渓流域 には外国産サケ科魚類(カワマス,ブラウントラウト)が定着に成功しており, カワマスとイワナとの中間型が高い頻度で見つかることで有名な水域である。

観察の結果,中間型の形成プロセスとしてはイワナ♀xカワマス♂の組み合わせ がその逆に比べて高い頻度で起こっていることがわかった。また異種間配偶は中 間型を含めた4種間のほとんどの組み合わせで認められ,とくに繁殖期が一番先 にあるイワナが後に繁殖期を持つ他種♂と配偶する頻度が高かった。イワナxカ ワマス中間型以外のF1はおそらく発生の段階でほとんどが消失すると考えられる が,このような非対称な異種間配偶は在来種の再生産を阻害する要因としてきわ めて重要であることが示唆される。

最近になって対象種群の遺伝子解析も進めている。マイクロサテライトDNAの3つ の遺伝子座(Sfo12, Ssa197, U85)は交雑個体の親種判別識別に利用可能であり, 中間型からはイワナxカワマスのF1世代だけでなくPost-F1も確認された。今後, ミトコンドリアDNAの情報も併用して種間交雑の非対称性を証明する予定である。